岩崎利昭(水戸証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―

特集
2024年7月24日 11時40分

堅調に推移してきた日米の株式相場だが、足もとでは警戒シグナルが灯っている。日経平均株価や米ナスダック総合株価指数は過去最高値を更新したものの、ともに窓を空けて反落している。投資家の間では米連邦準備理事会(FRB)による利下げや半導体、生成AI(人工知能)関連銘柄への成長への期待が高まる。11月には米大統領選が控えるが、7月には選挙活動中のトランプ前大統領が銃撃される事件が発生。バイデン大統領は選挙戦から撤退し、その行方は混迷を深めている。ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突は収束のメドがつかず、地政学的リスクは強まっている。アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第27回は、水戸証券の岩崎利昭・投資情報部情報課長に話を聞いた。

●岩崎利昭(いわさき としあき)

水戸証券株式会社 投資情報部情報課長
1965年12月 神奈川県生まれ。1983年3月 日本大学法学部卒。同年4月 日栄証券入社。同社大阪支店営業部及び調査部、PR会社勤務を経て、1999年8月 水戸証券に入社。2014年4月より現職。

岩崎利昭氏の予測 4つのポイント
(1)半年後の日経平均株価は4万2000~4万3500円程度
(2)半年後のS&P種株価指数は5500~5800程度
(3)トランプ氏の銃撃事件、大統領選前に影響は小さくなる可能性
(4)日本では自動車など製造業、米国は生成AIやそれに電力を提供する企業に注目

―― 日米の株式相場は堅調に推移しています。半年後(12月末)の日米株価と円相場の予測を教えてください。

岩崎:私は半年後の日経平均株価は4万2000~4万3500円程度だと予測しています。半年後のS&P500種株価指数は5500~5800だと考えています。

―― 株式相場の上昇傾向は続くという見方ですね。予測の根拠を教えて下さい。

岩崎:日本株については、企業業績が堅調であることが最大の要因です。特に輸出企業の現時点の業績予想は為替水準からみると過度に慎重で、いずれ上方修正の発表が相次ぐとみられます。業績予想は足もとから5~10%くらい上振れると考えています。そうなれば、現状のEPS(1株当たり利益)やPER(株価収益率)を考慮すると、日経平均株価は4万2000~4万3500円程度に上昇する計算になります。

日米金利差の拡大を受けて円相場が下落し、海外で生産している輸出企業は円換算の売り上げが大幅に増加します。日本国内のインフレも売り上げにはプラスに寄与します。消費者の中には、ほしいモノを値上がりする前に買おうとする人も出てくるとみられます。24年春季労使交渉(春闘)で30年以上ぶりの賃上げ率となるなど、賃上げも進んでいます。実質賃金はなお前年比でマイナスにとどまっていますが、給与が増えれば、個人のお金の使い方の自由度が高まる面があります。

―― 円安やインフレが日本企業の業績を押し上げるということですね。米国株の好調な理由も企業業績でしょうか。

岩崎:米国も日本と同様、企業収益が拡大する見通しです。2025年12月期は前期比14~15%の増益との民間予測が多く、現状のS&P500のPERで考えれば5800くらいまで上昇する予測が立ちます。FRBが利下げするようであれば、企業業績への影響はさほど大きくありませんが、株価を押し上げる効果を期待できます。

特に注目されるのがテクノロジーやそれに関連した製造業、金融関連です。生成AI(人工知能)は新製品が相次いでおり、膨大な量の半導体や大規模なサーバーが必要となっています。23年に出荷台数が低迷していたスマートフォン市場も、中国の在庫調整が終わったことなどから、回復の兆しがみえてきました。生成AIはスマホに標準搭載される可能性が高く、買い替え需要を促すと考えられます。

米国の景気が好調を維持していることから、景気敏感株である金融機関の業績も改善しています。株式相場が活況で収益を増やすチャンスが大きいためです。ただ、FRBによる利下げが進めば、貸出金の利幅が少なくなることには注意が必要です。

【タイトル】

―― 日銀の金融政策正常化への観測が強まっています。

岩崎:米国政府は日本によるドル売り・円買い介入にはあまり良い顔をしないでしょう。日本政府の介入原資となる米国債を売却されれば、米金利に影響を及ぼすためです。米財務省は6月に半期ごとの外国為替政策報告書を公表し、為替操作をしていないか注視する「監視リスト」に1年ぶりに日本を加えました。日銀が金融を引き締め方向に転換するのは過度な円安への対策にもなります。

―― 米国の金融政策の行方は。

岩崎:米国の労働需給は当面タイトで、賃金インフレも続く見通しです。米国の働き盛りの年齢の労働参加率はすでに高く、新型コロナウイルス感染拡大による混乱が収束しても給与水準は下がらないでしょう。FRBは年末と来年初めに利下げするかもしれませんが、市場関係者の期待よりも利下げは遅く、小さくなると考えています。

―― 日米の金融政策の違いは金利差を通じて外国為替市場にも影響を及ぼします。半年後の円相場をどう予測しますか。

岩崎:ここから日米の金利差が大きく変化するとは考えづらく、これ以上の円安は限られるでしょう。仮に円安が進んだとしても1ドル=175円程度です。年末は足もととあまり変わらない1ドル=160円前後だと予想しています。

―― 11月には株式市場に大きな影響を与える米大統領選が控えています。今月には選挙活動中のトランプ前大統領が銃撃されました。

岩崎:銃撃事件以降、日米株式市場はトランプ勝利を織り込み始めています。ただ投票日は11月5日です。短期的な熱狂は冷める可能性が高いでしょう。民主党の候補が巻き返す時間も十分あり、今後トランプ候補側に問題が浮上する可能性もゼロではありません。選挙の結果は蓋を開けるまで分からない、ということを肝に銘じたいところです。

―― 注目する銘柄は

岩崎:日本株は自動車や半導体、防衛関連などの製造業です。自動車は一部企業の不祥事で調整していますが、円安の後押しも受けて株価は回復していくでしょう。東京エレクトロン <8035> [東証P]など半導体製造装置、富士フイルムホールディングス <4901> [東証P]や味の素 <2802> [東証P]などの半導体の素材関連といった銘柄に注目しています。

米国株ではアップル<AAPL>など生成AI絡みのほか、GEベルノバ<GEV>に注目しています。生成AIの運用には大規模なデータセンターが必要で、大きな電力を消費します。同社はガスタービン、蒸気タービンなどの発電設備を提供しており、需要がさらに増えていくと考えられます。

(※聞き手は日高広太郎)

◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
【タイトル】
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。

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