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需給の壺―海外投資家とオプション取引―【若桑カズヲの株探ゼミナール】

特集
2025年9月26日 10時00分

第9回:海外投資家とオプション取引

―市場変動を増幅する「隠れたレバレッジ」―

市場価格を動かす本質的な要因は、需要と供給、すなわち「需給」に尽きる。経済指標や金融政策、地政学リスクといった政治情勢のほか、他の金融市場の動向など、しばしば価格変動の要因として語られる指標は、あくまで需給を変動させる「きっかけ」に過ぎない。本連載では、この「需給の壺(ツボ)」を読み解くことを目的とし、マーケットにおける需給の基本構造とその変遷を追いながら、未来への洞察を試みたい。

株式市場において、現物と先物の関係は多くの投資家にとってなじみ深いテーマである。しかし実際には、その背後に存在するオプション市場が、現物と先物の需給に決定的な影響を与えることがある。とりわけ日本市場のオプション取引の大部分を担うのは海外投資家であり、彼らの戦略的な売買は株価指数や個別銘柄の短期的な変動を大きく左右してきた。本稿では、海外投資家によるオプション取引の構造とその需給インパクトを検証し、未来への示唆を導き出す。

◆海外投資家とオプション市場の歴史的関係

第二次世界大戦後、日本の株式関連オプション取引は、1989年に大阪証券取引所(現・大阪取引所)で日経225オプションが上場されたことに始まる。1990年代以降、国内投資家の利用は限定的であった一方、海外投資家は先物と並行してオプションを積極的に利用し、ボラティリティそのものを取引対象とする戦略を展開した。特にヘッジファンドや投資銀行のデリバティブ部門ではリスクヘッジにとどまらず、ボラティリティを収益源とする「ボラティリティ取引」を日本市場に持ち込み、日本を重要な投資舞台の一つとしてきた。

その背景には、米国市場での先行経験がある。米国では1970年代に株式オプション取引が始まり、商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission, CFTC)の規制下で制度化された。以降、先物業界において大きな地位を占め、さまざまな取引手法が利用されてきた。この流れを受け、日本市場でも2000年代以降、海外投資家が主導する形で取引量が膨らみ、需給に与える影響が海外勢に偏重する構図が定着したのである。

◆日本の株価指数オプションの現状

現在、日本で上場している株価指数オプションは、日経225オプション、日経225ミニオプション、TOPIXオプション、JPX日経インデックス400オプション、東証銀行業株価指数オプション、東証REIT指数オプションの6銘柄である。しかし、2024年に後者3銘柄は取引がなく、実質的に市場を構成しているのは前者3銘柄に限られる。

2024年の売買代金(売り買い合計)は、日経225オプションが11.88兆円、日経225ミニオプションが0.29兆円、TOPIXオプションが0.88兆円で、合計は約13兆円にとどまる。先物市場の4355兆円や現物市場の2604兆円と比べれば規模は著しく小さい。それでもオプションは需給に大きな影響を与える存在である。なぜなら、その取引構造が現物・先物市場に波及し、価格形成を大きく動かすからである。

図1 日本の株価指数オプションの投資部門別売買(2024年売り買い合計)代金とシェア

【タイトル】

出所:JPX、先物・オプション関連 投資部門別取引状況(日経225と日経225ミニ、TOPIXの各オプションを集計)
※各投資主体左の番号は、本連載で取り上げた回号を示す。

◆オプション取引の特徴と需給インパクト

オプション取引の需給インパクトを理解するためには、「デルタ」と「ガンマ」といったリスクパラメーターを知ることが不可欠である。「デルタ」とは、オプション価格が原資産価格に対してどれだけ変動するかを示す指標であり、「ガンマ」はそのデルタの変化率を示す。海外投資家がオプションを大量に売買すれば、証券会社などの売り手はリスクヘッジのため現物株や先物を取引する必要があり、その過程で大規模なフローが発生する。これが短期的な需給の圧力を生み出す構造である。

その典型例が「ガンマスクイーズ」である。投資家が大量のコールオプションを買うと、売り手はデルタヘッジのために現物株や先物を買い進める。それが株価を押し上げ、さらにコールオプションの価値を高め、新たな買いを呼び込む。ここでの売り手は証券会社とは限らないが、市場の流動性を高めるため、日本の株価指数オプション取引ではABN・アムロ・クリアリング証券をはじめいくつかの証券会社がマーケットメーカー(値付け業者)として流動性を供給しており、出来た注文の価格変動リスクを抑えるためにデルタヘッジを行っている。この需給の連鎖が株価の急騰を引き起こすのである。

