中部鋼鈑 Research Memo(7):コスト上昇分の価格転嫁が計画達成のカギ(2)
■中部鋼鈑<5461>の今後の見通し
3) 持続可能な基盤整備
同社グループが長期的に成長できる基盤の構築を目指す。人的資本戦略、DX戦略・業務効率改善、ガバナンス・リスク管理・コンプライアンスの強化、効率的なバランスシート運営、環境・防災・BCP、子会社戦略等を推進する。人的資本戦略では、従業員の活力や働き甲斐の向上によって付加価値労働生産性を最大化することを目標とする。5つの柱として、帰属意識の向上、成長意欲、心身の健康、良好な関係性、魅力ある報酬体系を掲げ、従業員に対するエンゲージメント調査により施策の効果を測定・検証し、継続的な改善を図る。DX戦略・業務効率改善では、工場における稼働時間の拡大を踏まえ、設備の予防保全の強化や一部業務の機械化・システム化の推進を図るほか、事務におけるAIの活用による省人化の推進、システム基盤の効率化による脱炭素取り組みの強化を図る。
ガバナンス・リスク管理・コンプライアンスの強化については、取締役会の構成見直し(社外取締役比率の向上、女性の登用)、常勤役員会による管理統制、監査等委員会の構成見直し、リスク・コンプライアンス委員会の開催(年2回)、気候変動リスクやサイバーセキュリティへの対策強化、内部通報制度の確立、役員・従業員へのコンプライアンス教育の実施などに取り組む。効率的なバランスシート運営については、高い自己資本比率と自己金融力を背景に、収益性を重視した資金運用と設備投資、資本効率の観点からの配当政策の強化による純資産のコントロールなどを意識した施策を展開する。環境・防災・BCPについては、同社が住宅地に立地する「都市型製鉄所」であることを踏まえ、防音・振動対策の強化に向けて、防音性に優れた新電気炉の稼働や、スクラップヤードの屋内化などを実施する。南海トラフ地震リスクの対策として、工場設備の耐震化や受電所の液状化対策、システムデータの遠隔地バックアップなどを実施する。
子会社戦略としては、鉄鋼関連事業において関係性が高いシーケー商事や明徳産業については本社での大型工事案件への参画や、本中計での販売量80万トン体制での役割強化などのミッションを託す。そのほかの企業についても収益拡大やコーポレート・ガバナンスの強化、人的資本への取り組み強化を促す。なお、本中計における主要KPIは、(1) 鉄鋼製品販売数量:80万トン(厚板+スラブ)、(2) 設備投資額(戦略投資):120億円(予算取得ベース)、(3) ROE:10%、(4) 連結経常利益:150億円、(5) 株主還元:DOE3.5%、(6) 付加価値労働生産性((経常利益+減価償却費+人件費)÷従業員数で算出)):40百万円(2023年度は約33百万円)である。これらKPIの達成により、本中計期間において時価総額1,000億円を目指す。
(3) 株主還元策
21中期経営計画では、当初は配当性向30%としていたが、2023年度より株主還元強化や安定配当の具現化の観点から「配当性向35%か60.0円/株の高い方」と方針を変更した。これにより、2024年3月期の年間配当金額は1株当たり91.0円とした。本中計においては、より安定配当重視に舵を切るとともに、株主還元水準を切り上げることで株主からの要請に応える方針で、「DOE」という概念を導入した。これは株主資本に対して企業がどの程度の利益配分を行ったかを示す指標である。単年の業績に影響されない安定した配当を株主にコミットするとともに、株主資本が積み上がるにつれて次年度以降の配当額も逓増する仕組みであり、株主は安定配当とともに配当の成長性も期待できる。2025年3月期業績予想に基づく予想年間配当額については、従来のルールでは1株当たり79.0円となるが、DOE導入により1株当たり101.0円と配当額は高まり、配当性向も44.8%と40.0%超えとなる。
(執筆:フィスコアナリスト 村瀬智一)
《SO》