決算発表の振り返り、第1次トランプ政権の記憶【フィリップ証券】

市況
2024年11月21日 12時17分

主要企業の4-9月期決算発表が一巡した。東証がPBR(株価純資産倍率)1.0倍割れ企業を中心に、上場企業に対して「資本コストや株価を意識した経営」の推進を要請する中、投資家は低PBR企業に対して決算発表の機会ごとに改革を期待し、企業側もその期待に応えるような動きが増えているように見受けられる。

今回の決算発表の中では、紳士服大手の青山商事<8219>が11/12の取引時間終了後に発表した配当方針の変更が注目される。変更前は「年間配当額60円を下限とし、連結配当性向40%を目途として、利益成長を通じた累進的な配当を行う。」としていたのを、変更後は「連結配当性向70%もしくは株主資本配当率(DOE)3%のいずれか高い方を採用する配当を行う。」とした。同社のように配当方針変更前のPBRが0.38倍であれば、DOEが3%ならば時価ベースの配当利回りが8%近くとなる。同社株価終値は11/14が11/12比49%上昇し、11/14終値のPBRも0.57倍となった。このように、低PBR銘柄の中には業績に関係なく株主還元を目的とした配当方針変更により株価が上昇する場合もある。

フリマ・アプリを取り扱うメルカリ<4385>のように、決算発表に関連した業績への失望によって株価が下落した場合でも、投資ファンドが大量保有報告書を提出して大株主となったことで株価の底入れへの期待が高まる場合もある。メルカリは米国事業の不振が業績の重荷となる中で事業の選択と集中が課題である。投資ファンドとしては利益獲得のため、株価低迷が続く場合に保有割合を高めて「物言う株主」として経営に対して圧力を高める可能性があるだろう。その意味では、更なる大幅な株価下落のリスクが限定されつつあると見る余地もあるだろう。業績への失望で株価が下落する銘柄の中にも投資チャンスを見出すことは可能だろう。

日本株市場を取り巻く環境は、決算発表が一巡したことで企業業績よりも米国のトランプ次期政権の政策の動向、あるいは国内の補正予算を伴う経済対策や年末恒例の税制改正に向けた政治の動向などに左右されやすくなるだろう。2017年以降の第1次トランプ政権では「米国ファースト」の保護主義的な貿易政策と米中貿易摩擦により、「米国1強」とそれに対比される世界経済の減速といったグローバル経済の下で為替のドル高と米国長期金利低下がみられた。為替相場も9月以降に円安ドル高傾向となるなか、主要通貨の対ドル相場を指数化したドル指数を見ると、2022年と2023年は9月末から10月にかけて年内ピークを付けた。今年も11月になって年内ピークを更新した。ドル高に季節性があることにも要注意だろう。

■第1次トランプ政権時を振り返る

第1次トランプ政権下の2017~2019年(新型コロナ禍の2020年を除く)は、2017年はトランプ前大統領が輸出促進のため「弱いドル」を標榜し、グローバル経済の回復がドル安圧力を強めたが、2018~2019年はトランプ政権の保護主義的な貿易政策と米中貿易摩擦の激化により、「米国1人勝ちと他の主要国経済の鈍化」の傾向が強まったこと、およびリスク回避のため安全資産としてのドル買い需要が高まった。

2018年前半までは世界経済の回復に伴って米国長期金利と原油価格が上昇していたものの、後半以降は世界経済の減速懸念と不確実性の高まりが長期金利低下と原油価格下落をもたらした。そのような中でも米国株市場は大型ハイテク株を中心に概ね堅調に推移した。

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■重工大手3社の防衛事業が拡大

米大統領選でトランプ前大統領が勝利したこともあり、日本の防衛予算拡大が続くとの期待から三菱重工業<7011>、川崎重工業<7012>、IHI<7013>への市場の注目が高まっている。防衛事業では、受注後の開発案件の進捗度合いに応じて売上収益が計上されることとなっており、受注高の動向が株価に直結しやすいと考えられる。2024年4-9月における各四半期の各社の防衛関連事業セグメントを見ると、売上収益および利益は3社とも前年同期比で堅調に伸びた。一方で、受注高の伸び率はIHIが最も高く、川崎重工業がこれに続く。

