Mimaki Research Memo(2):「水と空気以外なら何にでもプリントできる」ことが究極の開発目標
■会社概要
1. 会社概要
ミマキエンジニアリング<6638>は産業用インクジェットプリンタの大手で、顧客ニーズに応じた様々なインクジェットプリンタ、カッティングプロッタ、3Dプリンタ、そうした製品に使われるインクやソフトウェアなどの開発・製造・販売・保守サービスをワンストップで提供している。同社は、「水と空気以外なら何にでもプリントできる」ことを究極の開発目標に据える開発型企業であり、常に「新しさと違い」にこだわった、先進性と独自性のある高付加価値な製品を市場に投入している。販売市場は、広告・看板などの製作を支えるSG市場、工業製品や一般消費者向け小物類への加飾をしているIP市場、生地や既製服を捺染するTA市場の3つで、海外売上高構成比約70%というグローバルな事業をローカルな営業力で展開している。
転機は電子部品からペンプロッタへのシフト
2. 沿革
同社は1975年8月、時計用水晶振動子の組み立てを目的に長野県で設立された。1983年にA2サイズのフラットベッドペンプロッタ※を自社開発し、1985年に数値制御による美しい円弧作図が評判となった「北斎」ブランドのペンプロッタを発売した。これを機に大型プロッタの製造・販売に参入し、1987年に偏芯カット方式採用のカッティングプロッタ、1996年には水性顔料インクを搭載したインクジェットプリンタを世界で初めて発売するなど、電子部品からペンプロッタの技術を生かした製品の開発・製造に事業をシフトした。その後、高付加価値製品の開発を継続するとともに、営業の全国展開、グローバル展開を推進した。このため順調に成長を続けてきたが、新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)で一時的に成長の踊り場を迎えることとなった。現在は、中長期成長戦略「Mimaki V10」によってコロナ禍からのV字回復を達成、再成長期入りしたところである。
※ (ペン)プロッタ:X/Y値を用いた建築物や機械の製図・設計に使われる。ペン以外のものを装着したプロッタをペンレスプロッタといい、ナイフを装着してフィルムなどを切るものをカッティングプロッタという。
デジタル化が進む産業用インクジェットプリンタ
3. 主力製品の特徴
(1) カッティングプロッタ
カッティングプロッタは、プロッタに装着されたナイフによってコンピュータ上でデザインしたとおりにフィルムなどを切り抜くことができる機械で、ステッカーやポスター、看板を作成する際に使われる。カッティングプロッタは看板作りを、職人による手書きから切り抜いた文字を貼り付けるだけの作業へと進化させ、看板作りのデジタル化に大きな役割を果たした。看板を作るための職人的な熟練技術が不要になっただけでなく、1年も経てば退色するペンキに対してフィルムは数年経っても退色しないため、看板の屋外耐候性も大幅に向上した。
同社が1987年に発売したカッティングプロッタは、偏芯カット方式を世界で初めて採用し、画数の多い漢字でもカッターの上げ下ろしなしに素早くカットできるため大きな評価を得、看板の製作現場で同社製品の認知度が向上するきっかけとなった。インクジェットプリンタによるグラフィカルな看板が主流になった現在でも、プリントTシャツを作成する際に熱転写用ラバーシートの切り抜きに用いられるなど、世界中の製作現場で、同社のカッティングプロッタはなくてはならない設備として稼働している。なお、カッティングプロッタにはロールタイプとフラットベッドタイプの2種類があり、ロールタイプはロール状のシートをカットし、フラットベッドタイプは素材を台に載せてカットする。厚みや硬さがあってロール状にできない素材でも、フラットベッドタイプであればある程度カットすることができる。
(2) 産業用インクジェットプリンタ
ドット状のインクを吐出することでプリントする装置で、基本的に家庭用インクジェットプリンタと同じ原理で動作する。違いは用途にあり、家庭用プリンタは文字や写真などを紙にプリントするのに対し、産業用プリンタはプラスチックやガラス、木、布など多種多様な素材にプリントすることができる。大きさも家庭用がA4サイズを中心に比較的小さな紙にプリントするのに対し、産業用は四畳半程度の大きさの板や立体の造作物にまでプリントできる。価格も、家庭用が数万円なのに対して、産業用はプリントスピードや大きさ、搭載するインクにより様々なプリンタがあり、100万円前後?数1,000万円程度と高価で幅が広い。インクも、家庭用が水性インクであるのに対し、産業用は様々な素材に応じた多種多様なインクがあり、「屋外でも色あせない」「水に流れ落ちない」「こすっても落ちない」といった耐薬品性、耐水性、耐久性、耐光性、耐擦過性などを備えた機能性インクが多い。
また、手間や在庫リスク、製版コストのかかる従来のアナログ印刷と異なり、産業用インクジェットプリンタはデジタル化で印刷版が不要になったため、「必要なときに必要なだけ」というデジタル・オンデマンド生産が可能となった。従来の見込みによる大量生産・大量販売・大量消費を前提としない、多品種少量の受注生産と短納期・低コストを同時に実現し、多様化するプリントニーズに応えるソリューションとして産業界で高い注目を集めている。加えて、従来のアナログ印刷では版を洗浄するための排水処理が必要だったが、産業用インクジェットプリンタは、絵柄部分だけにインク吐出するためプリントに必要なインクの量も排水する量も非常に少なく、時代のニーズに応えるエコロジーな生産方式と言える。なお、産業用インクジェットプリンタにもロールタイプとフラットベッドタイプの2種類がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《HN》