安田秀樹【半導体からゲームセクターに投資資金がシフト! その背景とは?】(訂正)
●ゲームセクター投資の魅力はボラティリティの高さ
今月はゲームセクター の決算について取り上げたい。まず、コーエーテクモホールディングス <3635>、カプコン <9697>は2025年3月期第3四半期は大幅な減収減益だった。要因は24年発売の期待の新規IP(知的財産)が振るわなかったことが大きかった。コーエーテクモでは「Rise of the Ronin」、カプコンでは「祇(くにつがみ):Path of the Goddess」がその代表例なのだが、両タイトルに共通しているのは、ネーミングもゲーム内容も分かりにくかったことだと考えている。
上記の新作がうまくいかなかった一方で、セガサミーホールディングス <6460>は昨年発売した新規IP の「メタファー:リファンタジオ」が100万本を超える販売に成功している。既存の「ペルソナ」シリーズのゲームシステムに新しいストーリーとキャラクターを載せる手法を実施していて、同社の里見治紀社長は、ほとんどのユーザーは既存のゲームのナンバリングタイトル(続編)でしか遊んでいないため、少しだけ内容を変えたと説明していた。里見社長はゲームソフトの動向をよく見ていると筆者は思う。
筆者は心理学や行動経済学を最近学び直しているのだが、その中で人間は変化を嫌う生き物であると定義されている。未知のものをやりたいとは思っていないわけである。新規IPはキャラクターもゲームシステムもストーリーも、潜在ユーザーからすると未知のものである。名前も遊び方も未知の新規IPが世界でいきなり大ヒットの100万本販売となるわけがない。メディアや投資家は新規IPの成功を連呼しているが、開発費が高騰する中、現在の開発規模に見合ったヒットを出すのは、もはや至難の技であろう。
新規IPでのヒットが難しいという事実は、ゲームセクターへの投資のヒントになるだろう。企業が新規IPを出す時にどのくらいの規模の販売本数を考えているのか、ゲームの内容は既存のゲームシステムから類推できるのか、斬新なのかを考える必要がある。ウォーレン・バフェット氏の投資手法ではないが、分からないものに投資してはいけないのである。やはり分からないものは買われない、と考えたほうが良さそうだ。
ということで、完全な新規IPでヒットを狙ったコーエーテクモ、カプコンは残念ながら前四半期まではうまくいかなかったと考えている。しかし、それによって株価が下落したわけではない。コーエーテクモは「真・三國無双 ORIGINS」が累計出荷本数100万本を突破するヒットになったし、カプコンの「モンスターハンターワイルズ」は発売3日で筆者の予想である800万本のセールスを早くも達成するなど、大ヒットになっている。
既存のゲームシステムでのヒットがあるなら、短期的かつ戦術的な失敗は十分リカバリーできるのである。ゲーム株投資の魅力は、ボラティリティ(株価変動率)が大きく爆発力があること、長期的な市場の拡大を享受できることだと思う。読者の皆様もこの点は良く理解してもらえると幸いである。
●大人向けの「トイホビー」で株価急騰のバンダイナムコ
次にバンダイナムコホールディングス <7832>は25年3月期第3四半期決算で通期業績予想を上方修正し、これを受けて株価も大きく上昇した。業績的にはトイホビー事業が絶好調である。「ワンピース」のカードゲームや「ガンプラ」などのアイテムが急成長しているのである。玩具と言えば一昔前は子供向けだったが、アニメやゲームが子供向けから脱却し、一般化したことで世界的にユーザーが40代ぐらいまで拡大したことが大きい。
説明会で新しい経営陣に質問できたが、しっかりした長期的かつ科学的な経営を心掛けている姿が見えた。特にバンダイナムコは、キャッシュ創出力は大きいがその使い道が定まっていないと筆者は考えていたのだが、その点、新しい経営陣は同社に何が足りなくて、どうすればいいのかをよく考えている印象である。課題をよく理解していたことを大変評価している。
経営とは因果性のあるものにヒト、モノ、カネを配分することと筆者は定義していて、「ガンプラ」やカードゲームには、ヒトやモノが配分されているが、投資が不足していると普段から感じている。経営陣がこの分野への投資を拡大することで同社はもっと成長できるだろう。25年3月期の営業利益は会社計画では1800億円となっているが、中期的には2500億円から3000億円まで拡大できると思っている。
