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河合達憲(auカブコム証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―

特集
2025年1月22日 10時00分

S&P500やナスダック、そして日経平均株価など日米の主要指数が高値圏での推移を続けている。トランプ氏の大統領就任を睨んで、新政権による減税や規制緩和を期待した楽観論が相場水準を押し上げてきた。歴史的な円安も日本の株式相場を下支えている。もっとも、関税引き上げや国境管理の厳格化などを受けた米国のインフレ懸念は根強い。また、ガザ停戦は発効したものの、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとイスラム組織ヒズボラとの衝突などは収束のメドがつかない。アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第33回は、auカブコム証券の河合達憲チーフアナリストに話を聞いた。

●河合達憲(かわい たつのり)

近畿大学大学院・博士前期課程修了。日本で数少ない証券専攻修士号のマスター称号を有する。中堅証券調査部にて調査・情報畑一筋で30数年来、企業調査や投資戦略、投資手法などのストラテジー構築に従事。ファンダメンタルとテクニカルを融合した投資分析を実践しており、各種メディアで推奨銘柄の的中率の高さは実証済み。マクロ分析から個別銘柄までトップダウンアプローチでの分析力にも定評。『9割の人が株で勝てない本当の理由』(扶桑社)、『株の五輪書』(マガジンハウス)など著書多数。毎週火曜夜のauカブコム証券ストラテジーセミナーが人気を博し、TV・ラジオにも多数のレギュラー出演する傍ら、2013年~21年まで大阪国際大学、及び大阪国際大学短期大学部にて大学講師としても登壇実績。

河合達憲氏の予測 4つのポイント
(1) 半年後の日経平均株価は4万5000円程度
(2) 半年後のダウ工業株30種平均は4万8000ドル程度
(3) 2025年7-9月期は日経平均株価は軟調な展開に
(4) 日本の株式市場では銀行など金融、半導体、百貨店など内需株に注目

―― 1月に米国で新政権が発足する中、日米株価は高値圏で推移しています。半年後の株価水準をどう見ていますか。

河合:私は半年後(6月末)の日経平均株価は4万5000円程度だと予測しています。日経平均は3月末に4万~4万2500円、4月は4万1000円、6月に4万5000円に上昇するというイメージです。半年後のダウ工業株30種平均は4万8000ドル程度で、それが1年の最高値になると見ています。

―― この半年はトランプ政権への政策期待が続くということでしょうか。高値水準の株価予想の背景を教えて下さい。

河合:最も重要な要素は企業業績です。日本企業の2025年3月期の1株当たり利益(EPS)は2500円程度だと予想しています。予想PER(株価収益率)の16倍を乗じると足もとの4万円になります。私は、日本企業は26年3月期に1割増益を確保できると見ており、EPSは2750円になります。それを16倍すると4万4000円となり、一時的に4万5000円まで上昇することがあるということです。高水準の予測に聞こえるかもしれませんが、決して無茶な予想ではありません。

図1 日経平均株価の推移(週足)

【タイトル】

―― 日本企業の26年3月期は10%増益予想とのことですが、理由は。

河合:要因は円ドル相場の動きです。ラストベルト(さびた工業地帯)を保護したいトランプ政権の誕生に加えて、日銀の植田和男総裁は金融引き締めを緩やかに実施していく方針です。3月の金融政策決定会合では利上げする可能性が高いと思います。一方で米国は足もとでは利下げ方向に舵を切っており、日米金利差が縮小し、円相場は1ドル=140円程度まで上昇すると見られます。

ただ、自動車や電子部品など輸出企業の想定為替レートは1ドル=140円台ですから業績に大きな影響はありません。素材や食品など内需関連企業は輸入コストが下がり、利益率が改善します。全体としては10%程度の増益になると予測しています。

―― 米国株の予想の背景はいかがですか。

河合:米国株も日本同様、企業のEPSとPERから計算すると、半年後のダウ平均は4万8000ドル程度になります。PERの高いエヌビディア<NVDA>などがダウ平均の銘柄に採用され、株価も押し上げられやすくなっています。

7月以降は米国と中国の貿易戦争などもあり、軟調な推移になると予測しています。第一次トランプ政権でも起こった展開が繰り返されるでしょう。日本でも今夏の参院選で自民党が敗北するなど政治的な混乱が起きる可能性があり、日本株も調整する可能性が高いと考えています。

24年は新NISA(少額投資非課税制度)、オリンピック、衆院選、米大統領選など株式市場にとって重要なイベントが多くありましたが、25年は大きなイベントは多くありません。このため、昨年以上に日米の中央銀行による金融政策の動きに市場関係者の注目が集まることになると思います。

図2 ダウ工業株30種平均の推移(週足)

【タイトル】

―― トランプ政権の移民政策や関税引き上げ、中央銀行への利下げ圧力の強まりにより、米国で再び高インフレが発生する懸念がささやかれています。株式相場への影響はどうですか。

河合:確かに賃金インフレや輸入物価上昇などへの懸念は否定できません。ただ、足もとでは原油価格が落ち着いており、穀物など商品相場も安定しつつあります。不透明な部分はありますが、株式相場への悪影響はそこまで大きくないと見ています。

―― 日米のその他のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)をどう見ていますか。

河合:米国の個人消費はトランプ政権下でも堅調さが続くでしょう。日本は「失われた30年」の経験から個人消費は慎重ですが、名目賃金と物価の上昇を受けて、消費支出に占める食費の割合である「エンゲル係数」が上昇しています。設備投資も日米ともに円滑に進んでいます。日本企業も資金余剰から投資拡大にフェーズが変わっていきそうです。

―― インフレや地政学的リスクへの懸念が投資家心理に影響を及ぼしています。2025年の株式市場の下方リスクをどう考えますか。

河合:最大の下方リスクはインフレです。日米欧は今のところインフレ退治に一応成功していますが、インフレは厄介なもので、気を抜くとすぐに復活してきます。市場関係者はなおインフレの影に脅えていると言えるでしょう。地政学的リスクは常に存在します。現在では主に中東、ロシア、中国、北朝鮮など多くの国・地域などでリスクが高くなっていますが、予測は不可能です。

―― 注目するセクター、銘柄を教えてください。 

河合:日本市場では金融株を狙っていくべきだと考えています。具体的には保険・証券・銀行です。長期プライムレート(最優遇貸出金利)が2.0%と15年7カ月ぶりの水準に上昇した一方、預金金利はあまり上がっておらず、銀行の利ザヤが改善しています。このほか、東京エレクトロン <8035> [東証P]やアドバンテスト <6857> [東証P]、関電工 <1942> [東証P]、ニデック <6594> [東証P]など半導体関連にも注目しています。内需株にも関心が集まるでしょう。特に百貨店はインバウンド(訪日外国人)の恩恵を受けています。海外は全世界株式(オルカン)やS&P500株価指数に連動するインデックス投資をしておくのが最も良いと思います。海外の個別株は情報が入りづらく、中身を詳しく知らない個別株投資にはリスクがあるからです。

―― 今後は円相場が円高・ドル安方向に動く可能性が高いとの見方でしたが、米国株投資の為替リスクをどう考えますか。

河合:為替リスク軽減のために、毎月分配型で株式や通貨などのコール・オプション(特定価格で買う権利)を売却し、その手数料を収入源のひとつとする「カバードコール型」のETF(上場投資信託)の購入を検討するのも手です。仕組みが複雑な商品ですが、急激な円高になった際に、それまでの分配金で為替差損の埋め合わせをすることができるからです。

(※聞き手は日高広太郎)

◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
【タイトル】
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。

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