プライム上場でも安泰でない、新TOPIXのボーダーライン銘柄は?
トランプ、トレンド、TOPIX~3つの「T」の行方を読む~TOPIX改革編
森下千鶴 ニッセイ基礎研究所 研究員に聞く~第1回
マクドナルド<2702>など |
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この記事を読む3つのポイント |
1 TOPIX見直し第2段階の概要 |
2 新TOPIXの新規採用と除外候補 |
3 新TOPIXに向けての投資方法 |
第1段階は先月末(25年1月)に終了。市場区分の再編前に約2200あった構成銘柄は、約1700に絞られた。第2段階は26年10月から移行期を経て、28年7月の見直し完了時には約1200に実質的に絞られる見通しだ。
ETF(上場投資信託)などTOPIXに連動する運用資金の規模は、約110 兆円に及ぶとされる。「新基準のTOPIXから除外される、もしくは新規に組み入れられるインパクトは大きい」。株式市場におけるルール変更等が与える影響について研究・分析を行うニッセイ基礎研究所、研究員の森下千鶴さんは指摘する。
今月から本格化していく第2段階の見直しは、第1段階とは異なる要件も加わる。その内容や、投資家として留意すべきポイント、また見直しで生じる投資チャンスなどについて森下さんに2回に分けて聞いた。
1回目は、第2段階目の見直しで誕生する新TOPIXにフォーカスする。
(聞き手は真弓重孝/株探編集部、福島由恵/ライター)

ニッセイ基礎研究所 金融研究部研究員。資産運用会社でトレーダー経験を積んだ後、2015年に現研究所に入社。20年より現職。コーポレートガバナンス・コードの導入や取引所の市場構造の見直し等、株式市場を中心とする制度変更が市場や企業経営に与える影響について調査・分析し、情報発信を行う。
組み入れ候補はアウトパフォーム
――TOPIX見直しの第2段階では、既に昨年夏(24年)にその選定基準が公表されています。この公表後に、株式市場にはどのような変化が見られたでしょうか。
森下千鶴さん(以下、森下): まず第2段階の見直しの概要を説明すると、TOPIXの構成銘柄は足元の約1700から、さらに約500削減され1200ほどに絞られます。
ただし、減るばかりではありません。今回の見直しでは、これまでの対象だった東証プライム市場(以下、プライム市場)の銘柄に加えて、同スタンダード市場(以下、スタンダード市場)や同グロース市場(以下、グロース市場)の銘柄も採用されます。
この新たに加わる2市場からは、約30~40銘柄が採用され、これらを合わせた約1200銘柄で構成される計画です。
実は、この案が公表されたのは昨年6月でした。公表翌日から、スタンダード市場およびグロース市場の銘柄のうち新規採用の候補銘柄に物色が向かう動きが見られました。
新TOPIXでは、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」を合計した時価総額のうち、上位97%以内に入ることが1つの条件です。厳密には、「株価 × 発行済み株式数」で計算された「時価総額」ではなく詳細は後述しますが、ここでは単純化のために時価総額としておきます。
この時価総額や他の選抜要件を基に候補銘柄を抽出したところ、これらの銘柄群は公表翌日以降、TOPIXをアウトパフォームする動きが見られ、その後も株価は基本的に堅調に推移しています。
反対に、除外候補銘柄の見当もつけていますが、現時点ではまだ目立った動きはないと思います。ただし、今後は次第に除外候補を先回りで売ろうという動きも出てくることも予想されます。
■TOPIX改革の段階別の動き
出所:JPX総研の資料などを基に『株探プレミアム編集部』が作成
ライバル増加、他社との競争が続く
―― 第2段階の見直しのポイントは?
