明日の株式相場に向けて=エヌビディア株崩落の衝撃と深層
きょう(4日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比1638円安の3万7047円と急落。日経平均は8月初旬に暴落をみせたものの、その後は順調な戻りをみせ、前日は寄り付き早々に3万9000円台に片足を乗せる場面もあった。たとえ一瞬であっても、累積売買代金が高水準に積み上がっていた3万8000円台を駆け抜けたことは、強気筋の気勢を上げる背景となった。セオリーの二番底をつけに行く展開は回避されたと思われたが、その矢先、カレンダーが9月に変わったところで東京市場は激震に見舞われた。
1カ月前の暴落は“日銀ショック”などと言われたが、今回の波乱相場の震源地は紛れもなく米国である。米株市場では8月後半はNYダウが最高値圏を走るなどブル相場を謳歌していたが、レーバーデー明けで9月相場入りとなるや強烈な売り圧力が顕在化した。特に生成AIの象徴株であるエヌビディア<NVDA>を中心に半導体セクターの下げが際立っており、前日はエヌビディアが9.5%安と暴落、わずか1日で時価総額を2800億ドル弱、日本円にして40兆円以上も吹っ飛ばした勘定となる。東京市場でいえば時価総額で国内断トツのトヨタ自動車<7203>が1社丸ごと消失してしまったような状況だ。この日はエヌビディアにとどまらず、インテル<INTC>、アプライド・マテリアルズ<AMAT>、マイクロン・テクノロジー<MU>、アドバンスト・マイクロ・デバイシズ<AMD>といった主力どころが軒並み崩落し、半導体銘柄で構成されるフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)の下落率も7.8%安という記録的な下げとなった。
下げの理由は8月の米ISM製造業景況感指数が47.2と事前コンセンサスを下回ったことが挙げられている。端的にいえば米経済の減速を警戒したということ。しかし、このフレーズについては耳にタコができた状態である。同指数が好不況の分水嶺となる50を5カ月連続で下回ること自体は想定通りだった。ゼロ・コンマレベルで予想を下回ったところで、ここまで売り込まれる蓋然性には乏しい。しかも今は、米景気の減速感が強まればFRBが利下げ幅を0.5%に広げるなど間髪入れず対処可能な局面である。
つまり、米リセッション懸念とFRBによる利下げ期待は表裏一体であり、よほどのネガティブサプライズを伴う指標でも出ない限り、そこに本当の危機感は芽生えない。今週末に発表予定の8月の雇用統計も同様で、強い数字であればそれは素直に好感され、思ったより弱い数字であったとしても、FRBが手の内に何枚も持つ利下げのカードを躊躇なく切るだけの話である。ジャクソンホール会議でパウエルFRB議長は金融緩和歓迎ムードのマーケットに釘を刺す素振りを微塵も見せず、「時が来た」とまで言い切り、利下げ姿勢を明示した。そうしたなか、ISM景況感指数がここまで米半導体株を叩き売らせるインパクトが本当にあったのか。真実はもう少し深いところにありそうだ。
エヌビディアについては8月下旬に発表した5~7月期決算が、8~10月期見通しも含め難癖すらつけにくい内容で、500億ドルの自社株買い発表のお土産付きであった。にもかかわらず、株価が大幅安となった理由を考える必要がある。この時の下げは全体相場への影響が限定的で、エヌビディア発のショック安は回避されたが、今はその幻だったはずのエヌビディアショックに時間差で直面した格好となっている。
同社の足もとの株価動向は今期ではなく来1月期の業績頭打ちを予言している。「米大手IT各社が生成AI関連に投資した金額は日本円で7兆円以上、そのうちの7割はエヌビディアが製造するGPUが占める」(ネット証券アナリスト)という。膨大な設備投資に見合うだけの回収がきいていない現状で株主からの突き上げもきつく、来年は生成AI投資が急減速する可能性が意識されている。きょうは台湾加権指数が4.5%安と日経平均を上回る下落率となった。半導体セクターのここからの下り坂は思いのほか長い可能性がある。
あすのスケジュールでは、7月の毎月勤労統計、対外・対内証券売買契約が朝方取引開始前に開示されるほか、前場取引時間中に8月の輸入車販売、8月の車名別新車販売、8月の軽自動車販売などが発表される。また、午前中に30年物国債の入札、日銀の高田審議委員の講演が予定される。海外ではマレーシア中銀の政策金利発表、7月のユーロ圏小売売上高、週間の米新規失業保険申請件数、8月のADP全米雇用リポート、4~6月期米労働生産性指数、8月の米サプライマネジメント協会(ISM)非製造業景況感指数など。(銀)