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成長加速のためなら「親子逆転」、肝はニッチ&DX戦略

特集
2025年4月3日 11時05分

~株探プレミアム・レポート~タスキHD 第1回

登場する銘柄
タスキHD<166A>、アーバネット<3242>、フェイスNW<3489>、明豊エンター<8927>

取材・文/真弓重孝、高山英聖

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この記事を読んで分かること
1. タスキHDの成長の原動力
2. 不動産事業の競争力の源泉
3. 「少数精鋭」「DX」にこだわる背景

かつて親子関係にあった2社が、不動産テックサービスを強化するために、子が主導権を握る形で再統合する。そんな異色の経歴を持つのが、東京都内で投資用賃貸マンションなどを開発するタスキホールディングス<166A>だ。

同社は、タスキと新日本建物の2つの上場会社が共同株式移転によって2024年4月に設立された持ち株会社だ。この2社は、現在タスキHDの100%出資会社として事業を続ける中で、投資家の注目を集めるのがタスキだ。

タスキは、13年に新日本建物の子会社として設立され、17年にスピンアウト。その後、不動産会社向けの業務用アプリケーションソフトなどをネット経由で提供するSaaS(サース、ソフトウエア・アズ・ア・サービスの略)事業を開始している。

再び新日本と一緒になることをタスキが選択したのは、開発用不動産の取得やこれから拡大を目指す不動産テック分野などの成長資金を調達するには、企業規模を大きくした方が有利になるとの判断がある。

このタスキHDを率いるのが、2003年に新卒で新日本建物に入社、13年にタスキの創業にかかわり、その後経営に参画した柏村雄社長だ。

■タスキHDの柏村雄社長

【タイトル】

タスキは、柏村社長のリーダーシップのもと、設立から10年超で元の親会社である新日本建物の業績に匹敵するまで成長を遂げてきた(下の表)。

ただ、再統合したタスキHDの株価は足元で600円半ばと、上場初日の終値705円を割り込んでいる。足元のマーケットの不調に巻き込まれている可能性もあるが、大きいのは今年(25年)1月に実施した資金調達戦略に伴う需給悪化が尾を引く。

この不振を跳ね除けるには、創業初期に始めた不動産開発と、新規事業として力を入れる不動産テックの成長にかかっている。

これらについて、柏村社長へのインタビューを基に2回シリーズで紹介する。1回目は、足元の収益の大黒柱である不動産開発事業について見ていく。

■統合発表直前(2023年)の通期業績の比較

社名売上高営業利益売上高
営業利益率
従業員数
タスキ186億円24億円13.1%36人
新日本建物211億円20億円9.5%40人

出所:各社IR資料、注:タスキの決算期は9月、新日本建物は3月。

■タスキHDの概要

基本項目株価関連
事業内容不動産・住宅時価総額350億円
東証33業種不動産業流通株比率/流通時価総額64.80%212億円
会社設立日(登記)2024/04/01海外売上高/外国人持ち株――3.70%
上場日2024/04/0152週高値/期日852円2025/01/06
上場区分東証グロース52週安値/期日512円2024/08/05
連結子会社/うち上場4社――上場来高値/期日852円2025/01/06
連結持分適用/うち上場1社――上場来安値/期日512円2024/08/05
業績関連株主還元・株価水準
過去最高売上高/決算期475億円2024/09総還元性向/配当性向37.50%30.00%
過去最高経常益/決算期36億円2024/09株主優待
3期平均ROE/ROA――――75日平均250日平均
今期計画3期平均PBR1.7倍2.8倍
増収率60.2%――予想PER7.8倍8.8倍
経常増益率112.1%――予想配当利回り4.80%3.40%
売上高経常利益率9.9%――予想PSR0.5倍0.6倍
3期平均進捗率(1Q、2Q累計、3Q累計)過去1000日最高値(日付)最低値(日付)
売上高――PBR(倍)2.0(24/12/30)1.3(24/08/05)
経常利益――PER(倍)14.4(24/07/23)7.0(25/02/28)
当期純利益――配当利回り(%)5.9(24/07/23)3.9(25/02/28)
EBITDA――PSR(倍)0.9(24/07/23)0.4(25/02/28)

出所:『株探』『QUICK』。注:4月2日時点。
流通時価総額は算出基準日を基に計算した値。海外売上高および外国人持ち株の比率は原則、有報で取得できた時点。
総還元性向と配当性向は前期実績。予想PERと予想配当利回りはQUICKの値から計算。
PBRは株価純資産倍率、PERは株価収益率、PSRは株価売上高倍率の略。

■タスキHD(赤)と東証業種別・不動産(紺)、日経平均(緑)のパフォーマンス比較

【タイトル】

注:週足ベース。24年4月5日~25年4月2日

将来の収益を生む棚卸資産は7年で6倍に

柏村社長によれば、足元では投資用賃貸マンションの需要は強い。2025年9月期の1Q(第1四半期)時点で「棚卸資産に計上した竣工済み物件はすべて販売契約を締結済み」という。

