丸運 Research Memo(7):次期成長分野に注力し、2031年3月期に経常利益20億円以上を目指す(1)
■今後の課題・展望
2. 「2030丸運グループ長期ビジョン」
丸運<9067>は2022年に創立130周年を迎えたが、コロナ禍等により経営環境が大きく変化した一方、内部的にはESG経営体制への移行等を積極的に推進している。このような事業環境の下、今後の成長戦略の方向性を示し、同社グループの経営資源を重点分野に集中するために、「2030丸運グループ長期ビジョン」を策定している。
(1) 事業の将来像
「2030丸運グループ長期ビジョン」では、貨物輸送とエネルギー輸送の両輪経営を継続し、高いコスト競争力と提案営業力を有する物流エキスパート企業となることを目指している。そのために、国内一般貨物を基盤として素材の国内外一貫物流※の強化を図るほか、今後市場成長が見込まれるリサイクル物流分野、機工分野、食品流通分野及び潤滑油・化成品等の危険物保管分野へ積極的な投資を実行することで成長を目指す。また、減少傾向にある石油輸送については、安全確保をしつつ効率化を推進する。
※ 国内外一貫物流とは、世界的な競争力を有する日本の素材メーカー等に対し、日本国内限らず、輸出先での保管・輸送さらに通関まで含めた総合的な物流サービスを提供すること。
「2030年丸運グループのありたい姿」
・ 貨物輸送とエネルギー輸送の両輪経営を継続し、高いコスト競争力と提案営業力を有する物流エキスパート企業となることを目指します
・ そのために、国内一般貨物を基盤として、素材の国内外一貫物流を強化すること、今後市場成?が見込まれるリサイクル物流分野、機工分野、食品流通分野および潤滑油化成品等の危険物保管分野への積極的な投資を実行することにより成?を追求します
・また、減少していく石油輸送については、安全を確保しつつ効率化を推進します
(2) ESG重点目標
「2030年丸運グループのありたい姿」として、事業の将来像とESG重点目標を明確に示し、ESG経営で特定した6項目の「最優先課題」を2030年に向けて着実に実行していく。
(3) 数値目標
成長分野の事業を拡大することで、2031年3月期に営業収益600億円以上、経常利益20億円以上とする数値目標を掲げた。また、営業強化分野と次期成長分野にM&Aを含む総額120億円の積極投資を行う。
(4) 事業ポートフォリオ
「2030丸運グループ長期ビジョン」で掲げた将来像を実現するため、各事業を「営業強化分野」「次期成長分野」「効率化推進分野」の3分野に位置付け、事業戦略を推進する。
a) 営業強化分野での取り組み
・国内一般貨物保管・輸送のコスト競争力と提案営業力の強化
国内一般貨物の保管・輸送業務を同社営業の基盤(インフラ)と位置付け、2024年4月より組織改正で貨物輸送事業部内に提案営業力の強化のための司令塔として「営業開発部」を設置し、各営業部と物流拠点を顧客グループ別に再編するとともに、積極的なシステム導入による現場効率化と情報共有ツールを活用した営業ノウハウ集積により、コスト競争力と提案営業力を飛躍的に向上させる。
・素材国内外一貫物流の拡大
同社の主要顧客である日本の素材メーカーは、高機能電子デバイス原料、軽量化材料等の先端材料の分野で世界的な競争力を有しており、供給能力の増強を計画している。これらの顧客との関係強化と必要な設備投資を実施し、顧客の国内製造能力増強に伴う保管・輸送案件を取り込むとともに、海外輸出に伴う通関、現地保管・輸送等の一貫物流を提案・獲得する。
・潤滑油・化成品輸送の強化
半導体増産に伴う化成品増産需要等を積極的に取り込み、石油輸送で余剰となる輸送能力を化成品輸送に円滑にシフトする。
b) 次期成長分野での取り組み
・リサイクル物流事業
アジア諸国の廃プラスチック輸入規制が進み、樹脂大手は国内処理スキーム構築のためケミカルリサイクルプラント計画を打ち出している。また、2027年の規制強化に伴い廃棄物を原料とした持続可能な航空燃料(SAF)プラントも計画されている。PCBなど同社の廃棄物輸送実績を生かし、中間処理を含めたリサイクル物流でポジションを獲得する。
・機工事業
再生可能エネルギーへのシフトに伴う送電線の再整備等、国内インフラ設備の更新・新設需要は堅調に続くと見込まれることから機工部門を拡充・強化する。
・食品流通事業
農林水産省の国産水産物・食品の輸出拡大戦略を背景に、既存顧客との協業により生鮮品輸出案件の拡大を図る。また、気候変動の増大や農業従事者の高齢化を背景に植物工場野菜の市場規模は拡大傾向にあることから、大規模工場の建設計画に合わせコールドチェーンを整備し輸送と保管のニーズを取り込む。
・危険物保管事業
環境・安全規制の強化により危険物保管の需要も増加傾向にあることから、危険物倉庫の拡充により危険物保管事業の拡大を図る。なお、現在、千葉県エリアにおいて危険物倉庫の建設を計画中である。
c) 効率化推進分野での取り組み
・石油ローリー輸送の徹底効率化
石油ローリー輸送は年率2%以上のペースで減少が見込まれるため、徹底した組織のスリム化・効率化によりコスト競争力を強化し、主要顧客の石油輸送の中核的地位を維持する。
3. 海外事業
現在、中国には丸運国際貨運代理(上海)、丸運物流(天津)の2現地法人、5拠点がある。今般、常州の現地法人を天津の現地法人へ合併し、同社の分公司とすることにより事業の効率化を図っている。さらに、前年度実績を積んだ日本国内に向けた設備に関する一貫物流についても、一層の提案営業を展開し、新規の獲得業務につなげる方針である。
2017年8月に現地法人を設立したベトナムでは、フンイエン事務所を皮切りにホーチミン支店、ハナム営業所、ティエンザン営業所を開設した。日本企業のベトナム進出に合わせて、これら日系企業の輸送面をサポートしていく考えだ。また、2024年7月には現地物流梱包事業会社と資本業務提携を結び、ベトナム事業の業容拡大を目指す方針である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水野文也)
《EY》