「K字経済」で浮上する小売銘柄、動画・画像生成AIの新展開【フィリップ証券】
現地12/10に結果が発表された米FOMC(連邦公開市場委員会)では市場予想通りに0.25ポイントの利下げが決定した。これに加え、市場の流動性管理の目的から月間約400億ドルの財務省短期証券(Tビル)を買入れる流動性供給の実施を発表。翌12/11にダウ工業株30種平均株価は史上最高値を更新したものの、オラクル<ORCL>やブロードコム<AVGO>の決算発表を受けてAI(人工知能)半導体・インフラ関連銘柄への売りが加速。単純に年末高シナリオを描くのは難しい状況だ。連邦政府機関の一部が長期間閉鎖された影響から、今週は雇用統計、小売売上高、消費者物価指数(CPI)など重要指標の発表は目白押しだ。12/19に個別株と指数について先物とオプションの最終決済に関するSQ値(特別清算値)算出日を控え、相場が波乱に見舞われやすい条件が揃っている。
米ミシガン大学が12/5に発表した12月の消費者信頼感指数(速報値)は11月の確報値から2.3ポイント上昇。改善したものの2022年半ば付近水準にとどまり、物価高と労働市場を巡る懸念は続いている。米市場関係者の間では「経済は小文字のkから大文字のKへと移行した」ということが言われ始めた。Kの上向きの線と下向きの線は、相反する方向に進む集団を表し、富裕層は上向きで繁栄を、その他の層は下向きで苦境を表す。大文字のKになると上向きの線がより目立つことから、資産価格の上昇による効果で富裕層が恵まれるようになったことを意味する。一方、下向きの線は貧困層だけでなく中間層も含むようになった面もある。小売銘柄の中でも、ダラーゼネラル<DG>やダラーツリー<DLTR>などの1ドルショップ、TJX<TJX>やロス・ストアーズ<ROST>といったオフプライス・ショップに加え、高価格帯・高級ブランド商品を扱うタペストリー<TPR>やラルフ・ローレン<RL>、カプリ・ホールディングス<CPRI>などの株価は堅調に推移している。
ウォルト・ディズニー<DIS>が12/11、AI(人工知能)開発会社のOpenAIと資本提携すると発表し、動画生成AIでキャラクターを自由に使えるようにするとした。今までキャラクター関連企業は未許可で自社のIP(知的財産)を利用するAI企業に対し訴訟を起こすなど双方が激しく対立してきた中、IPを多く保有するキャラクター企業がAIから対価を得る新しいビジネスモデルの可能性が示唆される。生成AIに関しては学習データに関する著作権などの権利処理が不透明なモデルが多く、生成された画像・動画を広告宣伝などに使うことの限界が指摘されていた。そのような中、デジタルコンテンツ関連のソフトウェアメーカーのアドビ<ADBE>が2023年に投入した生成AI「Firefly」は権利クリア済みのデータのみで学習することで先手を打っている。IBM<IBM>もFireflyをマーケティング領域で活用し、キャンペーン制作のスピードを10倍に高速化したと発表している。

参考銘柄
ウォルト・ディズニー<DIS> 市場:NYSE・・・2026/2/5に2026/9期1Q(1-3月)の決算発表を予定
・1923年設立の総合エンターテイメント企業。エンターテインメント(メディア、動画配信、および映画関連)、スポーツ(ケーブルTVのESPNなど)、エクスペリエンス(テーマパークなど)の3部門を展開。
・11/13発表の2025/9期4Q(7-9月)は、売上高が前年同期比0.5%減の224.64億USD、非GAAPの調整後EPSが同2.6%減の1.11USD。事業別の営業利益は、動画配信(売上比率28%)が8%増、テーマパーク(同39%)が13%増に対し、テレビ関連(同9%)が21%減、映画関連(同8%)が赤字転落。
・同社は12/11、OpenAI社との間で3年間のライセンス契約を締結したと発表。OpenAIに10億USDを出資し、OpenAIの動画生成AI(人工知能)「Sora」でミッキーマウスやマーベル、ピクサー、スター・ウォーズの200以上のキャラクターを利用可能とする内容。生成された短編動画の一部は「Disney+」で配信予定で、両社はクリエイターの権利保護と責任あるAI活用による共存姿勢を強調している。
ルルレモン・アレスティカ<LULU> 市場:NASDAQ・・・2026/3/27に2026/1期4Q(11-1月)の決算発表を予定
・1998年にカナダ・バンクーバーで設立。「lululemon」、「ivivva」等のブランドを持ち、ヨガ、ランニング、トレーニング向けスポーツアパレルを提供。北米中心に世界796店舗を展開(2025年10月末)。
・12/11発表の2026/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比7.1%増の25.65億USD(会社予想24.70-25.00億USD)、EPSが同9.8%減の2.59USD(同2.18-2.23USD)。既存店売上高は1%増。うち、米州が5%減も、海外が18%増で吸収。非GAAPの調整後営業利益率が3.5ポイント悪化し17.0%。
・通期会社計画を上方修正。営業日数調整後の売上高を前期比5-6%増の109.62-110.47億US(従来計画108.5-110.0 億USD ) 、調整後EPS を同1-2 %増の12.92-13.02USD (同12.77-12.97USD)とした。同社はCEOのマクドナルド氏の退任を発表し取締役会が後任CEOの選定プロセスを開始。12/12終値は2023年12月高値から約60%下落した水準。海外の強さを背景に本格底入れが見込まれる。
ラルフ・ローレン<RL> 市場:NYSE・・・2026/2/6に2026/3期3Q)10-12月)の決算発表を予定
・1967年設立の衣料品メーカー。高級衣料、アクセサリー、香水、インテリア用品等のデザイン・販売流通を営む。ポロ・ラルフローレン、チャップス、ラグビー、クラブ・モナコなど主要ブランドを保有。