背景には、国内で富裕層が増加し、相続税対策として収益物件の購買需要が拡大していることがある。日銀が利上げを開始したとはいえ、依然として低金利の水準にあり不動産投資の需要を支える状況だ。

外部環境が良好の中で、タスキHDの不動産開発事業の成長を牽引するのが、傘下に置く事業会社のタスキが展開してきたニッチ戦略だ。

そのニッチ戦略の詳細に入る前に、まず財務指標にどんな効果をもたらしてきたかを見ていこう。なお、本記事では事業会社のタスキは統合前も含めてタスキと表記し、持ち株会社を指す場合はタスキHDとする。

まずタスキの業績と、統合前の2018年9月期から統合後の24年9月期まで推移を振り返ると、ポイントは以下の表のようになる。

■ニッチ戦略がタスキの財務諸表に表れた効果

項目指標効果
成長性棚卸資産7年間で6倍以上に拡大
有利子負債同上
棚卸資産回転率年2回転前後で推移
収益性売上高営業利益率7年間で6%P改善、同業トップ水準
安全性自己資本比率7年間で14%→29%に改善
有利子負債EBITDA倍率7年間で16.8倍→5.5倍に低下

出所:『QUICK』、IR資料、注:2018年9月期~24年9月期

成長性~棚卸資産は7年間で6倍以上に

不動産開発事業で今後の成長を見極めるのに欠かせないのが、将来の収益を生む開発用地の仕入れ状況の把握だ。財務諸表ではBS(貸借対照表)の棚卸資産に計上される。

億円の単位になる開発用不動産を、自己資金で仕入れるには限界がある。このため不動産開発事業の成長には、金融機関からの借り入れや、エクイティファイナンス(株式発行による資金調達)が欠かせない。中でも、いかに多くの金融機関から必要な資金を調達できるかがポイントになる。

統合前を含めてタスキの棚卸資産と有利子負債の推移を見ると、2018年9月期から24年9月期にかけてどちらもほぼ同額の27億円から175億円へと、7年間で6倍以上増えている(下のグラフ)。

■タスキの棚卸資産と有利子負債の推移

【タイトル】

出所:『QUICK』、注:決算期は9月

棚卸資産が膨らんでも、肝心なのは効率よく収益(フロー)を生み出しているのか。それを測るのが、棚卸資産回転率になる。統合前も含めてタスキの同回転率を見ると、年2回転前後と同業他社の中で比較的高い水準となっている。

事業領域の近いアーバネットコーポレーション<3242>、フェイスネットワーク<3489>、明豊エンタープライズ<8927>の推移を見ると、タスキは、データを遡ることができる2019年から24年にかけて1~2番目の高さとなっている(下の表)。

■棚卸資産回転率の推移の比較

銘柄名
<コード>
2018年19年20年21年22年23年24年
タスキ-1.792.582.21.92.32.05
新日本建物1.731.071.151.011.461.451.84
アーバネット
<3242>
0.941.061.171.060.90.80.96
フェイスNW
<3489>
2.541.952.062.922.772.41.75
明豊エンター
<8927>
2.521.641.481.681.591.281.13

出所:『QUICK』、各社IR資料、注:決算期はタスキが9月、新日本建物とフェイスNWが3月、
アーバネットが6月、明豊エンターが7月。銘柄名は略称。以下同

収益性~7年間で売上高営業利益率は6%ポイント上昇

棚卸資産から効率よくフローを生み出していることで、収益性も向上している。タスキの売上高営業利益率を見ると、2018年9月期に5.6%だったのが、24年9月期には11.6%と6%ポイント改善した。

先ほどの同業他社に比べると、タスキの売上高営業利益率は24年時点でトップとなっている。

■売上高営業利益率の推移と比較

順位2018年24年
1位明豊エンター19.0%タスキ11.6%
2位アーバネット10.4%明豊エンター11.4%
3位フェイスNW8.9%アーバネット9.7%
4位新日本建物7.8%フェイスNW9.4%
5位タスキ5.6%新日本建物9.2%

出所:『QUICK』

安全性~自己資本比率は14%→29%に改善

収益性の向上は、財務の安定につながっている。タスキの自己資本比率は2018~24年の7年間で14%から29%へと15%ポイント上昇している。

この間、純資産は5億円から75億円へと70億円ほど増加している。その半分ほどは利益剰余金で、7700万円から33億円程度まで膨らんでいる。

返済能力も高まっている。有利子負債がキャッシュに相当するEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の何倍に当たるのかを見る「有利子負債EBITDA倍率」は、16.8倍から5.5倍へと低下している。

■有利子負債EBITDA倍率と自己資本比率の推移

【タイトル】

出所: 『QUICK』、『株探』、注:決算期は9月

ニッチ戦略が奏功した理由は?

タスキの設立は2013年と、マンション開発では後発組。ニッチ路線はブランド力も資本力も乏しい段階にあり、かつ当時の親会社である新日本建物とはバッティングしない物件開発が求められたがゆえの選択だった。

その中身とは。

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