金は内外で最高値を更新、中東情勢や米大統領選の不透明感で <コモディティ特集>
金は10月、米連邦準備理事会(FRB)の大幅利下げ観測が後退したが、利下げ見通しに変わりがないことに加え、中東情勢に対する懸念や米大統領選の不透明感を受けて上値を試し、内外で最高値を更新した。ドル建て現物相場は2748.66ドル、JPX金先限は1万3400円台まで上昇した。
パウエル米FRB議長は経済が予想通りに推移すれば、政策は時間の経過とともに、より中立的な姿勢へと移行するとの見解を示した。利下げを急がない姿勢が示され、大幅利下げ観測が後退した。9月の米雇用統計によると、非農業部門雇用者数は前月比25万4000人増で事前予想の14万人増を大幅に上回った。失業率は4.1%で前月の4.2%から低下した。予想以上の強さとなった米雇用統計を受けて米FRBの11月の50ベーシスポイント(bp)利下げの可能性はなくなった。ただ、9月の米消費者物価指数(CPI)は前年比2.4%上昇と前月の2.5%上昇から伸びが鈍化し、約3年半ぶりの小幅な伸びとなった。事前予想の2.3%上昇を上回ったが、米FRBの利下げ見通しに変わりはなく、11月と12月の25bp利下げが見込まれた。
欧州中央銀行(ECB)理事会は中銀預金金利を25bp引き下げ、3.25%とすることを決定した。ユーロ圏でインフレが一段と抑制される一方、景気見通しは悪化しているとの認識を示した。ECBは次の動きについて新たな手がかりは示さず、今後のデータに基づいて「会合ごとに」決定を下すと改めて表明したが、関係者は12月の利下げを見込んでいる。また、9月の英CPIは前年比1.7%上昇と前月の2.2%上昇から大幅に鈍化し、2021年4月以来の低い伸びとなった。イングランド銀行の11月利下げが見込まれた。欧米の中銀が利下げサイクルに転じたことで金の押し目は買われやすい。
●中東情勢や米大統領選も当面の焦点
イスラエルは、レバノンの首都ベイルート南部にある親イラン民兵組織ヒズボラ本部を空爆し、指導者ナスララ師を殺害した。イランは報復攻撃でイスラエルに向けて約200発のミサイルを発射した。また、イスラエルはパレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスの最高指導者シンワル氏を殺害した。
ヒズボラはシンワル氏がイスラエル軍に殺害されたことを受け、イスラエルとの戦争が更にエスカレートした「新たな段階」に入ったと述べた。イランも「抵抗の精神が強化される」と表明した。ヒズボラはイスラエルのネタニヤフ首相の自宅をドローン(無人機)で攻撃。イスラエルはイランの軍事施設を標的に攻撃を実施するとし、核や石油関連施設は標的にしない意向を米国に伝達し、報復攻撃の協議を続けている。報復攻撃が実施された場合のイランの対応を確認したい。一方、米軍はイエメンの親イラン武装組織フーシ派の兵器保管施設5ヵ所をステルス戦略爆撃機「B-2スピリット」で攻撃した。
米アトランタ地区連銀のボスティック総裁は米大統領選を巡る不確実性により、消費や企業投資が停滞する可能性があるとの見方を示した。共和党候補のトランプ前大統領は、中国が台湾に侵攻した場合、追加関税を課す意向を示した。米大統領選まで約2週間となるなか、民主党候補のハリス副大統領と共和党候補のトランプ前大統領は激戦州で接戦を繰り広げている。
中国は14日、台湾を包囲する形で大規模軍事演習を実施。台湾の建国記念日に相当する双十節で頼清徳総統が行った演説への対抗措置とみられる。
●金ETFに投資資金が流入
世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は、10月22日に895.24トン(9月末871.94トン)となった。米FRBの利下げ見通しに加え、中東情勢に対する懸念や米大統領選の不透明感を受けて投資資金が流入した。
一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは10月15日時点で28万6434枚(前週27万8180枚)となった。9月24日に31万5390枚と2020年3月以来の高水準となったのち、利食い売りが出た。ただ、米金融大手シティグループの調査部門が金価格の3ヵ月後の見通しを従来の2700ドルから2800ドルへ上方修正しており、ファンド筋の押し目買い意欲は強いとみられる。
(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)
株探ニュース