トランプ次期政権下でブロックチェーンと「ペイパルマフィア」銘柄が躍進へ【フィリップ証券】

市況
2024年12月13日 14時37分

12/6発表の11月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が市場予想を超えて増加したものの、失業率が前月比0.1ポイント上昇したことを受けて米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ観測を強める結果となった。これは「マグニフィセント・セブン」と言われる時価総額上位の大型ハイテク株への更なる資金流入を促した。暗号資産のビットコイン(BTC)は既に12/5に史上初めて1BTC当たり10万USDを超えたが、雇用統計の発表を受けて再度10万USDを超えて上昇した。

ビットコインは今年、4月に半減期(ブロック報酬が半減するイベント)を迎えることから価格上昇への投資家の期待が高まっていたなか、暗号資産の推進政策を掲げていたトランプ氏の大統領選勝利が価格上昇に拍車をかけた。トランプ次期大統領は、米証券取引委員会(SEC)の次期委員長にポール・アトキンス氏を指名することを発表。更に、AI(人工知能)と暗号資産を巡る政策の責任者に米決済大手ペイパル・ホールディングス<PYPL>の元幹部で著名ベンチャー投資家のデービッド・サックス氏を起用すると発表した。

アトキンス氏は、暗号技術によって正確な取引履歴を維持する「ブロックチェーン」技術に関して、ブロックチェーン活用を推進する組織の共同会長を務めていた人物である。サックス氏がかつて幹部だったペイパルには、テスラ<TSLA>やスペースXなどのCEOであり、トランプ氏の大統領選勝利を支援したイーロン・マスク氏のほか、ビッグデータ分析のプラットフォームで成長中のパランティア・テクノロジーズ<PLTR>を率いるピーター・ティール氏、Eコマース向け金融サービスのアファーム・ホールディングス<AFRM>を率いるマックス・レブチン氏、地元企業の口コミ情報を消費者に提供するプラットフォームを運営するイェルプ<YELP>を率いるジェレミー・ストップルマン氏などが出身者として関わっており、サックス氏も含めて彼らは「ペイパルマフィア」と呼ばれている。

最近、動画のネットフリックスで「地面師たち」という日本の配信ドラマが人気となった。これは実際にあった不動産詐欺事件を元にドラマ化したものだが、ブロックチェーン技術を利用して「デジタルトークン」というデジタル権利証が流通するようになれば、このような詐欺事件の発生を防ぎつつ、迅速に権利を移転できるようになるだろう。トランプ次期政権の下、ブロックチェーンが暗号資産にとどまらず、金融業界や不動産業界その他に幅広く広がることが見込まれ、「ペイパルマフィア」のような天才的起業家・事業家が活躍しやすい経済になる余地が大きいように思われる。「マグニフィセント・セブン」に集中していた投資資金が次に向かう先は、AIやブロックチェーン分野で、天才的な起業家や事業家が率いる勢いのある新興企業かもしれない。

【タイトル】

参考銘柄

グローバルXブロックチェーン<BKCH> 市場:NASDAQ・・・分配金:年2回(権利落6・12月)

・「ブロックチェーン技術」を提供する事業運営を行う企業群を代表する「ソラクティブ・ブロックチェーン指数」の価格および分配金利回り(手数料・経費控除前)に連動する投資成果を目指す。

・12/6終値で時価総額が2.39億USD、過去12ヵ月間の実績分配金利回りが1.37%。組入れ上位順6社は、コインベース・グローバル<COIN>、マラ・ホールディングス<MARA>、コア・サイエンティフィック<CORZ>、ライオットプラットフォームズ<RIOT>、ハット8<HUT>、IREN<IREN>

・昨年末終値から12/6終値までの騰落率(インカムゲインを除く)は、同ETFが+115.4%に対し、ダウ工業株30種平均が+18.5%、S&P500指数が+27.7%、ナスダック100が+28.4%。トランプ次期米大統領は12/4、証券取引委員会の次期委員長にポール・アトキンス氏を指名すると発表。同氏が指名を受託するかは未だ不透明も、トランプ次期政権のブロックチェーン推進の方針は明確だろう。

セールスフォース<CRM> 市場:NYSE・・・2025/2/28に2025/1期4Q(11-1月)の決算発表予定

・1999年創業のCRM(顧客関係管理)の大手。「セールス」、「サービス」、「マーケティング・コマース」といったクラウド関連業務のほか、企業向けに「セールスフォース・プラットフォーム」を提供する。

