山岡和雅が年後半の為替相場の行方を読む! <GW特集>
「歴史的な円安はどこまで続くのか?」
●円安反転の鍵となる2つのポイント
2024年に入ってドル高・円安が進んでいます。3月27日にドル円は1ドル=151円97銭を付け、2022年10月の高値151円95銭を上回って、1990年8月以来、約34年ぶりのドル高・円安水準となりました。その後もドル高・円安は継続し、4月29日には一時160円17銭と、心理的節目であった160円をも超えています。その後、財務省による為替介入とみられる大口のドル売り・円買いで154円台を付けましたが、介入効果が一服した後は、再びドルが買われています。
なぜ、ここまで歴史的なドル高・円安が進んだのでしょうか。最も大きな要因は、日本と米国の金利差です。
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)を受けて、世界的に金利が低下し、米国も2020年3月に政策金利を事実上ゼロとしました。日本は2016年1月の会合でマイナス金利を採用していますので、この時点で日米の金利差はほとんどありませんでした。
その後、アフターコロナに伴う需要の拡大と、ウクライナへのロシア軍の侵攻を受けた穀物、エネルギー価格の上昇を受けて、世界的に物価が高騰します。米国の消費者物価指数(CPI)は2020年5月の前年比+0.1%から2022年6月に同+9.1%まで上昇。生活に直結する食品価格などは前年比10%を超える上昇が続きました。そうした物価の上昇を抑えるために、米連邦準備制度理事会(FRB)は積極的に利上げを実施します。2022年3月にスタートした米国の利上げは2023年7月まで続き、政策金利は5.25~5.50%まで引き上げられました。
一方、日本でも物価の上昇が進んだものの、2020年12月に消費者物価指数(生鮮除くCPI)前年比が-1.2%とかなりのデフレに陥っていたこともあり、物価のピークは2023年1月の+4.2%に留まりました。そのため、日銀は世界の中銀の中でも珍しく利上げに向かわず、今年3月までマイナス金利を維持しました。
こうした金融政策の違いもあり、日米の金利差は短期で5%を超えています。長期金利(10年物国債金利)の差も、昨年10月時点で4.1%超まで広がるなど、かなりの大きさとなっています。
金利が高くても、例えばトルコリラのように国自体の信用が棄損し、通貨安が進むようならば投資先としては選びにくくなりますが、米国の場合、好調な雇用市場に支えられて景気は日本よりも強く、ドルは世界で最も流動性があり安心、ダウ平均が史上最高値を超えるなど株式市場も好調と、投資先としての魅力にあふれているところに、日本と比べて金利がかなり高いとなれば、資金が日本から米国へどんどんと流れていく方が自然というわけです。
では、こうした状況は今後も続くのでしょうか。
日本は、3月の日銀金融政策決定会合でマイナス金利をついに解除、長期金利を低く抑えてきた長短金利操作(YCC:イールドカーブ・コントロール)を廃止し、ETFやJ-REITの買い入れを終了するなど、これまでの異次元の緩和政策の修正を決定しました。とはいえ、政策金利は0%~+0.1%と相当に低く、米国との金利差はまだ相当に大きいままです。
また、昨年末時点では早ければ今年3月にもと言われていた米FRBの利下げ開始ですが、米景気の底堅さや物価の高止まり懸念を受けて、今年に入って見通しが先送りされ続けており、直近では今年9月の利下げスタートが見通しの本線となっています。それどころか、一部のFRB関係者からは状況によっては利上げの再開を検討する発言まで出てきています。
そのため、3月の日銀によるマイナス金利解除後も、ドル高・円安の流れは止まっていません。それどころか、米国の利下げ見通しが先送りされるにしたがって、ドル高の圧力が強まる状況が広がりました。問題は、この流れが今後どこまで続くのかです。
ドル円は介入への警戒感などが上値を抑えつつも、じりじりとドル高が進むという展開が続いています。4月25日、26日の日銀金融政策決定会合で円安対応についての姿勢が見られなかったこともあり、日本が祝日で介入の期待がやや小さくなった4月29日に向けてドル買い・円売りが加速。26日昼頃の155円50銭前後から始まった上昇は、土日を挟んで29日午前の160円17銭まで一気にドル高・円安となり、その後の介入とみられる動き(公的には介入か否かの発表はありません)でいったん売りが入りました。
ただ、介入効果が一服した後はドル高・円安の流れに戻っています。米景気の底堅さが示され、金利も高いという中で、急いでドル売りに回る理由がないからです。
