明日の株式相場に向けて=米利下げ遠のき日銀は利上げ準備へ
きょう(11日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比139円安の3万9442円と続落。再び前方視界不良の地合いを余儀なくされている。振り返って新年度入り第1週となった前週は、日経平均が週間で1400円近い下げをみせた。そして今週は週末にオプションSQ算出を控え、仕掛け的な売りも警戒されたが、前半2日間は上昇し合計で780円程度水準を切り上げ、市場関係者の間にも安堵感が漂った。しかし、この安堵感が株高に向けた自信や確信へと変わっていくには、まだ大分距離があるようだ。
外部環境の不透明感が拭えない。米株市場ではNYダウが前日に大きく下げて75日移動平均線を下回ったことから、東京市場でも再び疑心暗鬼ムードが高まりつつある。耳目を集めた3月の米消費者物価指数(CPI)は、前日の米株市場の朝方取引開始前に発表されたが、前年同月比の上昇率が3.5%と2月の3.2%から伸びが加速し、エネルギーと食品を除くコア指数の前年同月比の上昇率は2月と並びの3.8%だった。結果として総合・コアいずれも事前コンセンサスを上回った。
これを受け、FRBによる6月利下げ実施の可能性はかなり後退したと言わざるを得なくなった。市場関係者からは「高止まりするサービス価格に加え、足もとの原油をはじめとするコモディティ価格の高騰を考えれば、利下げどころか利上げの必要性すら想起させる。年内は3回の利下げ見通しが2回に減少するというような話しではなく、利下げそのものができない可能性も高い」(ネット証券マーケットアナリスト)という見方が示されていた。CPI発表を受けて米長期金利が4.5%台半ばまで上昇し、株式市場の相対的な割高感が意識されるお決まりのコースで、NYダウは一時580ドル近い下げを強いられた。
NYダウ大幅安を引き継いだ東京市場だったが、リスクオフの緩衝材として期待されたのは外国為替市場の動向である。想定を上回る強い内容だったCPIは米長期金利を跳ね上げるとともに、日米金利差拡大を背景としたドル高・円安を加速度的に誘導、一気に1ドル=153円台まで円が売り込まれる場面に遭遇した。FXトレーダーが歓声あるいは悲鳴の嵐となったことは想像に難くないが、株式市場においても約34年ぶりといわれる急激な円安はインパクトのある材料であることに変わりない。
株式市場では通常、円安はポジティブに作用する。日本はハイテクや自動車など外需依存型の産業構造で、円安は企業の全体収益を押し上げる効果があるためだが、理屈的な部分はともかく、感覚的にも昔から「円安はリスクオンで、円高はリスクオフ」という不文律がマーケットに浸透し切っている。円安は株式市場にフレンドリーであり、これは政府・日銀が抱いている思惑と軌を一にしない。ちなみにトヨタ自動車<7203>は1円のドル高・円安によって営業利益ベースで約500億円の押し上げ効果が発現する。同社の前期(24年3月期)想定為替レートは1ドル=143円であるから、実勢との比較で(机上論として)ざっくり5000億円の上振れ要因である。もっとも、きょうのトヨタの株価は堅調ではあったが、前日の下げ分を埋める程度で勢いを欠いた。なお、日産自動車<7201>やホンダ<7267>、マツダ<7261>といった他の自動車メーカーは軟調な銘柄が目立つ。ドル買い・円売りの動きが早晩逆流する可能性を気にしているように見えなくもない。
きょうは鈴木俊一財務相が「行き過ぎた動き(円安)にはあらゆるオプションを排除せず、適切に対応していく」とかなり強い姿勢で牽制発言を行っている。実質賃金減少が続くなか、政府・日銀サイドとしては需要が主導しないコストプッシュ型インフレは是が非でも避けたいという意思が感じられる。だが、為替介入では投機筋の動きに明確なブレーキはかからない。つまり、国内ではいつ日銀が利上げのカードを切るかに焦点が当たり始めた。歯止めのかからない円安が日銀に強烈なプレッシャーをかけ、植田総裁がたまらず利上げカードを切るまでのカウントダウンが始まれば、株式市場も耳をふさぐことはできない。
あすのスケジュールでは、3カ月物国庫短期証券の入札、2月の鉱工業生産確報値など。また、この日はオプションSQ算出日にあたる。海外では韓国中銀の政策金利が開示されるほか、シンガポール金融通貨庁が金融政策の発表を行う。また、3月の中国貿易統計、シンガポールの1~3月期国内総生産(GDP)、3月の米輸出入物価指数、4月の米消費者態度指数(ミシガン大学調査・速報値)など。なお、タイ、インドネシア市場は休場。(銀)