明日の株式相場に向けて=地政学リスクに共鳴する電力株
週明け15日の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比290円安の3万9232円と反落。前週末の米株急落を受けて市場のセンチメントは急速に弱気に傾いた。米株市場ではNYダウが4月に入ってから直近までの10営業日で上昇した日がわずか1日だけ、1勝9敗という体たらくで、単なる調整というには憚(はばか)られる崩れ足を形成している。ダウが25日移動平均線を下回ることは今年に入ってからも複数回あったが、今回は25日線はおろか、長期の75日線も一気に踏み抜き、更に逡巡することなく下放れる展開で、投資家の不安心理を煽っている。
欧州経済と比較して米国経済の強さが際立っていること、これが米国株が先駆して売られる背景というと一見不思議な感じもするが、この経済実勢の差がFRBとECBの金融政策の方向性に影響を与えているからにほかならない。ECBは6月利下げに動く公算が大きく、一方でFRBはどうやら6月利下げのカードが切れない可能性の方が高くなってきた。市場関係者の間でタカ派見解を示す向きは「年内に米国は1度も利下げできない」(中堅証券ストラテジスト)という意見すらある。米株市場ではさすがにそこまでは織り込んでいないはずだが、足もとのダウの崩れ方は明らかに変調で、その超タカ派シナリオもおぼろげに意識されている可能性がある。
米国の経済の強さもさることながら、やはりエネルギーや金価格をはじめとするコモディティ市況の高騰がインフレ再来を暗示する。中東の地政学リスクは投機マネーにとって絶好ともいえる仕掛けの糸口となっているだけに予断は許されない。
そうしたなか、イスラエルのイラン大使館攻撃が端緒となり株式市場も迷い道に入ったが、ラマダン明けにイラン側の報復攻撃は想定されたところだった。攻撃規模としては大きくても、被害は小さいということがイラン側も想定していたフシがある。イスラエルの迎撃が可能なミサイルや低速なドローンを使った攻撃は、「プロレス的な要素が強い」(ネット証券マーケットアナリスト)という声も聞かれた。つまり、イランは本気で報復攻撃を仕掛けるつもりはなく、お互い引っ込みがつかなくなるという選択肢は回避したいという思惑が透けて見える。米国としてもやり過ぎのイスラエルを支えるのもさすがに限界。ここにきてバイデン米大統領は報復の連鎖を戒める方向で、ネタニヤフ首相に要請したことが伝わっており、この流れで中東の地政学リスク極大化への懸念はいったん後退しそうだ。
全般不透明感が強まるなか、株式市場ではコモディティに絡む銘柄群に資金をシフトする動きが観測される。きょうも資源・エネルギー関連株が強さを発揮。引き続き住友金属鉱山<5713>の上値指向が鮮明で、きょうは今月10日につけた5399円の高値を払拭し新値街道に復帰。中長期波動では昨年3月2日につけた高値5515円が戻りの要衝でここをクリアできれば6000円台活躍が見えてくる。
また、電力株の強さも相変わらずで、低PER・低PBRが光るバリュー株の一群としてもテーマ物色の流れを後押ししている。象徴株として活況高の様相を呈しているのは、柏崎刈羽原発の再稼働に向けた思惑が現実味を帯びてきた東京電力ホールディングス<9501>。ただ、同社株については復配が見込めない以上、“巨大仕手株”の位置付けとなる。一方、理論的にも買える銘柄として泊原発再稼働への期待が根強い北海道電力<9509>は依然として注目。半導体設備の拡充やデータセンター増設で電力需要の増大が取り沙汰されているが、同社はラピダス関連ということでその最右翼にある。このほか、TSMC熊本工場の電力需要に対応するのは九州電力<9508>。こちらは今年2月に、川内原発と玄海原発が新耐震基準に適合していると原子力規制委員会のお墨付きを得て運転継続中だ。
あすのスケジュールでは、国内では特に目立ったイベントは見当たらないが、IPOが1社予定されており、東証グロース市場にWill Smart<175A>が新規上場する。海外では、1~3月期中国実質国内総生産(GDP)、3月の中国70都市の新築住宅価格動向、3月の中国工業生産高、3月の中国小売売上高、3月の中国固定資産投資、3月の中国不動産開発投資、2月のユーロ圏貿易収支、3月の英失業率、4月の欧州経済センター(ZEW)の独景気予測指数、3月の米住宅着工件数、3月の米鉱工業生産・設備稼働率など。なお、タイ市場は休場となる。(銀)