アンジェス Research Memo(2):遺伝子医薬の開発に特化した大阪大学発のバイオベンチャー
■会社概要
1. 会社沿革
アンジェス<4563>は1999年に設立された大阪大学発のバイオベンチャーで、HGF遺伝子(肝細胞増殖因子)の投与による血管新生作用の研究成果を事業化することを目的としている。HGF遺伝子治療用製品「コラテジェン」において、田辺三菱製薬と2012年に米国市場、2015年に国内市場で末梢性血管疾患を対象とした独占的販売権許諾契約を締結した。2019年3月に国内で慢性動脈閉塞症患者向けに条件及び期限付き承認を取得し、同年9月から田辺三菱製薬を通じて販売を開始、2023年5月には条件付きの解除に向けた承認申請を行ったが、製造販売後承認条件評価(市販後調査)の結果、第3相臨床試験の成績を再現できなかったことから2024年6月に申請を一旦取り下げ、開発戦略の変更を発表した。また、米国では2019年11月より実施していた後期第2相臨床試験において良好な結果が得られたことを2024年6月に確認している。なお、2024年8月に田辺三菱製薬との日米における独占的販売権許諾契約を解消することを発表した(日本は2024年11月1日、米国は2025年2月1日。解消日が異なるのは日本が3ヶ月前、米国が6ヶ月前告知ルールのため)。
そのほかのパイプラインでは、核酸医薬品であるNF-κBデコイオリゴDNAについて、米国で慢性椎間板性腰痛症を対象に2018年より後期第1相臨床試験を実施して良好な結果を得たことから、2023年3月に塩野義製薬<4507>と国内での協力契約を締結、同年10月より第2相臨床試験を開始した。また、2022年5月に米Eiger BioPharmaceuticals, Inc.(以下、アイガー)と希少遺伝性疾患で乳児早老症とも呼ばれるHGPS(ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群)及びPDPL(プロセシング不全性プロジェロイド・ラミノパチー)を適応症とした治療剤「ゾキンヴィ」の国内での販売契約を締結し、2024年1月に製造販売承認を取得し同年5月より販売を開始した。なお2022年9月に、国内で進めていた新型コロナウイルス感染症(武漢型)向けDNAワクチンの開発中止を発表、併せて新型コロナウイルス感染症の変異株を含むウイルス性肺疾患を対象とした改良型DNAワクチンの経鼻投与製剤について、米スタンフォード大学と共同研究契約を締結した。
M&A・アライアンス戦略として、2018年にカナダのVasomune Therapeutics, Inc.(以下、Vasomune)と共同開発契約を締結し(2023年3月に273百万円を出資)、新型コロナウイルス感染症及びARDS(急性呼吸窮迫症候群)を対象とした治療薬候補品「AV-001」(Tie2受容体アゴニスト)の開発を進めている。また、2018年にはマイクロバイオームの研究開発を行うイスラエルのMyBiotics Pharma Ltd.に出資した(2022年11月に転換社債74百万円を引き受け、減損処理済み)。2020年には、ゲノム編集技術により希少遺伝性疾患の治療薬開発を目指す米Emendoの株式を取得し子会社化した。
医薬品開発以外の事業としては、2021年4月に新生児の希少遺伝性疾患検査を主目的とした衛生検査所ACRLを開設し、CReARIDと連携して、オプショナルスクリーニング検査の受託サービスを提供している。
2. 事業の特徴とビジネスモデル
同社の事業の特徴は、遺伝子の働きを活用した医薬品である遺伝子治療用製品、核酸医薬、そしてDNAワクチンを遺伝子医薬として定義し、社会的な使命であるとともに確実な需要が存在する「難治性疾患」や「有効な治療法がない疾患」を開発対象領域としていることにある。また、自社開発品以外にもこうした事業方針と合致する開発候補品を海外のベンチャーや大学などの研究機関から導入して、開発パイプラインの強化とリスク分散を図っている。
同社のビジネスモデルは、研究開発に特化し(製造は外部の専門機関に委託)、開発品についての共同開発や独占的製造販売権許諾契約を大手製薬企業と締結することで、契約一時金や開発の進捗状況に応じたマイルストーン収入や、上市後の製品売上高に対して一定料率で発生するロイヤリティ収入を獲得することを主軸としている。臨床試験の規模や期間は対象疾患等によって異なるが、第1相から第3相試験までおよそ3~7年程度かかると言われている。臨床試験の結果が良ければ規制当局に製造販売の承認申請を行い、おおむね1~2年の審査期間を経て問題がなければ承認・上市といった流れとなる。新薬開発の成功確率は低く、基礎研究段階に特定したリード化合物が新薬として発売される確率は、約3万分の1と言われている。
希少遺伝性疾患の検査受託サービスでは、新生児の希少遺伝性疾患を調べるための拡大新生児スクリーング検査を提携先のCReARIDを通じて受託している。スクリーニング検査で要精密検査となれば遺伝学的検査(確定検査)を行う。スクリーニング検査やその後の確定検査によって発症前の早期段階から治療を始めることで、症状の進行を抑える効果が期待できる。検査対象となる疾患は、自治体が公費で実施するマススクリーニング検査(20疾患が対象)以外の希少遺伝性疾患で、希望者に対して有償で検査を実施している。現在検査可能な疾患はムコ多糖症やファブリー病(男子のみ)など9疾患※1だが、今後拡充する考えだ。CReARIDの検査数は連携医療機関の増加や認知度向上もあって年々増加傾向にあり※2、2023年度(2023年4月?2024年3月)は約3.4万件の検査を実施し(2020年度約1.2万件、2021年度約1.7万件、2022年度約2.0万件)、このうち同社で約2万件の検査を受託した。CReARIDによれば、約3.4万件の検査のうち要検査判定が出たのは56件で、その後の精密検査で8件が確定診断されたと言う。
※1 ムコ多糖症I型、II型、IVA型、VI型、ポンペ病、ファブリー病、副腎白質ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症、重症複合免疫不全症の9つの疾患を対象に検査を実施している。
※2 連携医療機関は2024年8月時点で首都圏を中心に103施設(12都道府県)あり、検査実施率は院内出産児の6~8割程度となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《HN》