デリバティブを奏でる男たち【86】 世界最大級の資産を運用するノルウェーのGPFG(前編)
2024年3月末時点でGPIFの運用額は約245.9兆円と、ドルに換算すれば、およそ1.53兆ドルでした。一方のGPFGは同時点で約1.67兆ドルと、ドル換算では円安の影響もあって世界最大の運用額を誇ったGPIFを上回っています。もっとも、3番手として挙げられる中国の中国投資有限責任公司(China Investment Corporation、CIC)に、4番手である中国外貨管理局傘下の華安投資公司(State Administration of Foreign Exchange、SAFE)、さらには中国の全国社会保障基金理事会(National Social Security Fund、NSSF)を加えると、中国勢がトップに躍り出ることになります。
◆運用原資は石油収入
ノルウェーのGPFGを日本のGPIFと比較しましたが、その仕組みは大きく異なっています。GPIFで運用されているのは、厚生労働省から委託された年金基金の加入者による積立金です。一方、GPFGで運用されているのは、ノルウェー財務省から国民保険制度基金(Folketrygdfondet)を通じて委託された国営事業の石油収入などです。しかも、運用しているのはノルゲスバンク(ノルウェー中央銀行)の投資運用局(Norges Bank Investment Management、NBIM)です。このほか、NBIMでは外貨準備の一部も運用するようノルゲスバンクから委託されています。
ちなみにノルウェーの場合、年金基金の加入者による積立金は、財務省から委託された国民保険制度基金が、政府年金基金ノルウェー(Government Pension Fund Norway、GPFN)として運用しています。GPFNは1967年に設立され、運用対象地域はノルウェーが85%(このうち株式は60%、債券は40%)となっており、オスロ証券取引所に上場している全株式の約5%を所有しています。そのため、GPFNは多くのノルウェー上場企業の筆頭株主となっています。残りの15%はデンマーク、スウェーデン、フィンランドといった北欧の国々に投資しています。
◆GPFGの成り立ち
GPFGは北海ノルウェー領での油田発見後、1990年に設立されました。ノルウェーでは1969年に世界最大級の沖合油田が発見され、同国の経済は劇的に成長します。しかし、エネルギー資源に対する経済依存度が高まった1970~80年代に、オイルショックによるエネルギー価格の乱高下で、同国経済は大きく振り回されることになりました。
このように突然、豊富な天然資源が見つかった場合、これを積極的に輸出することで貿易黒字にはなるのですが、そのために自国通貨高となって、工業品など天然資源以外の輸出産品が国際競争力を失う恐れがあります。そして、これら産業が衰退していくことで失業者があふれる現象を「オランダ病」といいます。オランダの場合、1960年頃に天然ガスを産出するようになり、オイルショックで収入が増えたことから社会保障を拡充させたのですが、国内経済の悪化に伴い、財政も逼迫してしまい、深刻な経済危機に陥りました。
こうした他国の例に加え、天然資源はいつか尽きてしまうことが予想されるほか、同国では高齢化に対する懸念もありました。そこでノルウェーでは、現在および将来の世代が困らないように、石油と天然ガスによる収入は慎重に使用すべきことを決定しました。
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