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MSワラント発行で株価急落、浮上の鍵に「お悩み解決テック」の成長

特集
2025年4月4日 12時15分

~株探プレミアム・レポート~タスキホールディングス 最終回

登場する銘柄
タスキHD<166A>

取材・文/真弓重孝、高山英聖

第1回記事「成長加速のためなら『親子逆転』、肝はニッチ&DX戦略」を読む

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この記事を読んで分かること
1. 成長戦略の2つの柱
2. SaaS事業の3つの特色
3. SaaS事業が生まれた背景、今後の課題

DXにSaaS、不動産テック、そしてAI――。

不動産開発事業を手掛けるタスキホールディングス<166A>が打ち出す成長戦略には、投資家を惹きつけるバズワードが目白押しだ。にもかかわらず、同社の株価は今年1月に窓を開けて急落後、上値が重い展開が続く(下のチャート)。

その最大の要因は今年1月に発行した「行使価額修正条項付き新株予約権(MSワラント)」だ。同ワラントを発表する直前の株価は814円だったのが、翌営業日の終値は▲18.4%の664円に下落した。

■タスキHDの日足チャート(2024年10月末~)【タイトル】

注:出来高・売買代金の棒グラフの色は当該株価が前期間の株価に比べプラスの時は「赤」、マイナスは「青」、同値は「グレー」


MSワラントに限らず公募増資などのエクイティファイナンス(株式発行による資金調達)は、1株利益の希薄化が悪材料視される傾向にある。中でも、MSワラントは投資家からの嫌悪を招きやすい。

通常の公募増資と異なり行使価格が固定されていないために、株価が軟調になっているときに引受先が大量行使して需給が緩み、株価の上値を追うエネルギーが弱まるとの見方が生まれやすい。

今回のケースでは、発行翌月の2025年2月に全体の12%に当たる1万2000個が、同3月には同10%に当たる1万個の行使が実施された。発行株数は同1月末時点の5154万株から同3月末には5384万株に増えており、この間の株価はボックス圏を形成する状況だ。

このMSワラントでは、3月末時点で未行使の新株予約権は7万8000個となっているため、今後、最大でさらに780万株の増加となる可能性がある。これは単純計算で3月末時点から15%の増加になる。

■MSワラントの行使状況(2025年2~3月)

行使日交付株式数行使価額行使された
新株予約権
2月13日80万株600.0円8000個
17日40万株610.2円4000個
3月4日40万株600.0円4000個
17日50万株600.0円5000個
26日10万株609.3円1000個

出所:タスキHDのIR資料

こうしたMSワラントに対するネガティブな捉え方以外にも、個人投資家の間で不満を募らせているのが、同社のIR(投資家向け広報)の仕方にある。

24年11月に公表した「長期ビジョン・中期経営計画」では、今後の調達資金については、エクイティファイナンスの優先度は4項目のうちで最低の位置に置いていた。

また続く24年12月公表の事業計画に関するIR資料でも、示したキャピタルアロケーション(資本配分)のうち、営業CFの構成が大きく占めている。

これらの公表後に時間をそれほど置かずにMSワラントを発行したことから、投資家の間で反発や疑問の声が挙がった。

同社は発行公表から3日後の1月27日に、調達でMSワラントを選択した理由や中計で示した優先順位に関する疑問への回答、すべての権利行使がなされない場合もある点などの説明を開示した。

さらに3月3日には、設立1周年を記念した株主優待による株主還元の強化策を発表したが、現時点の株価水準は投資家の納得を得た状況になっていない。

タスキHDが、投資家からの信頼を取り戻して株価の評価を高めるためには、前回触れた中核事業の不動産開発と共に、投資家の関心を高める新規事業の不動産テックで成果を着実に上げていくことにかかっている。

最終回は、新規事業の不動産テック事業を中心に今後の成長戦略について見ていく。

■柏村雄社長

【タイトル】

SaaS事業で収益性向上

同社が新規事業として取り組む不動産テックでは、開発用地の仕入れの効率化につながるSaaS(サース、ソフトウエア・アズ・ア・サービスの略)を導入している。同サービスは、社内利用で実績を上げたものをベースとしている。

みずからその成果を確認しているだけに、同じ事業を営む同業他社にも普及するというのが同社の目論見だ。先の「長期ビジョン・中期経営計画」では、33年9月期の売上高を130億円と見込んでいる(下の表)。

■中核事業と新規事業、2024年と33年の事業別売上高

位置づけ事業名事業内容2024年
売上高
33年
売上高
中核Life Platform主に賃貸マンション開発475億円1867億円
新規SaaS仕入れ業務の効率化システム非連結130億円
Finance Consulting不動産会社向け融資2億円3億円

出所:タスキHDのIR資料、注:決算期は9月。33年は会社計画

計画で示した130億円は、全売上高の2000億円のうちの6.5%にとどまる。だが、33年9月期時点のSaaS事業の売上高営業利益率は50%程度となる。

主力のライフプラットフォーム事業の場合、33年9月期時点の営業利益が不明なため、その時点の水準は不明だ。ただ、24年9月期時点で8.6%だったことを踏まえると、同じ事業形態で急激に収益性が高まるとは考えにくいため、計画通りにSaaS事業の売上構成比が高まれば、会社全体の収益性は増していく可能性がある。

SaaS事業が高い収益性となるのは、「システム開発の内製化が鍵」と柏村社長は言う。自社採用のITエンジニア主体で開発すれば、エンジニアの人件費負担は生じるが、仕様変更など戦略的な業務展開が必要な際に、開発工程の調整や経営資源の投入などを自社の裁量で完結できる。

開発を外注する場合は委託先との調整業務が発生し、思い通りに開発が進まないリスクがあることを考えると、内製化の方がコストを抑えられるというのが、柏村社長の考えだ。

潜在顧客数は6万6000社

同社がSaaS事業の潜在的な成長力を大きく見込むのは、同事業の販売対象を従業員数49人までの中小・零細の不動産会社としていることにある。これらの会社は、システム導入が進んでないことと、潜在顧客数が6万6000社と多いという。

タスキHDの計画では、2033年9月期までに1500社への販売を見込む。それでも対象顧客の2.3%に過ぎず、「成長余地は大きい」(柏村社長)という。

保守的な計画にも見えるが、目論見通り、潜在顧客への浸透は進むのか。それを占ううえで、展開するSaaS事業の3つの特色を押さえておくことが重要になる。

その3つの特色とは。

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※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。

次ページ SaaS事業の潜在成長性を占う3つ特色とは

 

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