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武者陵司「高市政権の課題と2026年の株価見通し」

市況
2025年12月16日 13時00分

―焦眉の減税による消費水準の引き上げ―

激変する世界の中で最も大きく変わろうとしているのが日本である。史上初の女性首相による高市政権の誕生だけではない。新政権は保守革命を遂行しようとしている。これまでの自公連立はリベラル中道連合 (憲法改正やスパイ防止法、防衛力増強などを後回しにしてLGBT法や選択的夫婦別姓などリベラル政策と財政健全化路線を推進)と言えるものであった。それに対して自民維新の新連合は保守連合(改憲、自主防衛、積極財政)と言え、これは保守革命とも言える基軸の大旋回である。中国の異常とも見える対日威圧も、日本の保守革命に端を発している。

この大変化は、日本株式にとってプラスであると考えられる。目先は高市政策の本領が未だ見えてこないこと、中国の異常な対日批判などにより踊り場が続くが、国内経済の浮揚感と高市政権の長期政権化が見えてくれば騰勢を再開する可能性が高い。

第二次安倍政権の発足以降の長期上昇トレンド、年率10~13%成長の趨勢が続くと考えれば、日経平均株価10万円には2031年か遅くとも2033年に到達、2035年には12万円から16万円に達すると計算される。もともと日本株は(1)超割安(株式益回り5.6%、配当利回り2.4%、国債利回り1.9%、預金金利0.2~0.5%と株のリターンが圧倒的に高い)、(2)超好需給(個人、外国人、年金、企業の潜在的株式需要が甚大)に加えて、株高に必須の(3)株高ストーリーが、高市保守革命で整う。国内・海外全投資家層はFOMO(日本株を持たざるリスク)を痛切に感ずることになるだろう。

●解散総選挙で高市政権は政治資本(Political Capital)の引き上げを狙う

2026年のヤマは解散総選挙であろう。高市首相の支持率は空前、特に若年層の支持率は8割と圧倒的であるが、少数与党で政権運営は不安定である。また、今回の政変劇は、選挙の洗礼を経ておらず、国民の信任を得ているとは言えない。これほどの路線転換が成された以上、国民の審判を受けるのは当然である。

加えて、国家安全保障問題が最大関心事として浮上した。中国は11月7日の高市首相の国会答弁を、日本が台湾有事に介入する姿勢を見せたと難をつけて、強烈な対日嫌がらせと答弁撤回(=台湾有事不介入の約束)を求めている。日本は対中宥和を継続するべきか、現実主義にシフトするべきかの選択を迫られている。それは戦後の「戦力放棄を伴う絶対平和主義」の幻想からの目覚めの過程でもある。

高市首相は積極財政とともに、国家安全保障戦略を争点に押し立てて、解散総選挙に打って出ざるを得なくなる。選挙では対中宥和を唱えるリベラル勢力が敗れ、日本の政策軸が保守・ナショナリズムと積極財政に傾く可能性が強い。

●焦眉の課題、個人消費の引き上げによる潜在成長率回復

2026年の高市政権の課題は国民生活の向上、消費の回復により日本の潜在成長率を押し上げることである。アベノミクスは最も困難な企業の稼ぐ力を取り戻し、外国人投資家から非難されていた企業統治・コーポレートガバナンス改革を成し遂げた。企業利益2.5倍、株価4倍という一番難しいことを達成したのに、肝心の国民生活は全く改善していない。実質家計消費は2014年1Q(消費税増税直前)以降、10年以上にわたってマイナス状態が続き、直近でもピーク時比-4%である。2012年に成立した「社会保障と税の一体改革」による、社会保険料引き上げと2度の消費税増税で打撃を受けたためである。

税に社会保険料を加えた国民負担率(対国民所得比)は2011年の38.8%から2022年の48.4%まで乱暴なほどに押し上げられた。

この間増加した消費税と社会保険料は、いずれも逆進性が強い(低所得者の負担が大きい)うえ、景気変動に対して硬直的で、消費行動を大きく抑制した。租税には本来ビルトインスタビライザーという景気安定化機能があり、景気後退期には税金が減り所得の落ち込みを軽減するという効果があるが、徴税一本やりの日本の税務当局はこの機能を殺したのである。

●著しく改善した日本財政

他方、日本の財政は大きく改善した。税収は40兆円から80兆円へと倍増し、ここ数年税収は毎年5~6兆円の上振れが常態化している。日本の財政収支(対GDP[国民総生産]比)は2024年-2.05%、2025年-1.60%(OECD[経済協力開発機構]推計)とG7で最小になった。最も正確な財政健全性指標である政府の純利払い費対GDP比も2024年0.03%、2025年0.2%とG7中で群を抜き最低となっている。加えて、巨額の隠れ資産(含み益)がある。

隠れ資産とは①外為特会為替益40~50兆円、②日銀ETF(上場投資信託)投資益約50兆円、③)GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用収益累計額が166兆円の3つであり、合計で250兆円強と政府予算規模2年分である。

高市政権の使命はこのアンバランスの是正にあるが、そのカギは恒久減税である。減税は先進国における景気対策の世界標準であり、消費を押し上げ潜在成長率を引き上げることは明白である。また、減税乗数と税収弾性値という二つの変数により減税分は爾後の増収でカバーできる。経済がフル稼働状態で需給ギャップが無い場合に、減税をすればインフレが高まるという懸念はもっともであるが、その場合には名目経済成長率が高まり税収はさらに増加する。

積極財政のリスクとして金利上昇、イギリスにおけるトラスショックが引き合いに出されるが、(日銀との対話が十分な今の日本に)その心配は全くない。トラスショックは、経常収支対GDP比4%の赤字という著しい貯蓄不足国の英国で起きたこと。日本は経常黒字が対GDP比4%という世界有数の過剰貯蓄国で、英国とは正反対のポジションにある。いま日本ではデフレ終焉と投資意欲(=資金需要)の復活が金利上昇を引き起こしているが、それは成長と株高をもたらす良い金利上昇である。

●日本のルネサンスが始まる

賃金上昇に減税が加わると、家計の可処分所得は大きく増加し消費が喚起される。また、インフレと資産価格上昇によりアニマルスピリットが復活してきた。加えて、円安・米中対立の下で安全な国・日本への投資・工場回帰が起きつつある(台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>熊本第二期工場生産品目の最先端素子化、シャープ <6753> [東証P]でのサーバー生産など)。

米国の日本叩きと超円高による日本の競争力の衰弱、工業基盤の中国・韓国・台湾への流出が日本凋落の根本原因であったが、その大逆転がいま始まっている。中国の対日威圧はその流れをむしろ加速する、株高要因である。

政治経済の分断と混迷が強まる米国、中国、欧州に対して、政治の安定、絶好調の企業収益の下で、経済心理の大転換が起きている日本が、世界のブライトスポットになる可能性は高い。高市氏が主張する「世界の真ん中で咲き誇る日本」を国民が確信する日は近いかもしれない。

(2025年12月15日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン393号」を転載)

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