レーザーテック 岡林理社長に聞く <トップインタビュー>

特集
2024年6月4日 12時30分

─AI革命はまだ序章、半導体技術が進化するほど我々の強みを発揮できる

2022年と23年の売買代金は首位を独走、いまや東証きってのスター銘柄となったレーザーテック <6920> [東証P]。独自の「グローバル・ニッチ ・トップ」戦略により、世界で唯一、最先端半導体製造技術、EUV(極端紫外線)マスク欠陥検査装置の実用化に成功し、この10年で売上高は10倍超、利益は20倍超、株価は100倍超という“奇跡の急成長”を遂げた。なぜ、こうした急成長ができたのか。そして来るべきAI社会で、同社はどのような役割を担うのか。岡林理社長に直撃した。(聞き手・樫原史朗)

※なお、本インタビュー記事はプレミアム会員コンテンツの抜粋版です。文末に全編へのご案内がありますので、ぜひ、ご参照ください。

●「グローバル・ニッチ・トップ」戦略はこうして生まれた

──この10年、驚異的な成長を続けてきましたが、まず、その要因をお話しください。

ひと言で言うと、「常にチャレンジを続けてきたから」ということに尽きるのではないかと思います。例えば、2000年代まで当社の主力だったフラットパネルディスプレイ(FPD)の液晶用カラー・フィルター修正装置事業から、より成長が期待できる半導体事業へ人的リソースを移すといった大きな改革を実行したときに、それに応じて社員たちが果敢に動き、「ピンチをチャンスに変えてくれた」ことが大きかった。

私が2009年に社長に就任する前、営業を担当していた頃から感じていたことですが、液晶用カラー・フィルター修正装置事業を主力としていた頃の当社は、技術的になかなか競合と差別化できず、薄利多売で価格競争に巻き込まれていました。一方、半導体を製造するには高い検査・計測技術が必要です。当時から微細化が進んでいて、我々の扱う検査・計測装置に求められる水準も年々、上がっていました。

当社の創業者、内山康は「世の中にないものをつくり、世の中のためになるものをつくる」という志を持って起業しました。これはいまの当社でも企業理念にしている言葉なのですが、技術的なハードルが高い半導体の分野で、顧客のニーズに応えるために新製品の開発にチャレンジし続けていくのが、当社が取るべき方向性ではないかと考えたのです。簡単ではないかもしれないが、時間をかけてでもやり切ろう。そう考えて進んできたのですが、社員たちがこうした思いを理解して、実践してきたから、いまがあるのだと思っています。

──ところで、80年代には日本の半導体産業は世界の中心と言われるほどの存在感がありました。それが「失われた30年」の経済低迷の中で存在感を失った状態が続き、いま、再び国を挙げて半導体産業振興の流れに進んでいます。長年、業界でキャリアを重ねてきた岡林社長の正直な思いをお聞かせください。

それは素直に嬉しいですよね。この30年、世界では一貫して半導体産業が重要な産業であると認知されてきましたが、日本では認知度が低い状態が続いていました。ですがようやく日本でも、半導体が世界経済で重要なパートを占める産業だと認識をされるようになってきました。社員にとってのモチベーション・アップにもなるし、人材採用の面でもよいことです。

ただ、日本が存在感を失っていたと言われるこの30年間でも、半導体素材メーカーは世界シェアの約50%を、半導体装置メーカーは約30%を占めていました。この間、日本製半導体のシェアは低下しましたが、日本は半導体をつくるインフラは充実していたのです。それに加えて80年代のように、半導体デバイスの生産拠点が改めて日本に生まれ、今後、発展していくかもしれないというのは、想像するだけでもワクワクします。

●「生成AI」はまだ活用が始まったばかり

──現在の「生成AI」を巡るムーブメントについてお聞きします。2022年11月にオープンAIが「ChatGPT(チャットGPT)」を発表して以来、株式市場でも“AI一色”と言えるようなブームが訪れています。

「生成AI」については一時的なブームとは言えないと思います。すでに活用が始まっていますが、今後も膨大な情報を処理し、正確な分析が必要になる薬品や医療分野をはじめ、様々な分野に適用され、大きな伸びが期待できるアプリケーション市場だと考えています。

かつては、半導体を使うアプリケーションと言えばパソコンが中心でした。やがてスマートフォンが登場し、その後IoTや自動運転、メタバース、5Gと用途が拡がっていきました。現時点では「生成AI」関連の需要が半導体市場全体に占める割合はそれほど大きくありませんが、本格的な市場拡大はこれからでしょう。

当初はエヌビディア<NVDA>のGPU(画像処理半導体)にばかり注目が集まりましたが、DRAM(Dynamic Random Access Memory)メモリーを積層化してつくられるHBM(広帯域メモリー)も、「生成AI」には欠かせない半導体だということが認識され、メモリー半導体の市場でも「生成AI」関連の需要が拡大しています。「生成AI」によって半導体の新たな市場が生まれているわけで、この流れはまだまだ続くのではないでしょうか。

