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需給の壺―原油・エネルギーの需給①―【若桑カズヲの株探ゼミナール】

特集
2026年3月13日 11時49分

需給の壺 第20回:原油・エネルギーの需給①

――「現代文明の血液」、シェール革命後の需給――

市場価格を動かす本質的な要因は、需要と供給、すなわち「需給」に尽きる。経済指標や金融政策、地政学リスクといった政治情勢のほか、他の金融市場の動向など、しばしば価格変動の要因として語られる指標は、あくまで需給を変動させる「きっかけ」に過ぎない。本連載では、この「需給の壺(ツボ)」を読み解くことを目的とし、マーケットにおける需給の基本構造とその変遷を追いながら、未来への洞察を試みる。

前回は、米国のプライベートクレジット市場におけるオルタナティブ資産運用会社ブルー・アウル・キャピタル<OWL>の苦境を例に、現代の「信用創造」がいかに不透明なレバレッジの上に成り立っているかを詳解した。そして、ブルー・アウル問題は世界最大級の資産運用会社であるブラックロック<BLK>にも波及しており、同社のノンバンク融資ファンドで解約が急増したことにより、資金の引き出しを制限する事態となっている。

また、プライベートクレジット市場の苦境は、英国でも顕在化している。2026年2月、英住宅ローン会社マーケット・フィナンシャル・ソリューションズ(MFS)が経営破綻した。2006年創設の同社は、不動産を中心とするブリッジローンで近年、急成長したプライベートクレジット企業である。

ブリッジローンとは、本命の資金(長期融資や自己資金)が手当てできるまでの期間、一時的な資金不足を補うための短期融資である。一般的な長期ローンに比べ、金利や事務手数料が高めに設定される傾向があり、かつ返済原資が明確であることが求められる。具体的には不動産ローンや事業融資が決まるまでの着手金や運転資金、あるいはM&A(合併・買収)の資金などに利用されることが多い。ただし、本命の資金手当に失敗すると返済が困難になるリスクがある。

同社は融資資金を投資銀行などから借り入れていたものの、二重担保疑惑が持ち上がり、2025年11月に主要取引先銀行だった英バークレイズ<BCS>が一部の取引を停止した。これがきっかけとなり今回の破綻に至ったとみられており、破綻時の融資残高は20億ポンド(約4200億円)にも上るという。その後、同社の最高経営責任者(CEO)が「公の場から姿を消した」と報じられているほか、不透明な資金の流用といった疑惑まで浮上している。

これら英米金融会社の苦境は、2008年に起きたリーマン・ショックの元凶となったサブプライム住宅ローン問題の始まりに似ていると指摘されており、この問題を無視して投資を続けることは、相当に無謀な行為であることを投資家は認識する必要があるだろう。

一方、足元では中東の地政学的リスクの台頭により原油価格が急騰し、世界の経済・金融市場を揺るがす大きな要因となっており、投資家の関心も高い。そこで、今回は原油・エネルギーの需給を取り上げる。

◆地政学的リスクで急騰する原油とは何か

中東情勢の緊迫化は、投資家のポートフォリオに切迫した需給問題を突きつけた。それは、現代文明の血液である「原油」の供給途絶リスクである。原油という「物理的な実体」を持つ資源の需給は、マクロ経済の最後の決定権を握っている。現在の中東情勢の悪化は、この物理的な供給網に強烈な「目詰まり」を引き起こすことが懸念されている。東京株式市場の投資家にとって、原油高はコストプッシュインフレの元凶であると同時に、資源関連株への資金シフトを促す強力な需給要因になっている。

図1 WTI原油先物(週足)

【タイトル】

出所:MINKABU(みんかぶ)

そもそも原油とは、数百万年~数億年前のプランクトンや藻類などの生物の死骸が堆積物中に埋もれ、地熱と圧力によって長い時間をかけて変化した(ケロジェン起源説)とされる炭化水素の混合物である。これをそのまま燃料として使うことは難しく、製油所において「蒸留(沸点の差を利用した分離)」という工程を経て、様々な石油製品へと姿を変える(図2)。

