中国レアアース輸出規制が脅かすAI半導体・インフラ相場【フィリップ証券】
中国政府によるレアアース(希土類元素)輸出規制の大幅強化が米国株市場を大きく揺らす要因となっている。中国政府は10/9、「海外における関連レアアース品目に対する輸出管理実施の決定」と「レアアース関連技術に対する輸出管理実施の決定」の2つを公布した。前者では、中国国外の組織や個人が中国以外の国・地域へ中国原産などの一部レアアース品目を輸出する場合、中国商務部による軍政用と民生用との「両用品輸出許可証」を取得する必要があるとした。後者では、レアアースの採掘、製錬・分離、金属精錬、磁性材料製造、リサイクルに関する技術とそれらの媒体、生産設備に関する技術の輸出を行う場合、中国商務部による輸出許可を取得する必要があるとした。
AI(人工知能)半導体に関し、米国における大規模AIインフラ・プラットフォームの「スターゲート」プロジェクトを中心とした米国株市場を押し上げる材料が相次いでいる。10/6にOpenAIがアドバンスト・マイクロ・デバイセズ<AMD>とAIインフラ構築で大規模契約を締結したのに続き、10/7にはテスラ<TSLA>CEOのイーロン・マスク氏が経営するAI開発企業であるxAIが、エヌビディア<NVDA>製半導体を購入するために200億ドルを調達すると報じられた。エヌビディアはxAIへの出資も検討している模様だ。さらにOpenAIは10/13、ブロードコム<AVGO>と提携し、初の内製AI半導体生産に乗り出すと発表。米FRB(連邦準備理事会)による年内追加利下げ観測が続く中で、米国株市場は10/9まで堅調に推移していた。
中国はレアアース生産の約70%、精錬の90%を占めている。AI半導体の製造工程ではレアアースが不可欠だ。在庫保有分で短期的には凌げるとはいえ、厳格な規制によって中期的にはAI半導体の生産・供給が遅延する可能性が高い。影響はAI半導体・インフラにとどまらず防衛関連にも及ぶとみられる。中国によるレアアースの輸出規制は、「AI半導体・インフラ相場」を根本から崩すだけの破壊力があり、「オセロの角」と呼べるほどの戦略的重要性がある。
トランプ米大統領は10/10、中国からの輸入品に追加で100%の関税を課すと発表。米国株市場は大幅に下落した。トランプ氏が10/12に態度を軟化したことから週明け10/13の米国株市場は落ち着きを取り戻した。仮に、トランプ氏が追加関税を打ち出せば、今度は米FRBが関税コストの価格転嫁を懸念して追加利下げを躊躇する可能性がある。米連邦政府機関の一部閉鎖についても市場が無関心のままいられるわけではないだろう。過去の米連邦政府機関の閉鎖が米財政年度初め(10/1)から始まったケースは、1976年以降で今年が8回目だ。過去最長は1978年の17日、二番目が2013年の16日である。それ以上に長引けば、米国株市場は平穏を保てない懸念が残る。
■3四半期連続で騰落率+5%超~S&P500株価指数構成銘柄の中に22銘柄
米S&P500株価指数の構成銘柄のうち、2025年の3四半期ともに株価が5%超上昇したのは22銘柄だった。特に1Q(1-3月期)は指数自体の騰落率がマイナスとなった中、外部環境に左右されにくい実績を上げた銘柄として今後も注目される。22銘柄の事業内容は多岐にわたり、際立った傾向が見られるわけではない。それでも、ヘルスケア関連が3社、防衛・航空関連が3社、金融サービス関連が3社、IT・ソフトウエア関連が3社を占めている。今後、外部環境に大きな変化があった場合でも、これらの業種の銘柄は相対的に影響を受けにくい可能性がある。
株価上昇の継続には、事業の選択と集中などの経営改革への迅速かつ継続的な取り組みにより、利益率が持続的に改善傾向を示すことが必要だろう。

参考銘柄
イーベイ<EBAY> 市場:NASDAQ・・・2025/10/29に2025/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定
・1995年設立。世界の買い手と売り手をつなぐマーケットプレイス・プラットフォームを運営。コレクターズ・アイテムや中古品を強みとし、すべての支払いを管理。事業売却などアセット再編が目立つ。
・7/30発表の2025/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比6.1%増の27.30億USD(会社予想25.9-26.6億USD)、非GAAPの調整後EPSが同16.1%増の1.37USD(同1.24-1.31USD)。AI(人工知能)による効率化と重点分野投資により、流通取引総額が6%増、調整後営業利益率が0.5ポイント改善。
・2025/12期3Q(7-9月)会社計画は、為替変動の影響を除く売上高が前年同期比3-5%増の26.9-27.4億USD、調整後EPSが同8-13%増の1.29-1.34USD。買収やパートナーシップによるC2C(消費者間取引)強化に向けた投資を行いつつ、株主還元(自社株買いと増配)は1-6月で13%減となったものの、高水準を維持。増収、利益率改善、株主還元強化の一方、予想PERは16倍台にとどまる。
HCAヘルスケア<HCA> 市場:NYSE・・・2025/10/24に2025/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定
・1968年設立の病院運営持株会社。米国と英国で一般・救急病院、精神病院、リハビリ病院、独立手術センターなど多様な医療施設を所有・運営。病院チェーン上場企業の時価総額で世界首位。
