明日の株式相場に向けて=日銀狂騒曲と生成AIラリーの終着点
きょう(25日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比1285円安の3万7869円と急落。7日続落で3万8000円台を一気に下回った。今月11日に4万2224円の史上最高値をつけたが、そこからわずか2週間でここまで相場の景色が変わるというのはにわかには信じ難いが、現実である。ここ2週間で日経平均は4300円以上の下げ、大暴落といっても過言ではない。上値を追う最中はガラスの階段を踏みしめるように慎重だったはずだが、とはいえ機関投資家にすれば、周りが熱気に包まれるなか単独でフェードアウトするには相当な勇気がいる。結局は「持たざるリスク」への恐怖が邪魔をして逃げ遅れてしまう。今年の「エヌビディア祭り」もその事例に当てはまる。
日本株の急激な株価調整は世界的なリスクオフに巻き込まれた部分もあるが、直接的には今月末に同一日程(30~31日)で予定される日米中銀による金融政策決定会合への思惑がマイナス方向に増幅されたものだ。特に東京市場では日銀の政策舵取りが非常に難しい場面にあり、仕掛け的なドル安・円高によって、心の片隅に巣食う不安心理が株式市場で極大化した。河野デジタル相や茂木幹事長が利上げ要請ともとれる発言を行い、これが7月利上げ説、つまり今月30~31日の決定会合で日銀が動くとの思惑につながり、円高を誘発した。市場では「積み上がっていた円売りポジションのアンワインドが一気に進んだ」(中堅証券ストラテジスト)とする。
日銀の早期利上げに言及する市場関係者は多いが、本音の部分で今月に利上げを行うと考えている向きはほとんどいないはずである。しかし、直近ではその稀少なシナリオがまことしやかに囁かれていた。「政策金利の引き上げ幅は0.25%ではなく、お試し価格的に0.1%で刻んでくる」(同)という具現性を伴う話も出ていたくらいだ。これは外国為替市場の円高誘導に十分すぎるネタとなる。そして、株式市場ではAIアルゴリズム売買による円高にリンクさせた先物売りが容赦なく連射され、全体相場の崩落を演出した。とりわけ、半導体セクターの変調ぶりは投資マネーをフリーズさせるに十分なインパクトがあった。
この流れには伏線がある。米国株市場で最強テーマと目されていた生成AIに懐疑的な見方が浮上している。「生成AIは確かに革命的な技術分野だが、実際に商業目的では育成しにくい部分が浮き彫りとなっている」(ネット証券アナリスト)という。著作権絡みの問題や、もっともらしく完成された文章で嘘をつく生成AIは、一方でフェイク動画やランサムウェアの大量生産など、ダーティーなイメージも強くなった。結果として、企業の生成AIへの投資意欲を萎えさせ、払底状態のはずだったGPUに強烈な在庫調整圧力が働く。
以前にも触れたが、中国戦国時代の思想書である韓非子には「千丈の堤も螻蟻(ろうぎ)の穴をもって潰(つい)ゆ」という一節がある。どんなに頑丈かつ巨大な堤防であっても、時が来ればそれまで気にも留めなかった“蟻の一穴”が崩壊の端緒となる。天下無双を誇っても時の流れは必ずそれを穿(うが)つ。エヌビディアの大躍進は歴史的にも特筆に値するものだが、業績も株価もどこかで天井を打つことは避けられない。そして株価の天井は業績に数カ月から1年先行する。とすればエヌビディアの全盛は曲がり角に差し掛かっていることを、足もとの株価動向が語っている可能性がある。
市場関係者からは「エヌビディア連動レバ型ETFに投資していた投資家が店内にも結構多く、その反動も厳しいものとなっている」(ネット証券アナリスト)とする。いわゆる生成AIのシンボルストックとしてハヤされたエヌビディア株の2倍のボラティリティを示す同商品は投資家の人気も高く、実際勝ち組投資家の象徴でもあった。しかし、目先は大きく情勢が変わった。折からのドル安・円高も強力な向かい風で、含み益の消失はあっという間である。エヌビディア・エフェクトはこれまでと逆方向のベクトルで東京市場を大きく揺さぶる格好となっている。
あすのスケジュールでは、7月の都区部消費者物価指数(CPI)、5月の景気動向指数改定値など。また、債券市場では3カ月物国庫短期証券、2年物国債の入札が行われる。この日は東証グロース市場にタイミー<215A>が新規上場する。海外ではロシア中銀が政策金利を発表、6月の米個人所得・個人消費支出、PCEデフレーターにマーケットの関心が高い。このほか、7月の米消費者態度指数(ミシガン大学調査・確報値)も開示される。(銀)