人材確保など生産・開発体制強化が必要となることから、採算度外視の受注増が利益を圧迫する可能性もあり、慎重に期待するすべき面もあるだろう。

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参考銘柄

シャープ<6753>

・1912年に早川徳次が創業。2016年に台湾の鴻海精密工業の傘下入り。主力の液晶パネルのほか家電に注力。電気通信機器・電気機器および電子応用機器全般、電子部品の製造・販売を行う。

・11/2発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比5.3%減の1兆964億円、営業利益が前年同期の▲58億円から4億円へ黒字転換。液晶パネル等を中心としたデバイス事業(売上構成比36%)が同24.9%減収となったことが響き全体が減収も、構造改革効果により営業損益が改善した。

・通期会社計画は、売上高が前期比9.6%減の2兆1000億円、営業利益が前期の▲203億円から100億円へ黒字転換、年間配当は未定。同社は業績の重荷となっている液晶パネル生産の大幅縮小方針を打ち出す中で中小型液晶工場について一部を半導体製造の後工程への転用を図るほか、堺工場をAI(人工知能)向けデータセンターとして整備を進める等、効率活用の余地が広がっている。

アイシン<7259>

・1949年に愛知工業株式会社として設立。トヨタ自動車<7203>系の自動車部品大手。自動車部品事業はパワートレイン、走行安全、車体、CSS関連他に区分。エナジーソリューション事業等も営む。

・10/31発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上収益が前年同期比4.2%減の2兆3525億円、営業利益が同38.1%減の561億円。中国および欧州向けパワートレインユニット販売台数減が響き減収。利益面は為替の円安の追い風も、人・将来への先行投資により営業減益。粗利益率は同0.4ポイント低下。

・通期会社計画を下方修正。売上高を前期比2.2%減の4兆8000億円(従来計画4兆9200億円)、営業利益を同39.5%増の2000億円(同2200億円)とした。株式分割(1対3)が無かった場合の年間配当は同10円増配の180円。同社開発の音声認識アプリは聴覚障害に対応の他、リアルタイム翻訳機能を備えホテルや鉄道駅窓口での利用が拡大。自動運転に向けた電装化の加速が追い風となるだろう。

住友倉庫<9303>

・1899年に住友家による個人商店で倉庫業を開始。主力の物流事業(倉庫、港湾運送、国際輸送、陸上運送ほか)に加え、不動産事業を営む。海運事業は2023年6月末で売却し、撤退を完了した。

・11/7発表の2025/3期1H(4-9月)は、営業収益(うち94%が物流事業)が前年同期比1.9%増の952億円、営業利益が同2.6%減の63億円。倉庫収入が同2.0%増、港湾運送収入が同1.6%増、国際輸送収入が同0.8%増、陸上運送ほか輸入が、Eコマース関連輸送増加を背景に同3.2%増だった。

・通期会社計画は、営業収益が前期比4.0%増の1920億円、営業利益が同2.4%増の135億円、年間配当が同横ばいの101円。倉庫株が円高デメリットが限定された内需株として買いが集まる中で同社株価は競合先の三井倉庫ホールディングス<9302>と比べて出遅れ傾向がみられる。トランプ次期米政権で貿易関税により海外輸出が減少した場合、輸出向け製品を保管する需要増加が見込まれる。

関西電力<9503>

・1951年に電気事業再編成令により大阪市で設立。主力の電気事業のほか情報通信事業、その他事業(エネルギー・ソリューション関連「総合エネルギー」、生活環境関連「生活アメニティ」を含む)を営む。

・10/30発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比3.1%増の2兆1365億円、経常利益が同37.5%減の3192億円。総販売電力量が同15.1%増となったことが増収に寄与。利益面は、原子力発電利用率上昇があったものの、電気料金に関する燃料費調整制度による収入減の影響により減益。

・通期会社計画は、売上高が前期比9.6%増の4兆4500億円、経常利益が同53.0%減の3600億円、年間配当が同10円増配の60円。11/13に新株発行と自己株売り出しを通じ、最大5049億円を調達すると発表。11/14の株価は需給悪化懸念から下落も、電源効率化と脱炭素化に向けた設備投資資金、およびデータセンターや再エネ事業などへの成長投資としており、成長株投資として見直し余地も大きいだろう。

※執筆日 2024年11月19日

フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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