デリバティブを奏でる男たち【79】 ソロスから最も信頼された伝説のロディティ(後編)
今回は「イングランド銀行を負かした男」として知られる著名投資家、ジョージ・ソロスのアドバイザー業務を行っていたスペンサー・ニコラス・ロディティ(Spencer Nicholas Roditi:ニック・ロディティ)を取り上げています。前編ではロディティの投資スタイルについて、様々な国の株式や債券、あるいは不動産などに投資するグローバル・マクロであると同時に「大きくレバレッジを効かせるタイプ」であるとしました。
この点について、第4回で取り上げた米大手投資銀行モルガン・スタンレー<MS>の元名物ストラテジスト、バートン・マイケル・ビッグス(通称バートン・ビッグス)は、その著書『Hedgehogging(Hedgehogとはハリネズミのこと。Hoggingとは独り占めすること)』[2006](邦題『ヘッジホッグ: アブない金融錬金術師たち』日本経済新聞出版)で紹介しています。
同著においてロディティは「ティム」と呼ばれ、彼は一時期に自己資金の3倍のドル売りポジションを持ち、日本株を自己資金の100%以上買い、更に別の株式を自己資金の200%以上保有していた、とのことです。ソロスの旗艦ファンドであったクォンタム・ファンドを、ソロスとともに運用していたスタンレー・フリーマン・ドラッケンミラーについても前回に触れましたが、ソロスがクォンタム・ファンドから切り離し設立したクォータ・ファンドを運用していたロディティは、レバレッジを効かせることによって、ドラッケンミラーよりも大きいポジションを持っていた、といわれています。
ちなみにビッグスは、ドラッケンミラーの義理の叔父であり、第2回で取り上げたジュリアン・ロバートソン(1932-2022)のタイガー・マネジメントにおいて取締役も務めていました。ビッグスついては以下をご参照ください。
▼モルガン・スタンレーのバートン・ビッグス(前編)―デリバティブを奏でる男たち【4】―
https://fu.minkabu.jp/column/985
◆その他の投資
ロディティはソロスのアドバイザー業務を始めた1992年に、別の投資活動も始めました。彼はジンバブエの隣国であるザンビアで茶葉や花などの農場を運営するプランテーション・アンド・ゼネラル・インベストメンツ(現在のPGIグループ)という英国の小さな上場会社の株式を買い始めます。アフリカ大陸の南部に位置する旧イギリス植民地、ローデシア(1980年にジンバブエ共和国として独立)で生まれた彼は、アフリカを中心とする新興国に強い思いを抱いていたようです。
プランテーション・アンド・ゼネラル・インベストメンツ株の買い集めはソロスの投資アドバイザーを引退した後も続けられ、最終的にはTOB(株式公開買い付け)を通じて同社を買収しました。2005年に社名をPGIグループに変更して、ロシアの不動産と未公開株に投資するジェンセン・グループに投資するようになり、2009年にはPGIグループを上場廃止にしています。
このように通常ではアクセスが難しい投資対象へのアプローチは、前編でも触れた通り、ロスチャイルドや慈善団体のオープン・ソサエティ財団を展開するソロスの下で働いた経験によって、ロディティが築いた華麗なる人脈のなせる業と見られます。
ちなみに、ジェンセン・グループのスティーブン・ウィリアム・ウェインCEO(最高経営責任者)は、ジョン・デイヴィソン・ロックフェラー4世(通称ジェイ・ロックフェラー:ロックフェラー家の一員であり、ウェストバージニア州知事、ウェストバージニア州選出の連邦上院議員を歴任)の義理の息子です。
またロディティは、英国のネットスーパー、オカド・ドット・コムを傘下に擁するFTSE100採用銘柄のオカド・グループにも、ロンドン・アンド・アムステルダム・トラストという投資会社を通じて投資しています。彼が投資を始めたのは2005年からですが、オカドが上場したのは2010年ですので、上場前から投資していたことになります。同社の株価は2016年のブレグジット(英国の欧州連合離脱)を決めた英国民投票以降に急騰し始め、コロナ後には10倍にもなりました。ところが、インフレに伴う食料品の買い物の減少や売上高の伸び悩みなどにより、株価は2021年のピーク時から70%以上も下がるなど、相変わらず投資パフォーマンスの変動は激しいようです。
◆5つの投資信念
こうしたロディティの投資信念は、①ポートフォリオの集中、②レバレッジ、③グローバルなチャンスを探る、④長期投資、⑤孤独な意思決定の5つにまとめることができます。
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証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。
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