異例の好条件、26年米国株で好機を掴め<村松一之・米国株投資の羅針盤>
◆上昇基調が続く世界の株式市場
2025年の世界の株式市場は極めて好調だった。日経平均株価が26.2%、英国FTSE100は21.5%、ドイツDAXは23.0%、イタリアMIBは31.4%、スペインIBEXは49.2%、韓国KOSPIに至っては75.6%と、先進国市場の株価はいずれも大きく上昇した。一方、米国株はS&P500種指数が16.4%、 ナスダック総合指数が20.4%、ダウ工業株30種平均が13.0%と堅調とはいえ、比較的落ち着いた上昇率だった。
世界的に株価が好調だった要因としては、24年より各国の金融緩和が始まり、世界同時進行で大きな流動性相場が形成されたことが挙げられる。しかも、利下げをしている国々は、景気後退に陥っているわけではなく、景気が底堅い状況下において金融正常化を大義名分として利下げを実施している。株式市場においては、最も楽観的になれる利下げ局面となったのだ。
さらに各国は、財政拡張政策も同時に進めている。つまり、世界的に平時の状況にもかかわらず、金融政策と財政政策のアクセルが同時に踏み込まれており、世界の株式市場は金融相場と業績相場が混じり合ったような極めて良好な環境に置かれているのである。
そして、この構図は26年も大きな変化は見られない。この状況に変化がないということは、世界の株式市場は基本的には悪材料に強く、自然体で上昇基調となりやすいと考えておくべきだ。その上で、26年の米国株のキーワードとして、「Catch the tides!」をイメージしておきたい。「Tides」とは、「潮目とか機会、大きな変化、時代の流れ」を意味する言葉で、以下で紹介する5つのテーマの頭文字を当てはめている。やや造語になるが、「Catch the tides.」で「好機を掴め」くらいのニュアンスである。
◆トランプ政権のディール、各国の対米巨額投資が本格始動へ
まず1つ目のテーマは「TAX(税金)」である。25年7月にトランプ政権は、看板政策である「One Big Beautiful Bill Act(1つの大きくて美しい法案)」を成立させた。米国民がその恩恵を強く実感するのは、26年2月~4月頃の税還付だ。ベッセント財務長官によれば、一世帯当たり1000ドル~2000ドルの還付金が例年よりも上乗せされるとのことだ。こうした税制による恩恵が個人消費の下支えになることだろう。また、トランプ税制法(OBBBA法)は個人だけでなく、むしろ企業に大きな恩恵を与えるものだ。様々な税控除等の組み合わせにより、一部の大手企業の実効税率は10%台前半まで低下しているとの見方もあり、これは米企業の競争を優位にさせている。
2つ目は「Investment(投資)」だ。トランプ政権は、就任から1年間で外国から約10兆ドルの投資案件のディールを結んだ。ざっくり各国政府と約6兆ドル、民間企業と約4兆ドルの契約だ。日本政府とは5500億ドル、韓国とは3500億ドル、EU(欧州連合)は民間で6000億ドルなどだ。26年は具体的な投資プロジェクトが選定され、海外から米国への投資が本格的にスタートする年になるだろう。
トランプ税制法における設備投資加速も重要だ。この税法では、米国史上で初となる工場や建設物そのものに対する即時償却が認められている。通常、米国では39年の減価償却が適用される。この異例の措置は、工場の着工が25年~28年末までに開始され、2030年末までに工場が稼働することが条件となっている。したがって26年、27年は米国で工場や生産用建築物の投資が加速するはずだ。
さらに昨年に引き続き、AI(人工知能)関連投資、データセンター、電力関連の設備投資意欲も旺盛だ。AI関連投資は、過大投資との懸念が指摘されるが、マイクロソフト<MSFT>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、アルファベット<GOOG>、メタ・プラットフォームズ<META>を筆頭としたビッグテック企業は会社の存亡をかけた投資合戦の最中にあり、投資を抑制する兆候はまるで見られない。また各州や電力会社から、巨大な電力需要に応えるための設備投資計画が次々に発表されている。もちろん送電網を含めて、巨大な需要を生み出すことになる。
◆中間選挙へ向けたバラマキ政策も株式市場にはポジティブ
次に「Deregulation(規制緩和)」だ。国家資本主義政策のもとで、国家が企業をサポートする手段で最も効果的なのは規制緩和だ。例えばAIに関してだが、トランプ政権は昨夏に策定された「AI行動計画」からより踏み込んで、政府主導のAIプラットフォーム構築計画「ジェネシス・ミッション」へと移行し、成長重視、"規制軽視"路線を明確にしている。もちろん規制緩和は、株式市場の大好物でもある。
そして「Easing(金融緩和)」だ。FRB(米連邦準備制度理事会)は2025年9月から利下げを再開し、25年に合計3回、75ベーシスポイントの利下げを実施した。この3回の利下げの経済への影響が半年程度遅れて、26年に顕在化してくるだろう。米国では今年も2回程度の利下げ継続が見込まれている。冒頭の繰り返しになるが、世界的な流動性相場も健在で、株式市場の強力なサポート要因となるだろう。
