イランの防衛システムは瀕死か、イスラエル追撃なら原油相場は暴騰? <コモディティ特集>
今月、イランがイスラエルに報復攻撃を実施したことを受けて、イスラエルがイランに反撃した。イランに配備されていたロシア製防空システム「S-400」、「S-300」、「S-200」、1000キロメートル超を見渡せるイラン国内で最大といわれるレーダー施設、弾道ミサイル向けの燃料製造工場、ドローン製造工業が破壊されたと伝わった。対空防衛基地で数名の兵士も死亡した。以前利用されていた核実験施設の一部装置や、イラン南部アバダン製油所の備蓄タンクが破壊されたとの報道もある。今回の攻撃前、イスラエルはイランの核関連施設や石油を標的としないという報道はあったが、現実はやや異なった。「S-300」や「S-200」は石油関連施設など要所に配備されており、現在のイランは空からの攻撃にかなり脆弱となっているとの分析がある。イランは公式に被害規模を公表していないため憶測の域を出ないものの、衛星画像からすると、控えめにみても被害は大きい。
イスラエル軍は戦闘機に搭載したミサイルでイラン本土を攻撃した。米CNNによると、イスラエル軍は100機超の航空機を発進させてシリアからイラクの領空に入り、一部はイラン領空に侵入してから攻撃を実施した。600発超のミサイルが打ち込まれたとの報道がある。イスラエル軍の戦闘機に被害はなく、上述したような損害が発生したならば、今回の作戦は大成功だろう。イスラエルはイランに反撃しないよう警告しているが、この規模の被害で痛み分けとなるのか疑問である。また、イランの対空防衛が手薄になっているならば、イスラエルにとっては追加攻撃の好機が到来しているのではないか。
●イランに反撃の余裕はあるか
イスラエルの攻撃が終わった後、イランがイスラエルに対して反撃しないと仲介国を経由して伝えたとの報道があったほか、イランの被害が限定的だったと伝えたメディアもあるが、イスラエルは越えてはならない一線を明らかに越えた。今回の攻撃をイランが許すなら、更に大規模なイスラエルからの攻撃を許容することになる。
事前の報道からは想像できないほど、イスラエルのイラン攻撃は大規模だった。イランの対空防衛システムはそれなりに機能したのだろうが、一度に数百発のミサイルを迎撃することは不可能である。広範な被害からすれば、西側の兵器に対してイランの軍備が安泰であるとはいえず、イスラエル軍は中東の軍事大国であるイランの弱さを露呈させた。イラン革命防衛隊(IRGC)などイランの軍事当局者は、イスラエルが攻撃した場合には即反撃する可能性を示唆していたが、それどころではなかったようだ。今回の攻撃前、イスラエルのガラント国防相はイランとの戦争が数ヵ月間続くリスクに言及しており、イランの対応次第では衝突が長引きそうだ。イランはイスラエルを今年2回ほど手加減しつつ攻撃したが、まだその余裕はあるのだろうか。
イランの報復は、高齢となったイラン最高指導者のハメネイ師の判断次第である。重病説の流れるハメネイ師はイランの力をイスラエルに示すべきとしたうえで、その方法については「当局者が決定すべきであり、国民と国のためになることが行われるべきだ」と述べた。更なる衝突回避を示唆した慎重な発言であるようには見えない。
●主導権はイスラエルに
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、イスラエル軍はイランの対空防衛システムがすべて停止したと認識しており、そうであるならば、イラン本土は丸裸である。イスラエルの再攻撃を防ぐ能力をイランが喪失しているなら、イランがすぐに反撃する可能性はほぼないのではないか。イランが防衛システムの再構築を優先し、反撃を当面見送るならば、今週の原油安が示すように報復合戦は一旦終わりだろう。無防備となったイランはいったん何もすべきではない。ただ、被害は限定的だったと強がった発表を繰り返せば、イスラエルは無抵抗な相手に更なる打撃を加えるに違いない。
一方、イランが反撃を見送るならばイスラエルにとっては追撃の好機である。イスラエルは敵国イランの石油インフラや、核開発施設を破壊する千載一遇のチャンスを手にしている。イスラエルのチャンネル13はイスラエル軍による追加攻撃の可能性を報道した。イランよりもイスラエルの動きに目を向けるべきかもしれない。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
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