森下: 特徴を表すと、
ライバル増加、他社との競争、終わりなき戦い――となるでしょう。
■第2段階と第1段階の違い
項目 | 第2段階 | 第1段階 |
銘柄数 | 約1200 | 約1700 |
対象市場 | プライム市場、スタンダード市場、グロース市場 | プライム市場 |
定期入れ替え | 年1回 | なし |
選定ポイント | 年間売買代金回転率 と浮動株時価総額の累積比率 | 流通株式時価総額が、 100億円以上か未満か |
選定方法 | 相対評価 | 絶対評価 |
注:第1段階は市場区分の再編当時の構成銘柄で、スタンダード市場やグロース市場を選択した旧・東証1部銘柄も含む
ライバルはスタンダードやグロース含めた全市場
―― ライバル増加とは。
森下: 今回の見直しから、スタンダード市場およびグロース市場の銘柄も組み入れの対象になります。これまでのようにプライム市場に上場しなくても、TOPIX採用銘柄となるチャンスが生まれるのです。スタンダードおよびグロースに上場する企業にとっては、モチベーションを高めるものになるはずです。
反対に、今TOPIXに入っているプライム銘柄にとっては、ライバルが増え、下手をするとTOPIXから除外される緊張感を抱えることになります。
他社との競争というのは、先月(25年1月)に終わった第1段階での選抜は絶対評価だったのに対して、これから行われる第2段階では相対評価になるということです。
―― どういうことでしょうか?
森下: これまでの絶対評価というのは、プライム市場の上場基準(維持基準を含む)を満たしていれば合格で、大きくは流通株式時価総額が100億円以上か未満かというのが合否を分けるラインでした。
ところが新基準では、時価総額が一定のラインに到達したとしても、他社に劣っていれば漏れ落ちてしまうことがあるのです。
―― だから終わりなき戦いということですか。
森下: そうした面もありますが、約1200銘柄への絞り込みが完了した新TOPIXは28年10月以降も毎年1回の見直しが実施されるため、次に見直される29年10月の際には、再び除外および新規採用となる銘柄があるということです。
1度採用されても、それで安泰ではなく、逆に1度漏れても敗者復活の道があるということで、いずれにしても、日々の努力が試される状況となります。
第2弾は浮動株時価総額に着目
―― 他社との競争で触れた相対評価が、具体的な選抜基準となるのですね。どのような特徴があるのでしょうか。
森下: 先の第1段階を通過した合格組の中から、さらに流動性の観点で選抜されます。具体的には、
A.年間売買代金の回転率
B.浮動株時価総額の累積比率
――の2つです。
Aの回転率の条件を満たしたうえで、Bの浮動株時価総額の累積比率が高い上位の銘柄から順番に選抜され、足切りラインを下回った下位の銘柄が最終的に除外されます。
―― 第1段階で採用した「流通株式時価総額」と第2段階で採用される「浮動株時価総額」は、何が違うのでしょうか?
森下: どちらも企業の発行済み株式から市場に出回りにくい固定株を取り除く点では共通していますが、取り除く項目に違いがあります。
第2段階の選抜では、「政策保有株式」の範囲が異なる点と「大株主上位10位の保有株」が除外される点が、第1段階と決定的に異なる点です(下の表)。
■流通株式と浮動株での除外対象
流通株式で除外 | 浮動株で除外 |
自己株式 | 自己株式等 |
役員等の保有株 | 役員等の保有株 |
国内の普通銀行、保険会社、事業法人等 の所有株式 | 他の上場会社等が保有する 特定投資株式(政策保有株) |
主要株主が所有する株式(10%以上所有) | 大株主上位10位の保有株 |
その他東証が固定的と認める株式 | その他JPX総研が適当と見なす事例 |
単に株価を上げるだけではダメ
―― 近年は政策保有株、いわゆる持ち合い株を売る企業が増えています。持ち合い解消の動きは、TOPIX改革が影響を与えている可能性がある?