逆にプットオプションの需要が急増すれば、ヘッジに伴う売り圧力が相場を下押しする。こうした構造が、海外投資家によるオプション取引を単なるリスクヘッジの手段にとどめずに、市場変動を増幅する装置として機能させているケースがある。「ガンマスクイーズ」を利用した騒動として、2021年の米ゲームストップ<GME>株問題を記憶している向きも多いだろう。その詳細については、以下を参照いただきたい。

▼ミーム株のロビン・フッダー(後編)―デリバティブを奏でる男たち【5】―

https://fu.minkabu.jp/column/1016

◆SQの需給構造

海外投資家のオプション取引が最も可視化されるのは、毎月第2金曜日に設定されるSQ(特別清算指数)算出の前後である。特に3月・6月・9月・12月のメジャーSQでは、先物とオプションの決済が重なるため、海外勢の取引が市場全体に与えるインパクトは甚大である。決済価格が算出される寄り付きにかけて、指数採用銘柄に対して大量の成り行き注文が集中し、現物株の寄り前の気配値が大きく変動する。しかも、売り買いの両方がある場合には、意図的に異なるタイミングで注文を出すため、寄り前の気配値変動は増幅されることが多い。

とりわけ日経225は採用銘柄が限られるため、オプションに連動した先物・現物の売買が指数全体を押し上げたり、押し下げたりする影響が大きくなる傾向がある。一方でTOPIX(東証株価指数)は分散度が高く、影響は相対的に緩和されるものの、時価総額が大きい銘柄が散見される金融株や半導体株といったセクター別に偏った需給をもたらすことがある。

◆現物・先物との比較:海外投資家の使い分け

海外投資家の中でも、先物取引を頻繁に利用する主体と、オプション取引を主軸とする主体とでは、その投資スタンスが大きく異なる。先物を利用する投資家は、指数全体へのエクスポージャー(価格変動リスクにさらされている資産)を迅速に調整することを目的とするケースが多い。一方でオプションを利用する投資家は、ボラティリティを直接的な投資対象とするか、リスクヘッジを組み合わせた複合戦略を展開する場合が多い。すなわち、同じ「海外投資家」であっても、先物中心のフローとオプション中心のフローとでは異なる需給インパクトをもたらすことになる。

また、現物株を中心に売買する長期志向の海外投資家は、オプション市場に直接的には関与しないことが多い。しかし、彼らのポジションが指数に影響を与え、その指数を原資産とするオプション市場にもインパクトが波及するという間接的な連関が生じる。したがって、海外投資家を一括して論じるのではなく、現物・先物・オプションのいずれを主要手段としているのかを区別して、需給を分析する必要がある。

◆直近のオプション市場のポイント

オプション市場はボラティリティが大きく、各限月における人気の権利行使価格から参加者の予想レンジを読み取ることができる。例えば、2025年9月19日の日経225オプション12月限では、この日の原指数終値4万5045.81円に最も近い権利行使価格4万5000円がアット・ザ・マネー(市場価格と権利行使価格が等しい状態)となる。プットではアット・ザ・マネー以下で最も人気を集めたのは権利行使価格4万円であり、12月のSQまでに日経平均株価が4万円まで下落する可能性を織り込んでいたといえる。

一方、コールではアット・ザ・マネー以上で最も人気を集めたのは権利行使価格4万5000円であった。すなわち、市場は12月のSQまでに日経平均株価が4万5000円まで上昇する可能性も織り込んでいたことになる。結果として、2025年9月時点での日経平均株価の予想レンジは4万~4万5000円だったと考えられる。しかし実際には、その上限である4万5000円を想定より早く達成したため、オプション市場では新たな上値レンジを模索する動きが展開される。

◆今後の示唆

海外投資家は日本のオプション市場で圧倒的な存在感を持ち、その売買は指数の短期的な変動を左右してきた。オプション特有のマーケットメーカーによるヘッジ行動は、現物や先物市場に大量のフローを生み出し、需給構造を大きく変える力を持つ。また、同じ海外投資家でも現物主体かデリバティブ主体かによって需給インパクトが異なる点は、投資家が市場を読み解くうえで重要な視点となる。

オプション市場は一見すると専門的かつ難解だが、その需給が原指数の株価に直結する構造を理解することは、中長期投資家にとっても避けて通れない課題である。今後も海外投資家によるオプション取引の動向を継続的に追うことが、日本株市場全体の需給を読み解くための不可欠な手掛かりとなるであろう。(第10回に続く)

◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):
証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。

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