金は最高値を更新、米利下げ開始で上値試す流れに <コモディティ特集>

特集
2024年9月25日 13時30分

は9月、米連邦準備理事会(FRB)が利下げを開始したことや中東情勢に対する懸念を受けて買い優勢となり、現物相場が史上最高値2663.80ドルをつけた。

米連邦公開市場委員会(FOMC)で50ベーシスポイント(bp)の大幅利下げが決定された。米FOMC声明では「インフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信を強めており、雇用とインフレ率の目標達成に対するリスクがほぼ均衡していると判断する」と述べた。また、パウエル米FRB議長は公聴会発言で労働市場の減速を指摘。米FRB当局者による金利・経済見通しでは、年内に更に50bp利下げし2026年末に政策金利を3.00%まで引き下げる見通しである。米FRBが利下げを開始したことで金は引き続き上値を試すとみられている。

8月の米雇用統計で非農業部門雇用者数は前月比14万2000人増と事前予想の16万人増を下回った。7月の非農業部門雇用者数は11万4000人増から8万9000人増に下方改定され、6~7月分の雇用者数は計8万6000人減少した。失業率は4.2%で前月の4.3%から小幅低下したが、労働市場の減速が目立つ。

一方、8月の米消費者物価指数(CPI)は前年比2.5%上昇と前月の2.9%上昇から伸びが鈍化し、2021年2月以来の小幅な伸びとなった。ただ、コアCPIは同3.2%上昇で前月と変わらずとなった。今回の米FOMCで大幅利下げに唯一反対票を投じたボウマン理事は、米個人消費支出(PCE)価格指数は前年比2.5%上昇しており、インフレ目標の達成には至っていないと指摘した。大幅利下げによってインフレが再加速することになれば利下げペースが遅れ、金の上値を抑える可能性も出てくる。27日に8月の米PCE価格指数の発表があり、インフレに対する見方を確認したい。

●中東やウクライナ情勢も今後の焦点

イスラエルがパレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスに対する攻撃を続けるなか、7月末にハマスの最高指導者ハニヤ氏がイラン首都テヘランで殺害された。ガザ停戦交渉が始まったが、エジプトとの国境沿いにあるガザ南部の緩衝地帯(フィラデルフィア回廊)にイスラエル軍が駐留することなど意見が折り合わず、交渉は長期化。イスラエルはハマス指導者らの安全な脱出を条件に新たな案を提示している。

そんななか、イスラエルはガザでの戦争目標に、レバノンの親イラン組織ヒズボラとの交戦で避難を強いられている北部住民の帰還を追加することを決定し、ヒズボラへの攻撃を開始した。ヒズボラ戦闘員が使用していた通信機器が爆発し、多数の死傷者が出た。レバノンの首都ベイルート南郊の空爆で、ヒズボラの作戦指揮官イブラヒム・アキル氏を殺害し、更にヒズボラに大規模な攻撃を行った。市民には兵器保管場所から離れるよう避難を通告したものの、492人が死亡。内戦以来1日の死者数としては最悪となった。米国は外交的解決が重要としているが、影響力は低下しており、紛争激化が懸念される。

ウクライナ情勢も今後の焦点である。ウクライナのゼレンスキー大統領は、米英の長距離ミサイルによる攻撃を容認するように要請した。ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの長距離攻撃が認められれば西側諸国はロシアと戦うことになると警告。ロシアのウォロジン下院議長は、米英が長距離ミサイル使用を承認すれば核戦争が起こると警告している。

米大統領選はトランプ前大統領とハリス副大統領が11月5日の投票に向けて激戦州で接戦を展開している。世論調査では討論会を経てハリス氏がわずかながら優勢となっている。ハリス副大統領はバイデン政権の方針を引き継ぐとみられるが、ガザの人道状況に「深刻な懸念」を表明し、バイデン米大統領よりイスラエルに批判的な立場を取っている。ウクライナ支援についてはバイデン政権の方針をさらに強め、西側主導の国際秩序を守るべきとしている。一方、トランプ前大統領は、フロリダ州パームビーチにある自身の別荘「マール・ア・ラーゴ」でイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、友好関係をアピールした。ウクライナに対しては支援を停止することを主張している。

●NY市場の大口投機家の買い越しは20年3月以来の高水準

世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は、9月24日に877.12トン(8月末862.74トン)まで増加となった。米FRBの利下げ開始見通しを受けて投資資金が流入した。一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは9月17日時点で31万0066枚(前週28万2501枚)に拡大し、2020年3月以来の高水準となった。米FRBの大幅利下げ観測が再燃したことを受けて新規買いが入り、買い玉は36万9734枚(同34万0006枚)と2020年2月以来の高水準となった。買われ過ぎ感が出ると、利食い売り主導の調整局面が警戒されるが、利下げが開始されたばかりであり、押し目は買われやすいとみられる。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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