・11/6発表の2026/3期2Q(7-9月)は、売上高が前年同期比16.5%増の20.10億USD(会社予想は1桁台後半の伸び率)、非GAAPの調整後EPSが同49.2%増の3.79USD。為替の影響を除く既存店増収率が13%、調整後営業利益率が2.7ポイント上昇の14.1%(会社予想は1.2-1.6ポイント上昇)。
・通期会社計画(外国為替の影響を除く)を上方修正。売上高伸び率を前期比5-7%(従来計画1桁台前半~半ば)、調整後営業利益率の上昇幅を0.6-0.8ポイント(同0.4-0.6ポイント)とした。同社株はタペストリー<TPR>などと並び米国を代表する高級ブランド関連銘柄と位置付けられる。米国経済における高所得者層と低所得者層の二極化が進む中、高所得者層の消費の伸びが加速している。
ロス・ストアーズ<ROST> 市場:NYSE・・・2026/3/4に2026/1期4Q(11-1月)の決算発表を予定
・1958年設立。中所得世帯をターゲットとし、アパレルやアクセサリー、フットウェア、家庭用品等のブランド品やデザイナー品を自社ブランドで、通常価格の20-60%のディスカウント価格で販売する。
・11/20発表の2026/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比10.4%増の56.00億USD、EPSが同6.8%増の1.58USD(会社予想1.31-1.37USD)。既存店売上高が7%増(同2-3%増)。トランプ関税の影響もあり粗利益率が0.3ポイント低下したものの、コスト管理が奏功し売上高販管費率は横ばい。
・通期会社計画を上方修正。EPSを前期比1-2%増の6.38-6.46USD(従来計画6.08-6.21USD)とした。同社は「Ross Dress for Less」(オフプライスチェーン)と「dd’s DISCOUNTS」(ショッピングセンター内)のブランドで展開。オフプライスストアでの買い物は高品質ブランド商品を驚きの低価格で探し出す喜びが得られる「宝探しショッピング」として、実店舗での買い物に新たな価値を付加している。
サンディスク<SNDK> 市場:NASDAQ・・・2026/2/20に2026/6期2Q(10-12月)の決算発表を予定
・2025年2月にウエスタン・デジタル<WDC>からスピンオフし、NASDAQに上場。NAND型フラッシュメモリ技術をベースとして、データストレージのデバイスやソリューションの開発・製造・販売を行う。
・11/6発表の2026/6期1Q(7-9月)は、売上高が前年同期比22.6%増の23.08億USD(会社予想21-22億USD)、非GAAPの調整後EPSが同32.6%減の1.22USD(会社予想0.7-0.9USD)。調整後粗利益率は9.0ポイント低下の29.9%。前四半期比では調整後EPS、調整後粗利益率ともに大幅に改善した。
・2026/6期2Q(10-12月)会社計画は、売上高が25.5-26.5億USD、調整後EPSが3.0-3.4USD、調整後粗利益率が41.0-43.0%とそれぞれ1Qからの更なる増加・改善を見込んでいる。日米の官民連携での投資事業でNAND型フラッシュメモリー工場の建設をサンディスクとキオクシアホールディングスが主体となって進める話が検討されている。NAND型フラッシュの価格高騰は追い風となりそうだ。
ユーアイパス<PATH> 市場:NYSE・・・2026/3/12に2026/1期4Q(11-1月)の決算発表を予定
・2005年設立のRPAソフトウェアベンダー。ロボット開発用の自動化ツール「UiPath Studio」、開発されたロボットの実行ツール「UiPath Robots」、ロボット管理統制ツール「UiPath Orchestrator」を提供。
・12/3発表の2026/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比15.9%増の4.11億USD(会社予想3.90-3.95億USD)、非GAAPの調整後営業利益が76.5%増の0.87億USD(同0.70億USD)、年間経常収益(ARR)が11%増の17.82億USD(同17.71-17.76億USD)。「AIエージェント」需要増が追い風となった。
・2026/1期4Q(11-1月)会社計画は、売上高が前期比9-10%増の4.62-4.67億USD、調整後営業利益が同4%増の1.40億USD、ARRが10%増の18.44-18.49億USD。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に生成AIやエージェント型自動化を組み込むことで、ルールベースの自動化を超えた高度なワークフローを実現。既存顧客の売上継続率(2Qが108%、3Qが107%)の動向が注目される。
執筆日:2025年12月15日
当資料は、情報提供を目的としており、金融商品に係る売買を勧誘するものではありません。フィリップ証券は、レポートを提供している証券会社との契約に基づき対価を得る場合があります。当資料に記載されている内容は投資判断の参考として筆者の見解をお伝えするもので、内容の正確性、完全性を保証するものではありません。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。また、当資料の一部または全てを利用することにより生じたいかなる損失・損害についても責任を負いません。当資料の一切の権利はフィリップ証券株式会社に帰属しており、無断で複製、転送、転載を禁じます。
<日本証券業協会自主規制規則「アナリスト・レポートの取扱い等に関する規則 平14.1.25」に基づく告知事項>
・ 本レポートの作成者であるアナリストと対象会社との間に重大な利益相反関係はありません。
※フィリップ証券より提供されたレポートを掲載しています。
株探ニュース
