日銀ETF売却と日本株の投資環境、オリオンビールと地方創生【フィリップ証券】
日経平均株価は米FOMC(連邦公開市場委員会)での利下げ決定と年内追加利下げ見通しが示されたことからリスク選好が強まった流れを受けて、9/19に4万5852円まで上昇した。9/19の午後1時前に結果が発表された日銀金融政策決定会合で、日銀が保有するETF(上場投資信託)を年間で簿価ベース3300億円程度の売却を開始する決定を受けて下落に転じた。日銀が保有するETFは2025年3月末時点で簿価37兆円、時価70兆円に上ることから影響は限定的と考えられるものの、足元での相場上昇のピッチが速かったこともあり、9/19午後は利益確定売りに押され、一時4万4495円まで下落した。
日本株に対する投資環境は以下の理由の通り、引き続き良好だ。第1に、投資主体別売買動向では、事業法人の自社株買い、海外投資家の買い越しが続いているほか、取引所(二市場)における信用取引の買い残を売り残で割った「信用倍率」も9/12時点で3.81倍と落ち着いた水準で推移するなど需給環境が良好だ。第2に、日本国債市場における長短利回りの利回り曲線のスティープ化(格差拡大)が他の主要国と比べて際立っている。これは、日本国債市場では日本経済の将来について回復から拡大へと向かうと予想されている状態を示している。第3に、少数与党となった自民党の総裁選後の政局について、野党との連携による財政支出拡大が期待されている点である。財政規律を重視する見方がある一方、物価上昇に伴う税収の上振れは「インフレ税」として意図せざる増税となっている。その結果、実質的に緊縮財政となっている。財政支出拡大は意図せざる財政緊縮化を軽減するものとして株式市場で好感される可能性が高い。
9/25に沖縄県豊見城市に本社を置くオリオンビール<409A>が東証プライム市場に上場する。沖縄県は「ジャングリア沖縄」開業の効果もあり、住宅地・商業地ともに地価上昇が際立っている。沖縄の空港や観光地で同社のロゴを描いたTシャツ姿の若者が目立つなど、同社は単なるビール会社ではなく、ロゴを使った商品を販売する企業から価格の10%未満をライセンス料として受け取るなど知的財産(IP)事業を伸ばしている。オリオンTシャツは沖縄観光の代名詞になりつつあり「地方創生」のあり方の一つとして今後幅広く注目を集めるだろう。
■訪日外国人客数の伸び再加速~訪日中国人客は8月に100万人を突破
日本政府観光局によれば、8月の訪日外国人旅行者(推計)が前年同月比16.9%増の342万8000人に達した。前年同月比の伸び率は4-7月の減速傾向から反転して再加速の兆しを示した。7月は日本で地震が発生するという情報がSNS等で拡散された影響もあり、伸び率が4.4%増にとどまっていた。訪日外国人旅行者数の約3割を占める中国は、地方路線の拡充による航空座席数の増加やクルーズ船の寄港などもあり、8月は36.5%の伸びとなり、単月として新型コロナ禍後で初めて100万人を上回った。
訪日中国人のうち「おひとりさま」の比率が2025年4-6月期で約25%と、2019年通年から2倍弱に高まった。団体ツアーの「爆買い」から個人客の「コト消費」などへの出費のシフトが見込まれる。

■基準地価上昇率の高い都道府県~沖縄県は「ジャングリア沖縄」効果
国土交通省が9/16、2025年の基準地価を発表。住宅地や商業地といった全用途平均の全国の上昇率が前年比0.1ポイント拡大の1.5%と、1991年以来の高水準に達した。海外から投資マネーが流入する東京圏が牽引役となり、オフィス、商業施設、住宅、ホテルなど幅広い不動産関連資産に資金が向かっている。
住宅地は沖縄県が2年連続で全国首位の上昇率となった。テーマパーク「ジャングリア沖縄」がある今帰仁(なきじん)村は従業員向け住宅増をにらんだ投資から11.2%上昇。県内では移住先・別荘地として需要を集める宮古島市と並んで伸び率が最高水準となった。一方、福岡県は土地価格高止まりで上昇率が鈍化。沖縄県は大型商業施設が増えて住宅地と商業地が相乗効果で上昇している。

参考銘柄
電算システムホールディングス<4072>
・1967年に岐阜県内主力銀行および繊維関係等の主要企業の共同出資により岐阜電子計算センターを設立。総合型情報処理サービス企業として情報サービスと収納代行サービスの2事業を展開。
・8/12発表の2025/12期1H(1-6月)は、売上高が前年同期比6.7%増の322億円、営業利益が同6.0%増の16億円。営業利益の内訳は、情報サービス事業(売上比率61%)が1.2%減の2億円、収納代行サービス事業(同39%)が地方自治体向けの堅調な推移を受けて7.2%増の13億円。