160円超えでのドル高・円安について、介入とみられる売りで当局からいったん牽制が入った形ですが、29日のドル売り直前のような激しい値動きではなく、ゆっくりとしたドル高・円安であれば、「行き過ぎた動きに対応する」という介入の大義名分が成立しにくくなります。また、当局はかねてより水準を決めての通貨貿易については否定的です。そのため、ゴールデンウイーク(GW)後に160円を超えてドル高・円安が進む可能性はかなり高いとみています(本稿執筆は5月1日)。
しかし、それが年後半にかけても続くかというと疑問です。米景気を支える個人消費について、直近のクレジットカードの延滞率上昇などにみられるようにやや無理が見られます。設備投資や住宅投資への影響もあり、米国は年内どこかのタイミングで利下げ実施の可能性が高いとみています。
また、ようやく動きを見せた日銀は、当面、緩和姿勢の維持を示していますが、賃金上昇を伴い景気回復が進む中で、追加利上げの期待が強まってくると予想されます。
米国が利下げを実施し、日本が追加利上げを行ったところで、まだまだ金利差は残ります。ただ、水準が縮まると円安圧力は低下します。
円安の進行が収まるだけでなく、反転に向かうかどうか。ポイントは二つあります。
一つは、米景気の鈍化がどこまで進むか。好調さを維持している米景気ですが、米国の第1四半期GDPは前期比年率+1.6%と昨年第4四半期の+3.4%から大きく伸びが鈍化。約2年ぶりの低い伸びとなりました。節目とされる+2.0%だけでなく、FRBがインフレを伴わない成長率としてみなしている+1.8%をも下回っています。こうした経済成長の鈍化が年後半にかけて強まると、ドルの売り圧力が強まります。
もう一つのポイントが「もしトラ(もしもトランプ氏が大統領に返り咲いたら)」リスクです。11月の米大統領選に向けて、現状では現職のバイデン大統領とトランプ前大統領の支持率が拮抗しており、どちらが次の大統領になってもおかしくありません。トランプ前大統領は選挙戦の中で前回以上に対中国強硬姿勢を強めており、大統領に就任した場合、米経済への悪影響が見込まれることに加え、世界経済の混乱が予想されます。前回大統領になった時はドル高となりましたが、今回に関してはいったんドル売りが強まる可能性が高いと見ています。
現状でとどまるところを見せないドル高・円安。GW明けもいったんは流れが続くとみていますが、年後半にかけては勢いを失い、状況によってはドル安・円高に流れが変わっていく可能性が高いと予想しています。
●ビットコインは一段の上昇に期待も、ドル円の下落局面は注意
その他通貨についても、簡単にまとめてみましょう。まずはユーロ。景気の鈍化懸念が強いことや、米国や英国と比べて物価の落ち着きがみられることから、6月の利下げ開始を織り込む動きが進んでいます。米、英の利下げ開始見通しが先送りされる中、ECB(欧州中央銀行)が年後半にかけて利下げを続けるようだと、対ドルでかなり頭の重い展開となりそうです。ユーロドルは2022年以来となる1ユーロ=1ドルを割り込む動きとなる可能性があります。ユーロ円はドル円の上昇が支えとなるものの、ドル円の上昇が落ち着く年後半にかけては対ドルでのユーロ売りが優勢になると見ています。
ポンドは対ユーロでの買いが見込まれますが、対ドルや対円ではユーロに準じる動きになる可能性が高いでしょう。
オセアニア通貨は難しい判断になります。豪州は第1四半期の消費者物価指数が予想を超える伸びとなったこともあり、早期の利下げ開始期待が後退。年内据え置きの可能性が出てきたことで、豪ドル買いが広がる可能性があります。ただ、ここにきて豪州の個人消費に落ち込みが目立っており、利下げ期待が再び強まる可能性があります。トランプ氏が次期大統領になり米中関係が悪化すると、対中輸出の大きい豪州の痛手となる点も懸念材料で、豪ドルはかなり不安定な動きが見込まれます。NZドルも状況はほぼ同じです。
最後に通貨ではありませんがビットコインについて触れましょう。今年に入って、米国でのビットコイン現物を対象としたETFの承認や、4月19日に迎えた半減期を前にした上昇期待から、ビットコインは対ドル、対円ともに大きく上昇しました。3月14日の7万3000ドル超えを高値に少し調整が入っていますが、6万ドル割れでは買いが入るなど、地合いは堅調です。
これまでの流れから半減期後は少し調整期間となることが多いですが、供給が抑えられることによって数カ月後からは大幅上昇が期待されるだけに、もう一段の上昇が期待されます。
ただ、年後半にドル円が下落する局面が見られると、リスク警戒の流れにつながる可能性があります。投機的要素の強いビットコイン市場はリスク警戒色の強い状況では売りが出やすい点には要注意です。円建ての場合、ビットコイン自体の下げと円高のダブルで値を落とす可能性があります。
2024年5月1日 記
★4月30日~5月6日に「ゴールデンウイーク特集」などを一挙、"35本"配信します。ご期待ください。
株探ニュース