・7/25発表の2025/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比6.4%増の186.05億USD、非GAAPの調整後EPSが同24.4%増の6.84USD。既存施設入院相当患者数が1.7%増、既存施設1入院相当患者当たり収入が4.0%増と増収に寄与。経費が嵩んだものの、営業キャッシュフローが32%増加した。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比5-8%増の74-76億USD(従来計画72.8-75.8億USD)、EPSを同16-23%増の25.5-27.0USD(同24.05-25.85USD)とした。7-9月までの直近3四半期間の騰落率は、S&P500株価指数が▲4.6%、+10.6%、+7.8%に対し、同社株は+16.1%、+12.2%、+12.6%とすべての四半期でS&P500を上回り、10%超の上昇を記録。予想PERは15倍台の水準。
マケッソン<MCK> 市場:NYSE・・・2025/11/5に2026/3期2Q)7-9月)の決算発表を予定
・1833年設立の医薬品卸売業者。処方薬、医薬品、手術用具・機器等の卸売のほか、製薬会社向け特殊医療品物流サービス、薬局向け自動調剤システム、病院向け診療管理ソフト等を提供。
・8/6発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比23.4%増の978.27億USD、非GAAPの調整後EPSが同4.8%増の8.26USD。米国(売上比率約90%)でリテール消費者向け医薬品、がん治療薬の流通拡大が業績拡大に寄与。処方箋関連ソリューションのAI活用による効率化が進展した。
・通期会社計画を上方修正。調整後EPSを前年同期比12-15%増の37.1-37.9USD(従来計画36.9-37.7USD)とした。同社は米国内の医薬品流通の約3分の1を担うことからスケールメリットでコスト効率化と安定供給を実現できるほか、米国のがん患者増加に伴う専門医薬品需要増は追い風になると見込まれる。また、医薬品販売事業へ集中するため、外科用品部門のスピンオフを計画している。
モンスター・ビバレッジ<MNST> 市場:NASDAQ・・・2025/11/7に2025/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定
・1990年設立。エナジードリンクや濃縮液の開発・マーケティング・流通を手掛ける。主力のモンスターエナジー飲料事業のほか、戦略的ブランド事業、アルコール・ブランド事業などを展開する。
・8/7発表の2025/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比11.4%増の21.11億USD、非GAAPの調整後EPSが同23.0%増の0.52USD。価格設定戦略が奏功し、粗利益率が2.1ポイント上昇。事業別売上高は、モンスターエナジー飲料が11%増の19.37億USD、戦略的ブランドが19%増の1.29億USD。
・同社は会社業績予想を公表していない。エナジードリンクの世界市場はレッドブルとモンスターエナジーが二強を形成する。同社はコカ・コーラ<KO>と国際流通調整契約を締結し、コカ・コーラの流通ボトラーを利用できる点に強み。2Qは海外向け売上高が前年同期比16%増の8.64億USDと拡大した。若年層の比率が高い新興国市場での拡販が同社の中期的成長を牽引すると見込まれる。
ヴァンエック・レアアースETF<REMX> 市場:NYSEArca・・・分配金:年1回(12月)
・MVIS Rare Earth/Strategic Metals指数 に連動する投資成果を目指す。同指数は浮動株時価総額加重平均型で、レアアースなど戦略的金属分野の高時価総額・高流動性銘柄で構成される。
・10/10終値で時価総額が13.1億USD、過去12ヵ月間の実績配当利回りは1.26%。組入れ上位6銘柄は、ライナス・レア・アース(オーストラリア)、MPマテリアルズ<MP>、リチウム・アメリカズ<LAC>、中国北方稀土集団(中国)、アルベマール<ALB>、ピルバラ・ミネラルズ(オーストラリア)である。
・昨年末終値から10/10終値までの騰落率は、当ETF(インカムゲインを除く)が+103.1%に対し、ダウ工業株30種平均株価が+8.3%、S&P500株価指数が+13.1%、ナスダック100が+17.8%。中国政府は10/9、レアアースに関する輸出規制を強化する方針を示した。一方、米国防総省によるMPマテリアルズへ出資に加え、米エネルギー省がリチウム・アメリカズに5%出資と報じられている。
ウーバー・テクノロジーズ<UBER> 市場:NYSE・・・2025/11/4に2025/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定
・2009年設立。運転手とユーザーの相乗り需要に関わるライドシェア、ユーザーがスマホで注文後に食事を配達するウーバー・イーツ、運送会社と荷主をマッチングするウーバーフレイトを展開。
・8/6発表の2025/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比18.2%増の126.51億USD、非GAAPの調整後EBITDAが同35.0%増の21.19億USD(会社予想20.2-21.2億USD)。総予約金額が17%増の467.56億USD(同457.5-472.5億USD)。売上高総費用率が9.1ポイント低下の89.4%へ改善した。
・2025/12期3Q(7-9月)会社計画は、為替の影響を除く総予約金額が前年同期比17-21%増の482.5-497.5億USD、調整後EBITDAが同30-36%増の21.9-22.9億USD。売上高総費用率の大幅改善の要因として、AI活用による自動化促進が販管費の伸びを抑制したことに加え、スケールメリット拡大により運転手・配達者1人当たり費用の低下や燃料費の高騰が落ち付いたことなどが挙げられる。
執筆日:2025年10月13日
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