新興国の選挙結果が訴えること【フィスコ・コラム】

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2024年6月9日 9時00分

新興国の優等生であるインドと南アフリカで総選挙が行われ、与党が単独過半数を割り込みました。両国は成長を加速させてきた一方で、その歪みが投票結果として露呈されたもよう。初の女性大統領が誕生したメキシコでは、改革を起動に乗せられるか注目されます。

5月29日の南ア総選挙(定数400)では、1994年から国民政党として君臨するアフリカ民族会議(ANC)が71議席減の159議席と、過去30年間で初めて過半数を下回りました。2018年に就任したラマポーザ大統領は続投するものの、電力不足や高失業率、汚職撲滅で成果を上げられず、挙国一致内閣となり政策修正を余儀なくされそうです。経済成長のペースダウンや財政再建の後退が見込まれ、格下げは必至の情勢です。

4月から始まったインド総選挙(定数543)はモディ首相が所属するインド人民党(BJP)が圧勝の予想に反し「まさか」の大惨敗。年間7-8%の高成長で世界経済をけん引する立場のモディ政権ですが、やはり他党との協力体制をより強める必要が出てきました。人口は中国を抜き世界トップとなり、国内総生産(GDP)は数年後に日本を抜き世界4位への躍進が期待されていましたが、そのシナリオを見直す可能性があります。

両国はBRICSの中核国。世界の分断が進むなかで南アは欧米に与しない外交方針を掲げ、インドは全方位外交で東西両陣営に食い込む強かさで経済成長につなげてきました。BRICSはブラジル、ロシア、中国を加えた5カ国で世界人口の40%、世界経済の25%超を占め、新興国の経済力拡大を主導。昨年はサウジアラビアやイラン、エジプトが加盟し、計11カ国で先進国に対抗する勢力になりました。

一方で、南アには格差の拡大を示すジニ係数が世界的に高い特徴があります。インドは貧困率が統計上、急速に低下しているとはいえ、都市部と地方では最大9倍という格差が指摘されます。両国とも汚職の蔓延で既得権益は守られ、雇用情勢は絶望的という国内事情を抱えています。今回の選挙結果は、長年の歪んだ社会制度が成長を阻害する新興国特有の脆さをさらけ出したと理解できます。

6月2日のメキシコ大統領選は女性候補どうしの対決として注目されました。ロペスオブラドール大統領は腐敗にまみれた既存政党を否定し、前回2018年に新党「国家再生運動」(MORENA)を旗揚げして当選。国内で放置されてきた問題に取り組むことにより高支持率に支えられてきました。後継のシェインバウム氏は改革路線をさらに深め、進化版の新興国に脱却できるかが焦点となりそうです。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

《TY》

提供:フィスコ

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