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【エヌビディア①】株価3000倍はまだ途上? AIの覇者が歩む道<Buy&Hold STORIES-5->

特集
2025年1月3日 13時00分

Buy and hold Stories

エヌビディア<NVDA>
第1章Part1

エヌビディア©AFP/アフロ.

バイ・アンド・ホールド (Buy and Hold) は投資の王道と人は言う。しかし、無条件にホールドする価値のあるものなど存在するのだろうか? 移りゆく時代のなかで、企業がホールドするに足る存在であるかは常に問い続けるしかない。

ほんの数年前まで、マニアや一部の目利きしか注目していなかった"知る人ぞ知る"高技術企業が、時代の転換期とも言えるような大きな変革の波によって一躍、世界経済の中心に躍り出る。こんなシンデレラストーリーを実現したのがGPU(画像処理半導体)の最大手企業にして、いまや世界トップクラスの時価総額を誇るエヌビディア<NVDA>だ。

Buy and Hold STORIES シーズン5は、世界中の投資家の熱視線を浴び続けるAI(人工知能)時代のリーダー企業の成功の秘密と、同社を驚異的な成長へと導いた創業者、ジェンスン・フアンの歩みを取り上げる。なぜ、エヌビディアは生まれたのか? 株価が3000倍までに成長した同社株にさらなる上昇余地はあるのか? そして同社が目指すAI社会の未来像とは? AIイノベーションのアイコンでもある同社の軌跡とともに、AI相場の今後の流れを読み解いていこう。

第1章 ジェンスン・フアンとは何者か? 海を越えた異才が目指したもの

1.世界的経営者を続々輩出、技術大国・台湾の謎

【タイトル】

©AP/アフロ

「アメリカン・ドリーム」を体現した台湾のカリスマ

「いまご覧いただいた映像はシミュレーションです。アニメーションではありません。私たちはシミュレーション・カンパニーです。シミュレーションを通じて未来を予測するのです」

2024年11月、東京タワーのすぐ隣、ザ・プリンスパークタワー東京で開催された「AI Summit(サミット)」と銘打たれたイベントで、大スクリーンに映し出されたスタイリッシュなデモ映像に続いて登壇した男は、トレードマークとなった黒の皮ジャンをなびかせながら、いつも通りのエネルギッシュな口調で、CEO(最高経営責任者)を務める半導体最大手企業、エヌビディア<NVDA>のミッションを一言で表現した。

黄仁勲(ジェンスン・フアン)。台湾生まれで少年期に海を渡り、情報技術先進国、アメリカを舞台に苦難を乗り越え、2人の仲間とともにエヌビディアを設立してシリコンバレーのIT革命に参入。紆余曲折を経ながらも30年で世界トップクラスの時価総額を誇る企業へと成長させ、この2年間で一気にAI(人工知能)ムーブメントの中心へと踊り出た。

フアンが率いるエヌビディアの株価は24年の年初から2.8倍(24年12月24日終値)、23年の年初からは9倍以上(同)になっている。さらにもう少しスパンを広げて10年前、2015年の年初と比較すると280倍を超え、1999年1月のナスダック上場初値から換算すると25年間で実に3500倍を超える驚異的なパフォーマンスを生み出している。世のAIブームもあって、直近の株価パフォーマンスに注目が集まりがちだが、実は同社は長期投資の対象として見ても、文句なしの優良企業だ。幾たびかの株価急落、調整局面を経ながらも、時の経過とともに絶えず下値を切り上げ、長期にわたって右肩上がりで株価が上昇し続けている。

一躍、世界のハイテク産業の盟主の座に躍り出たエヌビディアだが、とは言え果たしてどれほど多くの日本人が、フアンと同社のことを理解しているだろうか。マグニフィセント・セブンと呼ばれるハイテク業界のライバル、マイクロソフト<MSFT>のビル・ゲイツやアップル<AAPL>のスティーブ・ジョブズ、アマゾン・ドット・コム<AMZN>のジェフ・ベゾスやグーグル(アルファベット<GOOG>)のラリー・ペイジ、メタ・プラットフォームズ<META>のマーク・ザッカーバーグ、そしてドナルド・トランプ政権入りで耳目を集めるテスラ<TSLA>のイーロン・マスクは、これまで様々な書籍やメディアで、幾度となく起業家としての物語が語られてきた。

