金は軟調、トランプトレードが圧迫もウクライナ情勢を確認<コモディティ特集>
金は11月上旬から中旬まで米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領が勝利したことを受けて売り優勢となった。トランプ氏が公約として掲げる関税や減税、移民対策などでインフレに対する懸念が高まり、ドル高に振れた。また、共和党が大統領職に加え、上下両院を制するトリプルレッドとなったことで公約がすべて実行されるとの見方もドル高の要因となった。ただ現在は、次期政権の人事が相次いで発表されるなか、政策を見極めようとこの動きは一服している。
一方、バイデン米政権がウクライナに米国の長距離兵器でロシア領内の攻撃を許可すると、ウクライナ情勢に対する懸念から金は買い戻し主導で反発した。ドル建て現物相場は9月12日以来の安値2538ドル台をつけたのち、下げ一服となった。いわゆるトランプトレードが再開すれば上値を抑える要因になるが、地政学的リスクの高まりなどで金がインフレヘッジとして見直されれば、安値拾いの買いが入るとみられる。
これまでに発表されたトランプ次期政権の人事をみると、政策は不法移民の強制送還、対中強硬、イスラエル寄りであることが伺える。トランプ氏は政府効率化省を新設し、そのトップに実業家イーロン・マスク氏を起用すると発表。実業家で共和党の大統領予備選で争ったヴィヴェック・ラマスワミ氏も加わり、無駄な予算の削減を進めるという。政府予算の約3分の1となる2兆ドルを連邦政府の支出から減らすよう求めており、官僚の多くが解雇されるとみられる。
トランプ前大統領の就任まではウクライナ情勢の行方が焦点である。ウクライナのゼレンスキー大統領はトランプ氏と電話会談したのち、トランプ前大統領が就任することでロシアとの戦争終結が早まるとの見方を示している。ただ、ウクライナがバイデン米政権から許可された米国の長距離兵器でロシアを攻撃したことで、ロシアが米国を攻撃する可能性がある。また、中東ではレバノンと同国の親イラン武装組織ヒズボラがイスラエルとの停戦に向けた米国の提案に条件付きで合意したことが伝えられており、これらの行方を確認したい。
●米FRBのターミナルレート予想を上方修正
トランプ次期米大統領の政策でインフレ懸念が高まるなか、米連邦準備理事会(FRB)のターミナルレート(政策金利の最終到達点)の予想が上方修正されつつある。利下げを開始した9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、2026年末時点の政策金利は2.9%で中立金利に達すると予想されたが、米銀バンク・オブ・アメリカ(BofA)はターミナルレートが3.75~4.00%になると予想した。12月と来年3、6月の米FOMCで合計75ベーシスポイント(bp)の利下げ見通しとなった。
10月の米雇用統計によると、非農業部門雇用者数は前月比1万2000人増と事前予想の11万3000人増を大幅に下回り、2020年12月以来の最小の伸びとなった。失業率は4.1%で前月と変わらず。10月の米消費者物価指数(CPI)は前年比2.6%上昇した。家賃などの住居費の上昇を受けて前月の2.4%から伸びが加速した。ただ、事前予想と一致したことで12月の利下げ見通しに変わりはなかった。10月の米小売売上高は前月比0.4%増加した。自動車や電化製品の堅調な売り上げを受けて事前予想の0.3%増を上回った。
パウエル米FRB議長は労働市場の状況は底堅いとし、米FRBは利下げを急ぐ必要はないとの見方を示した。トランプ次期大統領の政策による経済への影響については、「実際の政策を確認するまで答えは明らかではない」とした。
●金ETFに投資資金が流出
世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は、11月18日に871.65トン(10月末891.79トン)となった。米大統領選でトランプ前大統領が勝利したことを受けて投資資金が流出した。
一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは11月12日時点で23万6451枚(前週25万5329枚)となった。10月22日の29万6204枚が目先のピークとなるなか、利食い売りが出て買い越し幅を縮小した。
(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)
株探ニュース