──現在、一部では半導体の微細化は限界に近づいていて、これ以上の技術進化は望めないという意見も出てきていますが、この点はどうお考えでしょうか。

ベルギーの半導体研究機関IMECのロードマップによると、ロジック半導体としては現在3ナノメートル(nm)が量産されていますが、来年から2nmの量産が始まり、その2年後には1.4nm、さらにその2年後には1nmの半導体の量産が開始されると推定されています。その後も1nm以下が計画されているということなので、微細化はまだまだ続いていくのではないでしょうか。

微細化はCPU(中央演算処理装置)などのロジック半導体が先行していますが、現在ではそれとともに、メモリー半導体のDRAMでも進んでいます。HBMの次世代品、HBM3eをつくるには、最先端の「DDR5」というDRAMメモリーが使われますが、すでにこのメモリーの製造にEUV(極端紫外線)リソグラフィーが使われているようです。さらにHBMでは、メモリー半導体を積み重ねていく技術も必要になるので、そういった部分でも、微細化とはまた違った技術革新が進んでいくと言われています。

──昨年秋に発売したEUVマスク検査装置の新製品、「High NA」対応のACTIS「A300」シリーズの引き合いはいかがでしょうか。この製品が発表されてから、株式市場では再び御社の評価が高まり、改めて株価も上昇ピッチを速めました。

株価に関しては、やはりAIブームの影響が大きかったのではないかと思いますが、半導体の微細化に伴って「A300」の引き合いは、お陰様でかなり強いですね。ACTISの成功は、2022年にスタートした中期経営計画「フェーズ3+(プラス)」の最大の成果だと思っています。

●あらゆる分野で技術発展が続く半導体産業

──それでは次に、中長期で御社を投資対象とする投資家に向けて、レーザーテックの将来像をお話しください。

これまで半導体製造では、ウエハーに回路を形成するまでの「前工程」が重視されてきました。ですが「生成AI」の登場によって、それ以降の「後工程」の重要性も高まってきました。さらに近年では、半導体材料の重要性も高まってきていて、新材料では、自動車などに使用される半導体向けのSiC(炭化ケイ素)も非常に注目されています。つまり今後も、半導体のあらゆる分野で技術発展が進んでいくだろうということです。

そして、技術発展が進めば、それに応じて顧客の求める技術水準も高くなっていきます。顧客の技術的に高度な要求に応じて製品を開発することは、当社がこれまで最も得意としてきたことで、強みでもあります。これを続けることによって、他社と差別化することができるのです。

──最後に一つ。株式市場で御社が注目されている理由の一つは、ここ数年の圧倒的な売買代金の大きさだと思います。ですが、御社に投じられる資金のかなりのウェイトを短期資金が占めているとも言われ、経営者としては無条件に喜べない部分もあるのではないかと思いますが、この現状を率直にどのように感じられていますか。

実は私が社長に就任した直後、海外向けのIRを始めようということで、海外の投資家とのミーティングを重ねたのですが、その時に毎回のように言われたのは、「非常に面白い会社だと思うが、買おうと思っても流動性が低すぎる」ということだったのです。「魅力はあるのだが、この流動性の低さでは、売ろうと思っても売れないし、とても買うことができない」と。その後、東証二部から一部に指定替えして、株式分割も数度実施し、何とかより多くの投資家に投資をしてもらおうと、継続的にIRに力を入れてきたのです。

そうした苦労を振り返れば、いまのように市場の注目を集める状態というのは、ありがたいとしか言いようがないですよね。確かにボラティリティ(株価変動率)の高さなどは気にならなくもないですが、当社の成長性を理解して株式を保有していただいている投資家もたくさんいらっしゃいます。15年前の苦労から比べれば、隔世の感ですよ。当社としては、その期待に応えるために、全力で事業に取り組んでいくだけです。(24年4月18日取材)

【編集後記】

取材の2週間後、岡林理社長の6月末での社長退任(会長就任)が発表された。岡林社長は2009年の社長就任以来、売上高が100億円に満たなかった企業を2000億円規模のグローバル企業へと成長させてきたが、要となったのは長期的な視点で事業を推進するための中期経営計画の策定だった。就任以来、5フェーズ目の中計の成果は、引き合いが好調な最先端EUV製品で一定の成果を収めた。バトンタッチには最適なタイミングと判断したのだろう。

後任の仙洞田哲也・現副社長は、技術者出身で現在は営業を統括する立場だという。「技術とマーケットの双方を理解する」。岡林社長自身もそうだが、これは同社の強みを発揮するためには欠かせないリーダーの条件だ。奇跡の成長を遂げた15年の後を継ぐニュー・リーダーたちが、同社をどのようにけん引していくのか。レーザーテック成長物語の次章の幕開けとして、8月に発表が予定される新中期経営計画に刮目したい。

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上記記事は、株探プレミアム特集『Buy&Hold STORIES』レーザーテック篇・岡林理社長特別インタビューの抜粋版です。

「生成AIで生まれた新たなヒット商品とは?」「米中対立の事業への影響は?」「日の丸半導体メーカー、ラピダスの勝算は?」「レーザーテックのシェア独占を脅かすライバルは?」「今後も高成長を続けるための課題と解決策とは?」……

本インタビューの全編は、株探プレミアムにご登録のうえ、下記ページよりご覧ください。

【特集】レーザーテック岡林理社長・特別インタビュー(前編)

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