だが、ジェンスン・フアンとエヌビディアの物語は、ライバルたちに比べればまだまだ少ない。今回の「Buy&Hold STORIES」では、世界の株式マーケットの主役でありながらも、これまであまり伝えられることのなかったフアンと同社の軌跡を可能な限り端的に記し、なぜ、この企業がここまでの成長を実現できたのかを解き明かすことで、長期投資を考える際の一助としたい。

台湾はなぜ、エレクトロニクス大国に変貌することができたのか

「台湾人にとって、ジェンスン・フアンはただの大企業の経営者ではありません。スター、いやヒーローと言ってもいいかもしれません。ご存じのようにいまはアメリカ人ですし、アメリカで成功を掴んだ経営者であることは確かです。ですが彼はいまでも台湾人としてのアイデンティティを強く持っていますし、私たちも彼に対しては台湾の同胞であるという意識を持っています」

日本在住の台湾人経営者がこう語る通り、フアンの台湾での存在感は、日本人の想像をはるかに超えている。24年6月に、世界中の半導体企業トップが集結した「台北国際コンピューター見本市」で基調講演を行うために帰国したフアンは、行く先々でマスコミや市民に取り囲まれ、さながら人気俳優や有名スポーツ選手のような熱烈な歓迎を受けた。フアンが立ち寄った台北市のグルメスポット「寧夏夜市」は、その効果で来場者が急増し、年間売上高が1割から2割増加したというほどだ。ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平がスポーツ界で最も注目されているアジア人だとしたら、フアンはいま、世界のビジネス界で最も注目を集めるアジア人と言っていいだろう。

大谷翔平は、かつて、作家のロバート・ホワイティングがルース・ベネディクトの名著、「菊と刀」をもじって「菊とバット」と称したように、実質的な国技として日本人の文化に浸透している"野球"というジャンルが生んだ最高傑作だ。一方、フアンもまた、近年の台湾のアイデンティティともなっている一大ジャンル、エレクトロニクス産業が生んだ最高峰と言えるかもしれない。

なぜ、台湾が世界の先端を走るエレクトロニクス大国になったのか。フアンとエヌビディアの物語を始める前に、その成功の一因でもある台湾の近代史にも簡単に触れておきたい。

台湾ではロックスター並みの人気を誇るジェンスン・フアン

【タイトル】

©ロイター/アフロ

ご存じのように台湾の近代の歩みは、第2次世界大戦直後に中国大陸で繰り広げられた蒋介石率いる国民党軍と毛沢東率いる共産党軍による「国共内戦」で敗走した国民党軍が、台北に中華民国の臨時政府を樹立したところから始まる。当初は中国大陸への"帰還"を目指していた国民党だったが、共産党政権が中国大陸での統治基盤を固めると、次第に大陸への反攻をあきらめ、台湾統治に専念するようになった。

フアンが生まれ育った当時の国際情勢を振り返れば、世界は東西冷戦の真っただ中。中国では文化大革命の嵐が吹き荒れ、ベトナムではアメリカが支援する南ベトナム軍とソ連が支援する北ベトナム軍によるベトナム戦争が泥沼化していた。国内外で東西のイデオロギーが武力を伴って激突するという喧騒の時代である。先日(24年12月3日)、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が突如として非常戒厳を宣布し、世界を驚かせたが、当時の台湾では1日どころではなく、1949年に出された戒厳令が実質的に30年以上続くという軍事政権下にあった。

そんな喧騒の中で73年に打ち出されたのが、蒋介石の息子で後継者と目されていた蒋経国による産業高度化プロジェクトだった。政府主導で西側資本主義国の地位を確立するために、国策として産業振興を推し進めようとしたのだ。結果として、これがいまのハイテク大国・台湾を生み出す土壌となった。

70年代以降、RCA(アメリカ・ラジオ会社、その後ゼネラル・エレクトリックが買収)、IBM<IBM>、コンパックなど、その時々の代表的なエレクトロニクス企業をアメリカから誘致。最先端技術を学ぶとともに、国内企業の育成にも力を入れた。この流れで生まれたのが、1980年設立で現在、半導体ファウンドリー世界トップ5の企業となった聯華電子(ユナイテッド・マイクロエレクトロニクス)<UMC>であり、87年創設、張忠謀(モリス・チャン)率いる世界最大の半導体ファウンドリー企業、台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>である。