森下: 新TOPIXに向けた第2段階の選抜に入ったことで、今後も持ち合い解消の動きは強まると思います。
第2段階での2つの選定基準について、具体的な内容を見ると、下図のように2つにわかれます。
1つは、既にTOPIXに採用されている銘柄に対して適用する継続基準、もう1つはまだ採用されていない銘柄に対して適用する追加基準です。
■新TOPIXでの2つの選定基準
指標 | 継続基準 | 追加基準 |
年間売買代金回転率 | 0.14以上 | 0.2以上 |
浮動株時価総額の累積比率 | 上位97%以内 | 上位96%以内 |
最初の「年間売買代金回転率」は、時価総額の何割が実際に売買されたかを示す指標になります。計算式は以下の2段構えで成り立っています。
1、月次の売買代金回転率を計算
(日次の東証の売買立会での売買代金の中央値×営業日数)÷月末最終営業日の浮動株時価総額
2、年間売買代金回転率を計算
定期入替基準日が属する月以前の直近12カ月間の月次の売買代金回転率の合計
―― 財務分析で回転率といえば売上高を総資産や棚卸資産などで割り、「資産効率」を測る指標があります。「売買代金回転率」は、「売買代金」という売上高を「時価総額」という資産で割って、時価総額の効率性を見るようなものだと捉えると、理解しやすいかもしれません。
累積比率によって、小型株は大型株以上の成長を問われることに
森下: 次の「浮動株時価総額の累積比率」は、計算式を正確に示さず、累積比率の意義を説明します。それは、自社の時価総額を大きくしても「それで良いとはならない」ことです。
この比率によって、時価総額の大きい銘柄への集中度が進んでいるのか、そうではないのかが把握でき、集中度が進んでいると時価総額が小さい銘柄は、大きい銘柄のグループの動きの影響を受けやすくなってしまうのです。
―― 累積した比率で判断することが、ともかく鍵なのですね。もう少し説明してください。
森下: では、累積比率の計算の仕方を、例を挙げて説明します。まず時価総額の大きい銘柄から順に並べて、全銘柄の時価総額の合計を計算します。
次に、トップ銘柄はその銘柄の時価総額を、全銘柄の合計額で割ります。2位以下の銘柄については少々違い、自分より上位銘柄の時価総額を加えた額を全合計で割ります。
例えば、2位の銘柄ではトップの時価総額を加えた額を合計額で割り、3位の銘柄ではトップと2位の時価総額を加えた額を、全合計で割ます。以下は、5銘柄での事例で見たものです。
1位の時価総額が1000億円、
2位が800億円、
3位が500億円、
4位が400億円、
5位が300億円、
――と5銘柄の合計が3000億円とした場合の累積比率は、こう計算します。小数点第1位を四捨五入すると、
1位は1000÷3000で33%、
2位は(1000+800)÷3000で60%、
3位は(1000+800+500)÷3000で77%
4位は(1000 + 800 + 500 + 400) ÷3000で90%
5位は(1000 + 800 + 500 + 400 + 300) ÷3000で100%
――となります。ここで合格ラインが90%なら4位の銘柄まで採用されますが、75%になると2銘柄のみとなります。
―― 足元で東証3市場の上場銘柄が3800社程度となる中で、新TOPIXが約1200社にまで絞られてしまうのは、累積比率で合否を決める部分も影響しているのですね。
森下: 例えばトヨタ自動車<7203>や三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>など、時価総額が10兆円以上の大型株が活況となり、売買代金や浮動株時価総額が膨らんだとします。
その一方で、下位の銘柄については、流動性が高まらず時価総額は横ばい、もしくは減少したとします。すると累積比率が下位の銘柄は、97%ないし96%の基準から締め出される銘柄数が増えてしまうのです。
上の例で、1位の時価総額が1000億から+30%の1300億円となった一方で、2~5位は変わらず、5つの時価総額の合計が3000億円から3300億円となった場合の累積比率は以下の通りです。
1位 39%
2位 64%
3位 79%
4位 91%
5位 100%
――となり、合否ラインが90%なら、合格は上位の4銘柄から、同3銘柄に減ることになります。
―― 単に自社の株価を上げれば済むのではなく、投資家から既に注目され流動性も時価総額も大きい会社に負けないようにしなくてならない。小型株や超小型株にとっては厳しい面がありますが、全体の底上げにつながりますね。
森下: その競争を、今後ずっと続けていかなければならないという点で、まさに終わりなき戦いなのです。
今後、監視をしたい銘柄群
―― 現時点では、TOPIXから「除外」または「新規採用」の候補銘柄を挙げられますか?
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。