株主還元ラッシュで脚光! 「高配当利回り&低PBR株」に熱視線 <株探トップ特集>

特集
2024年5月21日 19時30分

―東証改革で底上げの日本株、1倍割れ企業に強まる市場の圧力―

東証が上場企業に資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請してから1年あまりが経過した。その成果として、24年3月期の企業決算発表シーズンでは、大規模な自社株買いや増配計画を打ち出した企業が相次いだ。マクロ経済の観点では物価高が続き、インフレ回避手段として高配当利回り銘柄を選好する投資家の姿勢には根強いものがある。業績が堅調で配当利回りが高いにもかかわらず、PBR(株価純資産倍率)が低水準な銘柄に対しては、還元余力を見込んだ買いを集めやすい状況だ。

●自社株買いの発表で株価に明暗

4月下旬から5月中旬にかけての決算発表シーズンで、日経平均株価は3万7000円台から戻りを試す格好となり、20日に3万9000円台を回復した。終値での史上最高値である3月22日の4万888円43銭からはまだ距離があり、最高値の更新を続ける米国株のパフォーマンスと比べると出遅れ感は否めないものの、着実に下値を切り上げている状況にある。

その原動力となったのが、日本企業の株主還元姿勢に対する一定の評価である。3月期決算の上場企業の今期の最終利益は5年ぶりに減益となる見通しだが、減益予想を示しながらも大規模な自社株買いを発表した企業の株価は堅調に推移している。例えばENEOSホールディングス <5020> [東証P]は、今期は2ケタの減益予想だが、発行済み株式総数(自己株式を除くベース)の約23%に相当する6億8000万株を上限とした大規模な自社株買いを発表したことが好感され、2018年以来の高値圏に浮上した。

これに対し、今期の純利益を1兆5000億円(前期比0.6%増)と、前期に続き過去最高益を更新する目標を掲げた三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> [東証P]は、自社株買いの取得総額の上限を前期の実績(約4000億円)を下回る1000億円としたことが失望売りを誘い、株価に一時的に下押し圧力が掛かった。

●物価高で高配当利回りに根強い関心

自社株買いと消却による発行済み株式総数の減少は、予想EPS(1株利益)を上昇させ、EPSとPER(株価収益率)を掛けて算出する理論株価を高める効果を及ぼす。自社株買いの発表後、株価が上昇した局面において、自己資本から実際に自社株買いを行えば、自己資本の減少幅は発表前の株価で取得するよりも大きくなる。そして、資本効率性の指標であるROE(自己資本利益率)は、分母である自己資本が減少すれば上昇する。自己資本の減少により純資産が圧縮されれば、純資産を分母とするPBRは水準を切り上げることとなる。更に、配当金の増額は、利益剰余金の減少を通じて自己資本を圧縮させる効果をもたらす。

東証が資本効率の向上に向けた取り組みを上場企業に促すなかで、自社の資本コストを上回るROEの水準を達成するため、配当方針を見直して増配に動く企業も多い。しかしながら、配当利回りの水準が切り上がったにもかかわらず、PBRがなお1倍以下にとどまる銘柄も存在している。資本効率向上の本気度が試される昨今の時流のなかで、株主還元策を打ち出しながら低PBRの状況にある銘柄に対しては「次の還元策が出てくる可能性がある」(国内証券の投資情報担当者)と期待されているようだ。

ロシアによるウクライナ侵攻を受けた急速なインフレは今年に入り一服感が出ており、4月の東京都区部の消費者物価指数は生鮮食品を除くコアが前年同月比プラス1.6%と、3月の2.4%から伸びは鈍化した。だがこの先は、歴史的な円安を受けた輸入物価の上昇シナリオが警戒されているほか、電気・ガス代の補助終了によるインフレ圧力の出現が見込まれている。持続的な物価上昇は現金の価値を目減りさせるのは言うまでもないことだが、仮に配当利回りが2%でインフレ率が2%なら、実質ベースではインカムゲインはゼロとなる。インフレ回避手段として、物価の伸び率を上回る水準にある高配当利回り株への関心が強まるなか、業績が底堅く推移すると見込まれつつも、PBRがなお1倍を下回って推移する銘柄をピックアップしていく。

