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林卓郎(岩井コスモ証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―

特集
2025年12月11日 10時00分

日米の株式相場は上下動を繰り返しながら高い水準を維持している。日本では高市早苗政権の発足を受けて政策期待が高まり、米国では利下げが予測されている。もっとも台湾有事を巡る高市首相の発言に端を発した日本と中国の対立に加え、米国ではインフレ懸念が燻り、今後の相場に影響を与える可能性もある。トランプ米大統領が「就任から24時間以内に終わらせる」と豪語したロシアによるウクライナ侵攻は収束のメドがつかず、イランを中心とした地政学的リスクも残る。

金融・資本市場が「トランプ相場」の様相を呈する中、アナリストやエコノミストなどの専門家は「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第44回は、岩井コスモ証券の林卓郎・投資情報センター長に話を聞いた。

●林卓郎(はやしたくろう)

岩井コスモ証券 投資情報センター長。証券系調査機関での企業アナリストを皮切りに、テクニカルアナリスト、市場分析業務などに従事。国内保険会社にて国内株式を中心としたファンド運用や、為替トレードや外債投資を手掛けた後、2004年コスモ証券に(再)入社。自己売買部門での短期運用業務を担当後、2008年から日本株市場分析に従事。テレビ東京モーニングサテライトなどメディア出演多数。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。

林卓郎氏の予測 4つのポイント
(1)半年後の日経平均株価は5万5000円程度
(2)半年後のダウ工業株30種平均は5万2000ドル程度
(3)日本企業のROEは上昇傾向に、海外投資家の日本株買いは2026年も続く
(4)注目するセクターはAI、半導体関連、銀行、コンテンツなど

―― 高市政権への政策期待もあり、日本の株式相場は堅調に推移しています。半年後(2026年6月末)の日米の株価水準をどう予測しますか。

林:私は半年後の日経平均株価を5万5000円程度だと予測しています。この半年間は5万~5万5000円程度で推移すると見ています。半年後のダウ工業株30種平均は5万2000ドル程度だと予測しています。半年間のレンジは4万7000~5万3000ドル程度であると考えています。

―― 高水準の日米株式相場はさらに上昇するということですね。予測の背景を教えて下さい。

林:日本株の上昇予想は、企業業績が改善していることが大きな理由です。2026年3月期の中間決算では、日本の上場企業の約3割が業績予想を上方修正しました。この比率は過去10年でもトップクラスの高さです。例えば、日本を代表する企業の1つであるトヨタ自動車 <7203> [東証P]は11月に26年3月期の連結純利益見通し(国際会計基準)が前期比39%減の2兆9300億円になりそうだと発表しました。従来予想の44%減の2兆6600億円から上方修正しました。

期初はトランプ関税の悪影響を受けて、日本企業の業績予想は海外企業に比べて見劣りしていましたが、ここへきて大幅に改善しています。日本経済がデフレを脱却し、業績改善の好循環が継続していることが背景にあります。株式市場では高市政権の高い支持率や財政拡張政策が評価されており、次の決算に向けても日本企業への注目が集まりやすいと見ています。最近は幅広い銘柄に買いが入っており、特定銘柄に左右されやすい日経平均株価だけでなく、TOPIX(東証株価指数)も上昇しています。

図1 日経平均株価とTOPIX

【タイトル】

―― 企業業績への期待などから、日経平均株価の予想株価収益率(PER)は上昇しています。

林:日経平均株価のPERは19倍、TOPIXは18倍まで上昇しました。来年も日本企業のPERは日経平均株価で18倍、TOPIXは16倍程度で推移すると予測しています。また、日本企業の株主還元が続き、自己資本が増えづらくなっています。来年度1割程度の増益を見込むなか、自己資本利益率(ROE)も9%台まで上昇していくでしょう。日本の半導体製造装置やロボットを自律的に制御する「フィジカルAI」などは世界でも再注目されています。私は外国人による日本株買いは来年も続くと考えています。

図2 日米予想PERの推移

【タイトル】

―― 米国株の予想はいかがでしょうか。米景気の減速が懸念されています。米国株や米金融政策への影響をどのように考えていますか。

林:米景気は二極化しています。株式市場ではAI(人工知能)関連など一部のセクターはなお好調ですが、それ以外は必ずしも堅調とは言えません。個人消費は、富裕層は活況ですが、それ以外は良いとは言えません。

一方で米景気に減速懸念が出ていることから、市場関係者の間では利下げ再開への期待が高まっており、米国株を下支えしています。私はFRB(米連邦準備制度理事会)が12月のほか、来年2回は追加利下げをすると予測しています。中間選挙が来年11月に実施されるため、それを受けた米景気対策も打ち出されると考えられており、株価にはプラスの影響を与えるでしょう。

―― FRBのパウエル議長は26年5月に任期切れを迎えます。トランプ米大統領が指名する新議長の下では、現在よりも金融緩和に積極的な「ハト派色」が強まるとの見方があります。

林:利下げに積極的なトランプ大統領が指名するわけですから、FRBは利下げに積極的にはなると思います。ただ、金融政策は物価や雇用をみながら実施するものですから、極端なことはできないでしょう。

―― 米国でトランプ減税の恒久化を柱とする大型の減税・歳出法が7月に成立しましたが、市場では財政赤字拡大への懸念も広がっています。

林:さらなる財政支出により国内投資を盛り上げようという話もありますが、経済政策の先行き不透明感は株式市場ではショック安につながります。そうした意味では政策余地は限られているように見えます。

―― 日本では物価上昇や高市政権の積極財政路線を背景に金利が上昇傾向にあります。12月には長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは一時、2%に近づきました。日本株への影響をどう見ますか。

林:現在の日本では過剰債務を抱えている企業や過度の不良債権を抱えている金融機関が少なく、金利上昇がただちに企業業績や株価に大きな悪影響を及ぼすとは思えません。バブル崩壊時に比べて企業の収益力も大きく増しています。また、2%という長期金利が定着するかもわかりません。物価上昇により実質金利も押し下げられています。

―― 台湾有事を巡る高市首相の発言を受けた日本と中国の対立も続いています。

林:中国人旅行客数の減少などにより多少は悪影響がありますが、かつてに比べて日本経済の力が増し、柔軟性も高まっています。一方で中国景気は減速しており、経済に余裕がなくなっています。

―― 沖縄県の尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の船に体当たりした問題を巡って日中が対立した際には、中国政府はレアアース(希土類)の日本向け輸出通関手続きを滞らせました。

林:仮に同じことを中国政府が実施しても、悪化している中国経済に逆効果になるだけだと思います。当時も日本側の調達先の多様化など中国にとってプラスとはなりませんでした。現時点の株価予測には、日中間の対立を考慮する必要はないと考えています。

―― 注目しているセクターや銘柄を教えて下さい。

林:東京エレクトロン <8035> [東証P]やアドバンテスト <6857> [東証P]、レゾナック・ホールディングス <4004> [東証P]といったAIや半導体、それらに関わる素材などの銘柄です。サンリオ <8136> [東証P]、任天堂 <7974> [東証P]などのコンテンツ関連のほか、今後の利上げを見込んで銀行にも買いが入りやすくなるでしょう。

(※聞き手は日高広太郎)

◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
【タイトル】
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。

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