最後が「Stimulus(財政政策)」だ。トランプ大統領の今年の最重要テーマは中間選挙で上院、下院を死守することだ。特に激戦が予想されるのが下院選挙であるが、ここでのキーワードは「アフォーダビリティ(生活の質)」である。トランプ政権は中間選挙に向けて「史上最大の住宅市場活性化策」や、農家への補助金、低所得者層へのバラマキ政策などの財政政策を駆使するだろう。それは一時的であっても個人消費を促して、米国経済、企業業績にポジティブとなる。
このように、26年の米国は「減税」、「巨額の投資」、「規制緩和」、「金融緩和」、「財政政策」が同時進行する異例の年になる。さらにAIブームという大きなトレンドがあり、AIが学習から推論の領域に完全にシフトしていくなかで、AIエージェントなり、フィジカルAIなり、ライフサイエンスAIなりの大きな支流に分かれ、株式市場に様々なテーマを提供するだろう。
◆例年より低いエヌビディアへの期待値もプラスに作用
実際に26年に入ってからの米国株式市場は、トランプ大統領のベネズエラへの電撃作戦や、米国最高裁のトランプ相互関税判決への不透明感、1月末で暫定予算が失効し再度政府閉鎖に逆戻りするリスク等がありながらも、堅調な展開でスタートしている。こうした中で、25年12月期の決算発表が始まる。今回の決算については、26年のガイダンスの動向が最大の注目点になる。25年は通年で二桁の増益率を達成することが確実視されていることや、昨年の10-12月期は過去最長の政府閉鎖時期と重なる特殊な期間であるため、四半期決算の実績は通常より重視されないだろう。
S&P500について、市場では26年通期で約15%超の高いEPS(1株当たり純利益)成長率を見込んでおり、情報技術セクターは30%を超えるEPS成長率で、全体を牽引する予想となっている。このストーリーが危ぶまれるようなガイダンスが出てくると、マーケットはナーバスになるが、今回の決算発表ではそうした懸念はないだろう。
また、昨年後半から今年の年初のマーケットでは、ラッセル2000などの中小型株指数や、ナスダック総合指数も好調であり、個別の銘柄だけでなく幅広い銘柄が物色されている。逆に言えば、マグニフィセント・セブン銘柄や、毎度の決算で最も注目されるエヌビディア<NVDA>への期待値が以前より低い。これは、決算発表前の展開としては理想的であり、市場へのインパクトの大きい銘柄において、大きな失望売りが起きにくい状態となっている。
むしろ注目度の高い決算は、AI関連ではメモリー分野だ。昨年のS&P500における年間騰落率の上位3社、サンディスク<SNDK>、ウエスタン・デジタル<WDC>、マイクロン・テクノロジー<MU>はいずれもメモリー関連銘柄だったが、今年もサンディスクなどが極めて好調な状態にある。これらは、単に業績が爆発的に伸びるというよりも、AIが学習から推論の世界に突入し、社会実装の段階になったことで、従来はコモディティ商品だったメモリーが付加価値の高い戦略商品に進化したことを示している。
つまり市場の関心が、AIの進化による製品市場そのものの構造変化に移行しているということなのだ。こうした再発見は、データセンターの冷却システムから送電網など、幅広い分野に及びつつある。そういった意味では、今回の決算は、市場がAI社会の未来像を探る決算となりそうだ。
また、26年はスマートグラス元年になる可能性があり、こうしたリアルの新たなデジタルデバイスの動向も注目したい。一方でAIが企業内で大いに活用されていく中で、生産性向上を目的としたリストラの行方は波乱要因になり得るだろう。長期的にはAIにより新たな職が生まれるのだろうが、そこにはギャップが生じ得る。昨年からAIによる雇用の喪失は起こり始めているが、26年はそれが加速する可能性がある。この点は注目しておきたい。
最後に、25年の株式市場の教訓は、「大きな潮流に逆らうな」ということであった。AIの社会実装という大きな変化が起こっているなか、米国株式市場には「TIDES」という異例の好条件が揃っている。現在、米国株のバリュエーションの高さを危惧する声も聞かれるが、単純に過去のバリュエーションと比較することはミスジャッジになる。また、AIバブルの可能性と崩壊は、誰にも分からない。そして、評論家はバブルを怖れるのが仕事だが、投資家はバブルには乗ることが肝要だ。ゆったりと構えて、この大きな「TIDES」の波に乗ることを考えたい。
【著者】
村松一之(むらまつ・かずゆき)
和キャピタル取締役運用本部部長/フォーライクス代表
1973年生まれ、慶應義塾大学卒業後、1996年静岡銀行入行。支店勤務を経て、資金証券部に配属。その後、米ニューヨーク支店勤務など主に市場関連業務に従事。2017年8月、和キャピタルに入社、21年3月より現職。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」でレギュラーコメンテーターを務めるほか、各メディアで市場分析のプロとしてのオピニオンを展開中。
株探ニュース