●高利回り・PBR1倍割れの厳選6銘柄

◎テイ・エス テック <7313> [東証P]:配当利回り4.58% PBR0.71倍

ホンダ <7267> [東証P]を主要取引先とする自動車部品メーカーで、シート関連を供給。ホンダは今期の四輪事業における世界販売台数を前期比1万1000台増の412万台と計画する。サプライヤー各社にとって、安定的なトップラインの確保が期待できるなか、TSテックは中期的にはスズキ <7269> [東証P]のインド子会社であるマルチ・スズキからの受注拡大に伴う現地での事業拡大を想定。調達方針の見直しによるコスト競争力の強化にも取り組む方針だ。5月10日に発表した約100億円の自社株公開買い付け(TOB)が完了した後、7月初旬以降に市場買い付けによる約50億円の自社株の取得に乗り出す構え。PBR1倍割れの是正に本腰を入れる方針だ。

◎大末建設 <1814> [東証P]:配当利回り4.97% PBR0.82倍

マンションをはじめ民間建設を手掛け、24年3月期は受注高が前の期比8.5%増の943億2400万円と、ここ数年で最高の水準となった。25年3月期は売上高が前期比7.8%増の839億円で、不採算案件による影響の一巡を見込み営業利益は同63.5%増の26億円と3期ぶりの増益を予想する。株価は決算とともに増配計画を発表した翌日の5月9日に大きく水準を切り上げ、06年以来の高値圏に浮上。足もとは日柄調整の局面に入ったが、PBR1倍割れ是正に向けた浮揚力の再発動に期待したい。大阪・関西万博で建築を手掛けるチェコのパビリオンは高難度の工事になるとみられているが、完成後は同社のブランド価値の向上に大きく寄与しそうだ。

◎極東開発工業 <7226> [東証P]:配当利回り4.70% PBR0.81倍

23年3月期を底に業績は回復基調にあり、25年3月期は売上高で前期比4.7%増の1340億円、最終利益で同25.7%増の44億円を計画する。主力の特装車事業は増収・営業増益を予想。受注残高が約775億円と高水準にあるなか、国内でのトラックシャシーの供給状況は徐々に改善すると見込む。特装車需要が旺盛なインドでは新工場の建設を計画中。25年3月期の売上高予想は中期経営計画で示した「1400億円以上」の水準を下回っているが、極東開発は目標達成に努めるとしており、収益が上振れた場合は追加の株主還元への思惑が広がりそうだ。

◎VTホールディングス <7593> [東証P]:配当利回り4.79% PBR0.83倍

ホンダや日産自動車 <7201> [東証P]の自動車販売ディーラーで、今期は売上収益で前期比5.9%増の3300億円を予想。営業利益は同8.3%増の130億円と過去最高益を計画する。前期は自動車販売関連事業において減損損失を計上。一部メーカーの品質問題による生産停止の影響も受けたものの、新車供給不足に関しては徐々に解消すると想定しており、業況そのものは堅調に推移する見込みだ。5月16日に年初来安値をつけた後は持ち直しており、押し目買いの需要を集めている。

◎高周波熱錬 <5976> [東証P]:配当利回り4.60% PBR0.66倍

高強度鋼材や熱処理受託加工などを展開し、25年3月期の最終利益は前期比3.7%増の16億円を計画。材料費や電力費などのコストアップ要因が山積するなかで、販売価格への転嫁と原価低減の取り組みを加速させる方針だ。自動車関連での需要増や国土強靱化に向けた政策による効果が期待されるなか、中期経営計画では27年3月期に売上高を700億円(25年3月期見通し620億円)、営業利益は46億円(同20億円)に伸ばす目標を掲げている。上限250万株の自社株買いは下値をサポートする大きな力となるだろう。

◎ケーユーホールディングス <9856> [東証S]:配当利回り4.77% PBR0.62倍

中古車販売大手。「ビッグモーター」問題に端を発した業界全体の信頼感の低下懸念から株価に下押し圧力が掛かった局面を通過し、同社株は戻り歩調を続けている。中古車相場そのものは円安による輸出需要の高まりを受けこの先は上昇基調を続けるとの期待が多い。ケーユーHDは今期減益を予想するものの、事業運営の効率化に向けた取り組みの効果次第では増益に転じるシナリオも期待できそうだ。

※配当利回りとPBRは5月21日引け後時点。

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