「オランダ病」国家の再建【フィスコ・コラム】

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2024年8月11日 9時00分

ベネズエラで先月末に行われた大統領選の結果をめぐり、周辺国を巻き込んだ混乱が続いています。現職のマドゥロ大統領が敗北を認めず、アメリカが介入に乗り出しました。石油資源に恵まれながら破綻状態にあるベネズエラは政権交代で再生できるでしょうか。

7月28日のベネズエラ大統領選で、全国選挙評議会(CNE)は反米左派マドゥロ氏の得票率が52%となり、42%の野党連合候補で元外交官のゴンサレス氏を上回ったと発表。しかし、事前の世論調査や出口調査ではゴンサレス氏の圧勝だったことから、投票結果に疑念が強まりました。野党側は各投票所を調査してゴンサレス氏の当選を訴え、アルゼンチンやエクアドルなど周辺国もそれに同調しています。

ベネズエラは、経済の過度な石油依存と政府の財政運営の失敗により、実質破綻状態にあります。2000年以降の3回のデノミで実に14桁も切り下げられ、通貨ボリバルの価値は著しく損なわれています。国際通貨基金(IMF)のデータによれば、2023年のインフレ率は2000%を超え、マイナス成長が続いています。2013年に発足したマドゥロ政権に批判が強まっているのは当然です。

2014年の原油価格の急落は、ベネズエラ経済に大打撃を与えました。しかし、その後の価格反騰にもかかわらず、経済は回復していません。その主な理由は、政府の管理体制の不備と汚職の蔓延にあります。国有石油会社PDVSAの生産能力が低下し、インフラの老朽化や投資不足により生産量が回復しない状況です。さらに、国際制裁や外交的孤立も経済の再生を妨げる要因となっています。

ベネズエラ同様、石油資源に恵まれているものの、政治や経済が混乱している国としてリビアやナイジェリアが挙げられます。やはり政治的不安定や汚職、内戦などが原因で経済は混乱。石油依存の経済構造が多様化を妨げているという共通点があります。対照的に、中東諸国は比較的安定した政治体制を維持しており、石油収入をインフラや教育、医療などに投じて経済の多様化を進めている点が顕著な違いです。

石油やガスなどの豊富な国で輸出拡大により自国通貨が高騰すれば国内経済は繁栄するものの、資源価格の下落で一転して財政難に陥り経済が悪化するケースが多くみられ、過去の事例から「オランダ病」などと呼ばれます。ベネズエラはその典型で、新政権発足の際には信頼できる政府と透明な行政を確立するとともに、石油以外の収入源を育成し、経済の多様化を進める以外に道はなさそうです。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

《ST》

提供:フィスコ

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