・12/3発表の2025/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比8.3%増の94.44億USD、非GAAPの調整後EPSが同14.2%増の2.41USD(会社予想2.42-2.44USD)。10月末の残存履行義務(RPO)が同10%増、調整後粗利益率が同1.2ポイント上昇の33.1%へ改善と、成長性と利益率の両立が進展した。

・2025/1通期会社計画は、売上高が前期比8-9%増の378-380億USD(従来計画:377-380億USD)と下限を引き上げた一方、調整後EPSを同21-22%増の9.98-10.03USD(同:10.03-10.11USD)と下方修正。具体的な指示を出さなくても自らの判断で仕事をする自律型AI(人工知能)の「AIエージェント」に注力。企業の営業・マーケティングを支援する「エージェントフォース」を開発し10月に提供開始。

ルルレモン・アレスティカ<LULU> 市場:NASDAQ・・・2025/3/21に2025/1期4Q(11-1月)の決算発表予定

・1998年にバンクーバーで設立。「lululemon」、「ivivva」等のブランドのもと、ヨガ、ランニング、トレーニング向けスポーツアパレルを提供する。北米、欧州、アジアに749店舗を展開(2024年10月末)。

・12/5発表の2025/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比8.7%増の23.96億USD(会社予想:23.40-23.65億USD)、非GAAPの調整後EPSが同13.4%増の2.87USD(同:2.68-2.73USD)。調整後営業利益率が同0.7ポイント上昇の20.5%。既存店売上高は米州が同2%減も、海外が同25%増。

・通期会社計画を上方修正。営業日数調整後の売上高を前期比約7%増の104.52-104.87億USD(従来計画:103.75-104.75億USD)、調整後EPSを同10-11%増の14.08-14.16USD(同:13.95-14.15USD)とした。同社で2番目に大きな市場である中国の現地でSNSのインフルエンサーらと連携し顧客層を絞った販売戦略が奏功。同社CEOは「感謝祭連休の営業に満足している」と話した。

ヌー・ホールディングス<NU> 市場:NYSE・・・2025/2/20に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・2013年設立のブラジルのフィンテック企業。サンパウロ拠点に南米で個人・法人顧客にデジタル金融のプラットフォームを提供。バークシャー・ハサウェイ<BRK.B>が11.8億USDを保有(24年9月末)。

・11/13発表の2024/12期3Q(7-9月)は、総収益が前年同期比37.7%増の29.43億USD、非IFRS調整後純利益が同66.5%増の5.92億USD。9月末世界顧客数が同23%増の1.10億人、顧客稼働率が同0.8ポイント上昇の83.6%。前四半期比も9月末世界顧客数が5.0%増、稼働顧客数が5.2%増と堅調。

・同社の競争優位性は物理的拠点を持たない低コスト構造により手数料を低く抑えて顧客に還元できる点にある。3Qの稼働顧客1人当たり月間平均収入が前年同期比10%増に対し、同月間平均コストは22%減の0.7USDにとどまり、規模拡大が利益率上昇に繋がりやすい。顧客の約90%を占めるブラジルでは11/6、政策金利が0.50ポイント引き上げられて11.25%(2会合連続の引上げ)となった。

AT&T<T> 市場:NASDAQ・・・2025/1/24に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・電話機を発明したグラハム・ベルが、前身のベル・システムを創業。1983年に会社分割により同社が設立された。米国最大の通信会社で、固定電話と携帯電話でベライゾンと米通信市場を寡占。

・10/23発表の2024/12期3Q(7-9月)は、営業収益が前年同期比0.5%減の302億USD、非GAAPの調整後EPSが同6.3%減の0.60USD。労働者のストライキによる逆風が響いたものの、後払い5G携帯は、契約数が同4%増(純増数40.3万件数)、1ユーザー当たり平均収益が同1.9%増と堅調に推移。

・12/3に通期会社計画を上方修正。調整後EPSを前期比▲9-▲7%の2.20-2.25USD(従来計画:2.15-2.25USD)とした。また、約100億USDの自社株買いは26年末までに完了し、27年に約100億USDの自社株買いを追加する予定とした。今後3年間で500億USD以上のフリーキャッシュフローを創出し、うち400億SD以上を株主還元に充てる見込みとした。配当金に着目する場合、好機と考えられるだろう。

執筆日:2024年12月10日

フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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