原油安と設備投資コスト増で生産は窮地に、高まる需要下振れリスク <コモディティ特集>
先週、国際的な原油価格の指標であるブレント原油は1バレル=68.33ドルまで下落し、2021年12月以来の安値をつけた。ニューヨーク市場のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は1バレル=65.22ドルまで下落し、2023年5月以来の安値を更新している。トランプ米大統領が始めた貿易戦争によって世界的な景気悪化による石油需要の下振れリスクが強まっている。石油輸出国機構(OPEC)プラスが4月から協調減産を縮小し、段階的な増産を開始することも相場の圧迫要因で、供給過剰が意識されている。
トランプ米大統領の関税に関する発言は毎日のように金融市場を揺さぶっている。カナダやメキシコは米国と対話し、落とし所を探っているようだが、中国は全面的に米国と対立する構えだ。世界最大級の経済大国である米国と中国の摩擦は広がっており、楽観的な景気見通しを抱くのは難しい。中国政府は合成麻薬フェンタニル問題について「米国が中国からの輸入品に対する関税を引き上げる口実に過ぎず、中国に最大限の圧力をかけるのは相手を間違え、計算を間違えている」との認識を示した。中国としては、もし米国が戦争を望むのであれば、それが関税戦争であれ、貿易戦争であれ、あるいは他のいかなる種類の戦争であれ、最後まで戦う用意があるという。
●原油安と設備投資コスト拡大の二重苦
世界的な景気見通しが急速に曇っているなかで、OPECプラスが増産を開始すると発表したのだから、原油安の反応はごく自然である。主要産油国の増産を市場が吸収できるのか疑問に思うのが当然である。サウジアラビアやロシアを中心とするOPECプラスは増産の開始をもって、原油価格の抑制を目指すトランプ米大統領と争わない態度を示したのかもしれないが、タイミングとしては最悪だった。
先週末、ロシアのノバク副首相は「市場に不均衡があれば、いつでも逆方向に動くことができる」と述べ、最近の原油安に歯止めをかけた。OPECプラスの現在の計画では4月以降は毎月増産することになっているが、4月を待たない増産開始に不透明感が強まった。最近の原油安は設備投資コストの増加と相まって石油企業にとって負担が重く、ウクライナの戦費を引き続き確保しなければならないロシアにとってはさらに厳しそうだ。ウクライナ停戦を巡り、欧州連合(EU)と米国には分断が生じており、停戦を主張してきたトランプ米大統領のもとでもウクライナ戦争が長引くリスクがある。
2023年以降の原油相場はレンジ取引が続いているが、最近は下値探りが顕著だ。コロナショック後の物価高は一巡したとはいえ、設備投資コストは拡大しており、産油国や石油企業にとって原油安は二重苦である。英BP<BP>や米シェブロン<CVX>など石油大手は業績低迷でリストラを迫られている。関税戦争による物価上昇も、石油企業を苦しめる可能性がある。近年の物価高から切り離されている原油相場は物価の優等生かもしれないが、相場の低迷が続くなら産油国や石油企業の利益を圧迫し、設備投資の不足から供給を不安定化させるだろう。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
株探ニュース