明日の株式相場に向けて=売り方が闊歩する二層化相場
きょう(10日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比251円高の4万1831円と続伸。前日に先物主導でほぼ800円高というハイパフォーマンスをみせた日経平均だが、きょうも怯むことなく上値を指向した。前週末に広く喧伝されたETF分配金捻出に伴う売り圧力だが、きょうは週明けの8日に続いて2回目で、日経平均とTOPIX合計8000億円近い規模で顕在化するとみられていた。ただ、相場は想定された好材料や悪材料については事前に株価に織り込む習性があり、実際表に出た時は「材料出尽くし」と称され、往々にして株価には逆方向のベクトルが働くことも多い。
今回も結果的にはそのケースに該当した形となった。前週に日経平均が急上昇した反動と今週のETF絡みの売り圧力を見込んで、ヘッジファンドなどショートポジションを組んだ投資家も多く、実際に週明け8日の日経平均は引け際の大口売りで安値引けとなった。だが、下げ幅としては小さく、「売り方としては違和感を覚えたかもしれない」(中堅証券ストラテジスト)という指摘もあった。前週(7月1~5日)の上昇を考えれば、後場にもっと派手に崩れてもおかしくはなかったという意味合いだ。そして、その違和感は前日ときょうの相場で「トラップにハマった」という確信に変わったかもしれない。
全体相場は日経平均が最高値街道をひた走る状況で、しかも前日に望外の急騰をみせた後も、高値圏で売り物を完全に吸収してしまう。一見すると物凄く強い相場に見えるのだが、買われている銘柄は一部の主力級銘柄であり、全般を俯瞰すると目を疑うくらい軟調な株が多い。きょうのプライム市場の個別株は値下がり銘柄数が931、値上がり銘柄数638と、値下がり銘柄数の方が300近く多い状況にある。投資家の頭上で繰り広げられる空中戦が今の実態であり、日経平均やTOPIXなどの主要株価指数は投資マインドとは乖離している。今は買い方の視点でも「違和感を覚える相場」といえるかもしれない。
売買代金は4兆7000億円超に膨らみ活況相場の様相ながら、その割に個人投資家の息遣いが聞こえてこない。これは米国株市場も東京市場と似たような状況にあり、市場関係者によると「最近は米ハイテク株高が枕詞に使われているようだが、実際はGAFAMなど一部の主力が牽引していて、個人トレーダーの主戦場である中小型株は一向に冴えない値動きが続いている」(ネット証券マーケットアナリスト)という。
東京市場では9日現在の日経平均の騰落レシオ(25日移動平均)が109.4%で、プライム市場の騰落レシオも107.9%とあまり大差がない。更にスタンダード市場が105.8%、グロース市場は97.1%である。今のところ過熱感に乏しい一方、悲観ムードからも掛け離れた水準にある。また、個人投資家の体感温度を示す信用評価損益率は、直近のネット証券大手の店内データでは、全体ベースでマイナス5.0%、グロース市場はマイナス20.8%という。全体でマイナス5%前後というのは至って良好と言ってもよい水準だ。グロース市場のマイナス20.8%についても、過去とのデータ比較では特段冷え込んだ状態ではない。数値的には死角がないようにも見える。
しかし、「個別銘柄の持続性という観点で以前とは違う」(中堅証券ストラテジスト)という指摘もある。あちらこちらで間欠泉が噴き上げるように株高パフォーマンスがみられるが、すぐに値を崩すケースが多くなっている。これは、「動いた銘柄を空売りターゲットとした方が分かりやすく取れる」(同)という認識が広がっているようだ。中小型株で貸借銘柄ではなくても、流動性の高い銘柄であれば貸株市場を経由して機関投資家は売ることができる。全体は踏み上げ相場を繰り返しているようだが、個別株のエリアでは売り方が闊歩しているという二層化相場が、買い方にとっての違和感の正体ともいえる。
あすのスケジュールでは、5月の機械受注や対外・対内証券売買契約が朝方取引開始前に開示されるほか、前場取引時間中に6月のオフィス空室率が発表される。また、債券市場では午前中に20年物国債の入札が行われる。午後取引終了後には6月の投信概況が発表される。海外では、韓国の金融通貨委員会が行われ政策金利が開示されるほか、マレーシア中銀も政策金利を発表する。米国では6月の消費者物価指数(CPI)に対するマーケットの注目度が高い。このほか、週間の米新規失業保険申請件数や、6月の米財政収支などにも投資家の関心が向いている。(銀)