人手不足解消のカギ握る「福利厚生」、商機捉える企業群に照準 <株探トップ特集>

特集
2024年5月16日 19時30分

―アウトソーシングの流れ強まり代行会社のビジネスチャンス拡大、家事代行などにも注目―

さまざまな分野で人手不足が深刻化している。帝国データバンク(東京都港区)の調査によると、2023年度の人手不足に起因する倒産件数は313件と過去最多を記録し、前年度から倍増した。また、4月16日から30日に全国2万7052社を対象とした調査では正社員が不足している企業の割合は51.0%に及び5割を超えて高止まり傾向が続いているという。

人材確保のための競争が激化するなか、企業の間で重要視されているのが 福利厚生の充実だ。それに伴い福利厚生代行や福利厚生に関連するサービスを手掛ける企業への関心も高まっており、ビジネスチャンスも拡大中だ。

●ハードからソフトへの転換進む

ここでいう「福利厚生」とは、いわゆる「法定外福利厚生」のこと。福利厚生には、「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」があり、法定福利厚生については法律で定められたもので、従業員を雇用している企業には導入が義務付けられており、健康保険、介護保険、厚生年金保険などがそれにあたる。一方、法定外福利厚生はそれ以外に企業が採用をしている手当や従業員の支援制度、健康支援、レクリエーションなどがあり、一般的に福利厚生というと、この法定外福利厚生を指すことが多い。

かつては福利厚生といえば、豪華な社員住宅や保養施設などのいわゆる「ハコモノ」が主流だったが、こうしたもので人を集める時代は既に終わっており、代わって増えているのが、さまざまなヒト(従業員)への支援だ。法律で定められている有給休暇制度などとは別に、企業が独自に設ける休暇制度や、従業員の健康促進への支援、育児・介護などのサポート、スキルアップの支援といったものがそれにあたり、ハードである「ハコモノ」からソフトへの転換が進んでいる。

●学生も福利厚生を重視の傾向へ

福利厚生の充実は、仕事選びの大きな要素となっている。マイナビ(東京都千代田区)が24年卒業予定の全国の大学生、大学院生を対象に実施した「マイナビ 2024年卒大学生 活動実態調査(4月)」によると、企業の福利厚生に関する情報について、勤務地・仕事内容・給料といった情報と比べてどの程度関心があるかを聞いたところ、「勤務地・仕事内容・給料と同程度関心がある」がもっとも多く63.4%となったという。

また、同じくマイナビ調べによる「2025年卒大学生 活動実態調査(4月)」でも、大手企業の選考に参加した学生に選考に参加する決め手となったものを聞いたところ「福利厚生が手厚い」が最多で51.5%となっており、これから社会人となる学生が仕事を選ぶうえで、いかに福利厚生を重要視しているかが見てとれる。

●アウトソーシングの動き強まる

福利厚生への関心が高まるにつれ、存在感を強めているのが、企業の福利厚生業務を代わって行う福利厚生代行サービスを提供する代行会社だ。こうした企業の多くは、健康診断やジムや飲食店、映画館などの割引利用、資格取得セミナーの受講などさまざまなサービスを提供している。かつては、こうしたサービスを自社単独で行う企業も多かったが、近年ではコスト削減のために アウトソーシングする動きが強まっており、福利厚生代行会社のビジネスチャンスにつながっている。関連銘柄として注目するのは、こうした福利厚生代行会社だ。

●福利厚生代行会社に注目

リログループ <8876> [東証P]は、子会社リロクラブが「福利厚生倶楽部」を展開しており、契約企業数は24年3月期末で1万2943社、会員数は719万人と業界トップクラスの規模を誇る。5月9日に発表した24年3月期連結決算で、福利厚生事業の売上高は249億7100万円(前の期比11.7%増)と2ケタ増となっており、福利厚生アウトソーシングのニーズの高まりを背景にした会費収入が順調に拡大している。

リソルホールディングス <5261> [東証P]は子会社リソルライフサポートが福利厚生代行サービス「ライフサポート倶楽部」を展開している。ホテルやゴルフ場など多くのグループ直営施設をメニューの一部として提供できることなどを強みに新規契約数を増やしている。5月9日に発表した24年3月期連結決算で、福利厚生事業の売上高は9億300万円(前の期比3.3%増)と売り上げを順調に伸ばしている。

また、5月20日に上場廃止となるベネフィット・ワン <2412> [東証P]の上場廃止前最後の決算となった24年3月期連結決算は、売上高389億6200万円(前の期比8.1%減)、営業利益76億1800万円(同27.3%減)となった。コロナワクチン接種支援事業の売上高が前の期比で32億円強減少した影響が大きく減収減益となったが、中核である福利厚生事業は、売上高の大半を占める会費収入が前の期比で増加したとしており、福利厚生の代行を行う同事業の堅調さがうかがえる。今年3月に同社をTOBにより傘下に収めた第一生命ホールディングス <8750> [東証P]も注目したい。

●家事代行などにも注目

また、福利厚生に関連したサービスを提供する企業にも注目したい。

ウォンテッドリー <3991> [東証G]は、1000以上のサービスを特別価格で提供し、福利厚生の充実を手軽に実現するサービス「Perk(パーク)」を提供している。今年2月にはPerk内の「ポイントが貯まる特典」を利用してポイントを貯め、貯まったポイントを特定のサービスで利用できるポイント機能の提供を開始しており、利用者獲得につなげる方針だ。

CaSy <9215> [東証G]は、掃除や料理などの家事代行サービス会社で、法人向けに「福利厚生プラン」を提供している。近年、従業員のパフォーマンス向上やワークライフバランスの改善・向上を目的に同プランを導入する企業が増加傾向にあり、既に50社以上の企業に採用されている。家事支援サービスに関しては、経済産業省の「家事支援サービス福利厚生導入実証事業」が開始されたことで、福利厚生の一環として今後広がりが期待されており、同じく家事代行サービスを手掛けるダスキン <4665> [東証P]なども注目したい。

このほか、chocoZAPをはじめとするRIZAPの8つのブランドを特典的に利用できる福利厚生サービス「chocoZAPステーション」を提供するRIZAPグループ <2928> [札証A]にも注目。また、山口フィナンシャルグループ <8418> [東証P]は21年2月、全国の地方銀行では初となる福利厚生サービスの子会社「イネサス」を設立したが、地方銀行による福利厚生支援の動きも広がっている。

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