人民元の安値メド【フィスコ・コラム】
中国政府が米トランプ次期政権の関税強化に備え、通貨安政策を本格化させています。ドル・人民元は9月末の年初来安値から1年ぶり高値圏に上昇。アメリカの対中戦略は厳しさを増す見通しですが、ドル選好地合いによる意図しない元安も強まりそうです。
来年1月の第2次トランプ政権発足を待たずして、米中通貨戦争が過熱しています。トランプ次期大統領は選挙公約に掲げていた中国製品への高関税を軸に、対中包囲網を強める方針です。関税率を前政権当時の25%から60%に引き上げるほか、中国企業への投資制限や技術移転の禁止など、過去の施策を一段と強化する、かなり厳しい措置が見込まれています。
それに対し、中国の習近平政権は米大統領選前からトランプ氏の再登板を見据え、内需拡大を柱に国内経済のテコ入れを進めてきました。政策金利である貸出優遇金利(LPR)を引き下げ、企業の資金調達コストを軽減。同時に、アメリカからの高関税による打撃を内需拡大で相殺する狙いがあります。また、関税強化による輸出コストの上昇を通貨安で打ち消す戦略で、中国政府は元安を容認する姿勢です。
米中両国の思惑を反映し、ドル・人民元相場は9月以降のトレンド転換が鮮明です。それまでは米中金利差縮小によりドル安・元高に振れていましたが、11月の米大統領選前からドル高・元安に転じています。直近の中国共産党中央政治局常務委員会では経済成長を支えるため、緩和的な金融政策を強める方針に傾いています。その際、トランプ政権は中国を為替操作国と認定し打撃を加えようとするはずです。
しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ再加速を受け、一段の緩和に慎重であるため目先のドル高は避けられません。また、アメリカを中心とした貿易摩擦で世界経済が収縮すれば、それもドル買い要因になります。トランプ氏は中国が台湾に侵攻した際には100-200%という異例の高率な追加関税を課すと警告。仮に「台湾有事」となれば、リスクオフのドル買いで一段の元安を招くでしょう。
そして中国側も台湾問題への介入を理由に、引き続き保有米国債の売却をちらつかせ、自国への圧力を跳ね除ける展開が考えられます。トランプ氏はBRICSに対し、ドル以外の通貨による貿易決済に100%の関税を主張しており、ドル離れを食い止めるのに躍起になっています。ただ、基軸通貨は常に上昇圧力がかかるため、慢性的なドル高・元安なら目安とされる1ドル=7.5元では収まらない可能性もあります。
(吉池 威)
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