脱炭素への秘策、波乱相場で光る「バイオものづくり」関連株の成長力 <株探トップ特集>

特集
2024年8月7日 19時30分

―資源自律や化石依存脱却を可能にする技術、NEDOが技術開発・実証を支援―

7日の日経平均株価も荒い値動きだった。前日に過去最大の上げ幅を記録した反動で朝方には一時900円超下落したが、その後は好決算銘柄を物色する動きなどが支えとなって下げ渋り。日銀の内田真一副総裁が講演で「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と述べたことが伝わると、過度な利上げによる景気の先行き懸念が後退し上げ幅が1100円を超える場面があった。ただ、投資家の不安心理は完全には払しょくされておらず、終値は前日に比べて414円高の3万5089円と伸び悩んだ。

当面は不安定な相場展開が続きそうだが、こうしたなかでも変わらないのが世界的な潮流となっている脱炭素に向けた動き。そこで注目したいのが温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の実現や化石燃料への依存脱却につながる技術「バイオものづくり」だ。人工知能(AI)などの技術進展に加えて、地政学的リスクによる資源自律の必要性などから今後の大きな市場規模の拡大が見込まれており、関連銘柄に目を向けてみたい。

●生物由来の素材で社会課題を解決

「バイオものづくり」とは、生物由来の素材を用いてものづくりを行うこと、更には微生物などの能力を利用して有用化合物などをつくり出すことを指す。化石燃料を使用しないで生産できることからカーボンニュートラル実現のキーテクノロジーとして期待されている。醤油や味噌といった発酵食品もバイオものづくりの一種といえるが、従来の手法に対して最先端の遺伝子工学やゲノム編集などの技術を使って、人間が必要とする物質の生産のために微生物などの能力をデザインするのが今のバイオものづくりだ。

バイオものづくりは、先行して取り組まれている医薬品や食品にとどまらず、化学品・素材・繊維・燃料など多様な産業領域での活用が見込まれている。従来の化石資源を原料としたさまざまな製造プロセスを置き換える「持続可能なものづくり」として次世代の産業基盤となり、競争力強化のカギを握る見通しだ。一方で、バイオ由来製品が社会に広く普及するためには技術面・コスト面・制度面での課題があり、輸入バイオマス原料が高騰していることから国内の未利用原料への転換も求められる。

こうしたなか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は未利用資源の収集・原料化、微生物などの改変技術、生産・分離・精製・加工技術、社会実装に必要な制度や標準化などバイオものづくりのバリューチェーン構築に必要となる技術開発及び実証を一貫して支援。各プロジェクトを通じてバイオものづくりへの製造プロセスの転換とバイオものづくり製品の社会実装を推進する企業が注目される。

●バイオ技術を生かした各種取り組み

ファーマフーズ <2929> [東証P]は、「改変酵素を用いた卵殻膜の総合的活用プラットフォームの構築」に取り組んでいる。これは廃棄されている卵殻膜を衛生的に分離回収し、産業利用するサプライチェーンを構築して高付加価値分野への応用を目指すもの。具体的には、市場価格の高騰が続くカシミヤの高品質な代替素材の開発、今後の需要拡大が見込まれる蓄電素子市場に向けた原料開発、農作物の収量向上が期待できる農業用バイオスティミュラント(BS)ペプチドの販売などを視野に入れている。

帝人 <3401> [東証P]と高砂香料工業 <4914> [東証P]、地球環境産業技術研究機構(RITE)は、「未利用原料から有用化学品を産み出すバイオアップサイクリング技術の開発」を請け負う。国内未利用資源の原料化や効率的な菌株開発を進め、栽培からの抽出に依存していた香料素材を環境に優しいバイオものづくりによる社会実装を進める構えだ。

大王製紙 <3880> [東証P]とGreen Earth Institute <9212> [東証G]は、「製紙産業素材を活用したバイオ燃料・樹脂原料などの商用生産に向けた研究開発・実証事業」に採択されている。また、GEIは日本製紙 <3863> [東証P]とともに、「純国産木材バイオリファイナリーによる世界最高クラスの低炭素バイオエタノール生産プロセスの開発」にも取り組むという。

レンゴー <3941> [東証P]子会社の大興製紙は、「建築廃材など未利用資源を活用したSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)用2Gバイオエタノール生産実証事業」の委託を受けている。同社は建築廃材などの未利用バイオマス資源から生成するクラフトパルプを原料として、産業用微生物による自製酵素を用いたバイオエタノール生産技術の開発・実証を行う。

東洋紡 <3101> [東証P]は、「マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)の利用分野拡大に向けた革命的生産システムの開発」に取り組む。従来の界面活性剤の多くが石油由来の原料から作られるのに対し、MELは自然界に存在する微生物(酵母)を用いて植物油脂などを発酵させることにより生産する天然由来のサステナブルな界面活性剤で、MELの生産性を向上するための高生産菌の開発や、連続培養生産及びスケールアップ技術、分離・精製・加工技術などを開発する。

島津製作所 <7701> [東証P]、TOPPANホールディングス <7911> [東証P]、藤森工業 <7917> [東証P]は、「細胞性和牛肉の社会実装に係る研究開発」に採択されている。これは細胞性和牛肉(いわゆる培養肉)の社会実装に向けたもので、培養肉の原料となる細胞を安定供給する大量培養技術、喫食可能な細胞培養用の培地、喫食可能な細胞以外のバイオマテリアルとともに、培養肉を社会実装するための評価手法も開発するという。

●日揮HDや長瀬産などにも注目

このほかでは、日揮ホールディングス <1963> [東証P]や東レ <3402> [東証P]、王子ホールディングス <3861> [東証P]、ENEOSホールディングス <5020> [東証P]傘下のENEOSマテリアル、大阪ガス <9532> [東証P]、バッカス・バイオイノベーション(神戸市中央区)が「木質などの未利用資源を活用したバイオものづくりエコシステム構築事業」の実施予定先として採択されている。これは製紙工場などが持つインフラを有効活用することで木質などの未利用資源の安定供給を実現し、更に統合型バイオファウンドリ(微生物育種からプロセス開発までをワンストップで提供するバイオものづくりプラットフォーム)事業者や製品の製造を担う事業者がコンソーシアムとして連携・実証を行うことで、世界に先駆けて未利用資源によるバイオものづくりのエコシステムを構築するもの。

また、長瀬産業 <8012> [東証P]は「スマートセル活用によるエルゴチオネイン発酵生産の事業化」、味の素 <2802> [東証P]は「環境保護と食品供給の安定化を実現する精密発酵技術の開発」、ANAホールディングス <9202> [東証P]とフィコケミー(茨城県つくば市)は「余剰汚泥を使った従属栄養性藻類の培養とバイオディーゼル系脂肪酸原油生産の実証事業」に取り組む予定だ。

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