日本発のIPが世界を席巻する日は近いだろう。その中核と言えば、アニメを作る能力を持つバンダイナムコとソニーグループ <6758>、そしてスクウェア・エニックス・ホールディングス (スクエニHD)<9684>だろう。スクエニHDは、「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」が200万本を超える大ヒットになったものの、「ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー」が大きな損失となったことで相殺されてしまい、25年3月期第3四半期は前年同期比で営業減益に終わった。なお、23年6月に発売した「ファイナルファンタジーXVI」は現時点でも350万本超というところらしい(決算説明会のスクエニHD、桐生隆司社長談)。
「DRAGON QUEST(ドラゴンクエスト) -ダイの大冒険-」など失敗も相次ぐなか、「ドラゴンクエストモンスターズ3 魔族の王子とエルフの旅」(開発はトーセ <4728> )が100万本を達成するなど、同社のIPは根本的に"出来不出来"の差が大きすぎて業績が安定しない。株価は大きく上昇しているので、投資家としては問題がないと言えばないのだが、安心できないのは困ったところだと思うのである。
●任天堂「スイッチ2」に集まる期待
ゲームセクターは年初から株価が大きく上昇している。カプコンは「モンスターハンターワイルズ」の発売を控えていたので当然とも言えるが、結論からいうと、このセクターの投資家たちが、24年のコンシューマーゲーム業界の低迷は忘れて、任天堂 <7974> が今年発売する「Switch(スイッチ)2」に対する期待を込めて、資金を投入し始めているのではないだろうか。
「Switch2」に対してなぜ、これほどまでに期待が集まるのか。これは先月のコラムでも少々触れたが、同社の古川俊太郎社長が質疑応答で発言した内容にあると考えている。任天堂はリスクを取り、在庫投資を増やすことでこれまでにない規模の初期出荷を行うと語っている。発売日はまだ分からないが、筆者は「Switch2」の発売時期を7月上旬として、最初の四半期の販売数量を600万台規模と予想している。この予想が当たれば、何もしなくても需要が盛り上がる年末商戦期以外の時期に発売するゲーム機としては、異例の売り上げ規模になると思われる。
ゲーム機ビジネスでは在庫投資が重要な意味を持つ。簡単に説明すると、「Switch2」の製造コストを仮に1台400ドル(ドル建てで表記しているのは部品のほとんどがドル建てのためである)と安めに見積もっても、初期出荷が600万台ならば24億ドル(3600億円、1ドル150円換算)の資金が必要となる。これは任天堂の24年12月末時点のドル持ち高(約22億ドル)を超える金額である。
また筆者は、26年3月期第3四半期の「Switch2」販売台数を800万台と想定しているので、年内に必要な資金需要は40億ドル(6000億円)ほどだと見ている。任天堂は十分な手元流動性を持っているので不安は全くないのだが、ゲームビジネスがあまりに巨額になっていることを実感させられるばかりである。
つまり任天堂は「Switch2」には前作「Switch」の少し上を狙うようなイメージを持っていない。失敗すれば1000億円を超えるような損失が出るリスクを取りつつ、「Switch」よりはるかに大きな成果、それこそ1兆円を超えるような営業利益を狙っているのではないだろうか。
日本では、投資(在庫・設備ひいては株式などの間接投資)が膨らむことを悪とする傾向がある。失敗した話ほど多くの人を惹きつけるので、巨額投資に失敗して損失を出すと、メディアや「YouTube」で悪しざまに取り上げられてしまうからだ。その半面、成功例はほとんど取り上げられない。投資をしても評価されず、失敗すれば非難されるとなれば、投資を決断する意義が薄れてしまうのは当然であろう。
ところが現在の株式市場でゲームセクターが活況になっているのは、むしろリスクを取る姿勢が評価されているからである。もちろん、足もとの任天堂の株価のように瞬間的にはリスクが意識されて下がる可能性もあるだろう。だが、昨年まで投資資金が集まっていた半導体株に停滞感がある中、これから「Switch2」で急激に業績を伸ばす可能性があるゲームセクターに資金が集まるのは当然なのではないだろうか。
【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト
1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。
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