半導体以外にも、エイスース、エイサー、鴻海(ホンファイ)精密工業など、80年代に栄華を誇った日本メーカーをあっという間にキャッチアップし、世界的なエレクトロニクス企業へと成長していく企業が、軍事独裁政権下で進められた産業振興策で次々に生まれていった。

その後、蒋経国は父・蒋介石の死後、台湾総統に就任すると、徐々に統治体制の台湾化や政治の自由化を進め、87年7月、ついに40年近く続いた戒厳令を解除した。さらに後継者には、台湾出身の李登輝を指名。96年に初めて国民参加による総統選挙が実施され、李登輝が選出されると晴れて台湾は民主主義陣営の一員となったのだ。

幼子たちを太平洋の向こうに送り込んだ父の"蛮勇"

こうした激動の近代史を歩んだ台湾だったが、翻ってジェンスン・フアンはどのような生い立ちを辿ったのだろうか。フアンは1963年2月17日、台湾南部の台南でこの世に生を授かった。父・黄興泰(シンタイ・フアン)は中国・浙江省出身の技術者で、48年に台湾に移住。名門として知られる国立成功大学化学工学科を卒業し、フアンが生まれた当時はアメリカの大手空調機メーカー、キャリア(現キャリア・グローバル<CARR>)のエンジニアとして働いていた。名門大学出身で世界的な企業に勤めていればエリートと言えなくもないだろうが、当時はまだ貧しかった台湾の世相もあって、一家の生活は楽ではなかったという。

フアンが4歳の頃、家族は父の転勤によりタイに移住。ベトナム戦争が激化する騒乱の東南アジアで幼少時代の一時期を過ごしたわけだ。いまになってもフアンのその頃についてはあまり語られていない。だが、数少ないフアン関連の電子書籍として台湾で出版された『輝達黄仁勲(エヌビディア・ジェンスン・フアン)─人工智慧晶片的成吉思汗(人工知能チップのジンギスカン)』(伍忠賢著・時報出版刊)では、幼いフアンがある日、プールの飛び込み台に上り、恐怖心を克服しながら飛び込みに成功したエピソードを、フアンのチャレンジ精神の原点として取り上げている。その後、父・シンタイに大きな転機が訪れる。本社のあるアメリカでの研修を命じられ、ニューヨークで勤務する機会に恵まれたのだ。

シンタイは祖国とは別世界の、ニューヨークのまばゆいばかりの光景に目を見張った。その時に彼が下した決断が、50年の時を経て、世界に大きな革新をもたらすことになる。シンタイは、すでに海を渡っていた親類を頼りに、幼い息子たちをアメリカに送り込むことを決断したのだ。「当時の台湾では、少しでも意識が高い人たちは、西側先進諸国、特にアメリカへの移住を夢見たはずです」(前出の在日台湾人経営者)。軍事独裁政権の統治が続く台湾や、ベトナム戦争の余波で政情が不安定なタイに見切りをつけ、豊かなアメリカで過ごすことが、子どもたちの将来につながるという判断だったようだ。

異国の地で子供たちを育てていたフアンの母、羅采秀(ルオ・ツァイシウ)は、シンタイの意に賛同し、自らは英語が全く理解できないにも関わらず、フアンと1歳年長の兄に、英単語を毎日10ずつ暗記することを命じたという。「私のいまがあるのは、両親が私に夢を託してくれたからです」。後年、フアンはそう述懐している。

ここからジェンスン・フアンのアメリカでのサクセスストーリー本編が始まることになる。親元を離れて兄とともに渡米したフアンは、叔父が住むアメリカ北西部、ワシントン州のタコマという小さな町で、アメリカでの生活をスタートさせた。フアンは9歳、1972年か73年のことだ。翌年、フアンが10歳になると叔父は全寮制の寄宿学校を探し出し入学させた。タコマから遠く離れたアメリカ南東部のケンタッキー州オネイダにあるオネイダ・バプティスト学院である。

アメリカの片田舎で不良少年に揉まれて暮らした少年時代

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