・通期会社計画は、売上高が前期比10.2%増の675億円、営業利益が同51.4%増の35億円、年間配当が同20円増配の80円。改正資金決済法の施行を背景に、同社は決済・収納代行の先駆者として「ステーブルコイン」の活用を次世代決済基盤の柱と捉え、社会実装を加速させる複数の提携を進めている。ステーブルコイン開発運営を手掛ける新興企業「JPYC」とも資本業務提携契約を締結。
アンリツ<6754>
・1931年に安中電機製作所と共立電機が合併し設立。通信計測およびPQA(プロダクツ・クオリティ・アシュアランス)の開発・製造・販売を主な事業とする。通信系計測器は海外でも高シェアを占める。
・7/30発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上収益が前年同期比6.4%減の236億円、営業利益が同115.0%増の13億円。営業利益の主な内訳は、通信計測事業(売上比率61%)が110%増の12億円。PQA事業(同29%)が343%増の5億円。通信計測事業は減収の一方、コスト管理が奏功した。
・通期会社計画は、売上収益が前期比8.9%増の1230億円、営業利益が同23.7%増の150億円、年間配当が同横ばいの40円。同社はモバイル基地局で実績が高く、スマートフォン関連銘柄とみなされていた中、世界的な建設ラッシュにあるデータセンター(DC)向け受注が高水準となっている。DCは生成AI(人工知能)向けに対応しネットワーク高速化が課題。同社の活躍余地が高まっている。
飯野海運<9119>
・1899年に飯野商会として発足。外航海運業、内航・近海海運業、不動産事業を展開。業界トップクラス規模のケミカルタンカー船隊を運航し、全世界で石油化学製品を中心とした液体貨物を輸送。
・7/31発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比21.9%減の297億円、営業利益が同57.7%減の22億円。外航海運業は大型原油タンカーやケミカルタンカーの市況軟調が響き、売上高が26%減の237億円、営業利益が73%減の12億円。不動産事業は営業利益が93%増の10億円。
・通期会社計画を下方修正。売上高を前期比8.4%減の1300億円(従来計画1340億円)、営業利益を同40.4%減の102億円(同114億円)とした。大型原油タンカー(VLCC)運賃は主要航路の中東・極東間の運賃指標が9月に入り高騰。背景には「OPECプラス」の原油増産に伴う輸送需要増に加え、中国・インドが米国の制裁を懸念し、原油の調達をロシア産から正規市場に乗り換える動きがある。
アークランズ<9842>
・1970年に金物類の卸売を目的として坂本産業を新潟県三条市にて設立。新潟地盤でDIY中心の巨艦店「ムサシ」の他、LIXILビバを買収した「ビバホーム」、とんかつ専門店「かつや」などを展開。
・7/1発表の2026/2期1Q(3-5月)は、売上高が前年同期比2.5%増の815億円、営業利益が同14.7%減の42億円。営業利益の主な内訳は、ホームセンターを主力とする小売事業(売上比率61%)が10.6%減の18億円、外食事業(29%)が24%減の13億円、不動産事業(同15%)が4%増の8億円。
・通期会社計画は、売上高が前期比6.1%増の3350億円、営業利益が同18.9%増の193億円、年間配当が同横ばいの40円。訪日外国人の間でとんかつ人気が上昇中。とんかつチェーンの勢力図は「かつや」と松屋フーズホールディングス<9887>の「松のや」が国内2強。住関連事業拡大は新規出店に加え、M&Aも掲げる。リフォームを扱うフレッシュハウスの完全子会社化が1Qの増収に寄与。
※執筆日 2025年9月19日
当資料は、情報提供を目的としており、金融商品に係る売買を勧誘するものではありません。フィリップ証券は、レポートを提供している証券会社との契約に基づき対価を得る場合があります。当資料に記載されている内容は投資判断の参考として筆者の見解をお伝えするもので、内容の正確性、完全性を保証するものではありません。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。また、当資料の一部または全てを利用することにより生じたいかなる損失・損害についても責任を負いません。当資料の一切の権利はフィリップ証券株式会社に帰属しており、無断で複製、転送、転載を禁じます。
<日本証券業協会自主規制規則「アナリスト・レポートの取扱い等に関する規則 平14.1.25」に基づく告知事項>
・ 本レポートの作成者であるアナリストと対象会社との間に重大な利益相反関係はありません。
※フィリップ証券より提供されたレポートを掲載しています。
株探ニュース