図2 蒸留における主な留分と沸点・用途

留分沸点用途
LPG(液化石油ガス) 30℃以下家庭用・タクシー用燃料
ガソリン30℃~200℃自動車燃料
ナフサ30℃~180℃プラスチック、合成繊維、薬品の原料(石油化学用)
灯油・ジェット燃料170℃~250℃暖房用および航空機燃料
軽油240℃~350℃トラック、建設機械のディーゼルエンジン用
重油350℃以上船舶燃料、火力発電用

※留分とは原油を蒸留し、沸点の差を利用して成分ごとに分けた液体部分のこと

原油価格が上昇する際、投資家は「ガソリン」の需給に目を奪われがちだが、実は「ナフサ」の価格上昇が、ブリヂストン <5108> [東証P]などのタイヤメーカーから信越化学工業 <4063> [東証P]などの化学メーカーに至るまで、日本経済の屋台骨である製造業の利益率を全方位で圧迫する。

ナフサは、主にプラスチック、合成繊維、合成ゴムなどの石油化学製品を作るための原料(エチレン等)として利用され、現代の生活用品(家電、自動車部品、衣類、容器など)を支える最重要の基礎原料である。極端な言い方をすれば、原油の需給を追うことは、日本株の「コスト」を追うことにほぼ等しいかもしれない。ちなみに、経済産業省「資源・エネルギー統計」によると、2024年においてナフサは、日本の石油製品需要の約4分の1を占めており(およそ3分の1を占めるガソリンに次ぐ)、6割以上を主に中東からの輸入に依存している。

◆世界の原油需給構造

BP<BP>が発行していた権威あるエネルギー統計「Statistical Review of World Energy(世界エネルギー統計レビュー)」を引き継いだエネルギー研究所(Energy Institute、EI)によると、2024年の世界総エネルギー需要は年間2%増加し、592EJと過去最高を記録した。EJとは、Exajoule(エクサジュール)というエネルギー量を表す単位であり、1 EJ は目安として約278 TWh(テラワット時)の電力量、あるいは約1億7400万バレルの石油に相当する。

592EJのうち石油が33.6%、天然ガスが25.1%と原油由来エネルギーが全体の半分以上を占めている。残りは石炭が27.9%、原子力が5.2%、水力が2.7%、太陽光・風力・地熱などの再生可能エネルギーが5.5%という内訳であった。

この石油を国内外に供給している主要国、ならびに2024年のシェアは図3の通りである。トップの米国が約2割を占めているが、サウジアラビア、イラン、イラク、アラブ首長国連邦、クウェートといった中東主要5カ国合計で約3割弱を占めるなど、依然として中東は世界の主要な石油供給地域である。

図3 2024年の世界石油供給は日量9689万バレル

【タイトル】

出所:世界エネルギー統計レビュー2025

この傾向は輸出においては一層顕著である。2024年の石油輸出ではサウジアラビアを除く中東で全体の約4分の1、サウジアラビアを含めれば全体の3分の1以上にも及ぶ。ちなみに、日本の石油輸入は2024年に日量310万バレルと世界全体の4%程度であるが、主要輸入先はアラブ首長国連邦が43%、サウジアラビアが40%、クウェートが7%と約9割を中東に依存している。

図4 世界における2024年の石油輸出入は日量6943万バレル

【タイトル】

出所:世界エネルギー統計レビュー2025

◆シェール革命による供給構造の変化とその後

21世紀の原油市場における最大のゲームチェンジャーは、米国の「シェール革命」である。石油の掘削は本来、地面に対して垂直に行うが、技術革新により垂直掘削の後に水平に掘削することが可能になった。これに水圧破砕(フラッキング)という技術を組み合わせ、従来の油田では採掘不能だった「シェール層(頁岩層:けつがんそう)」から原油を抽出することに成功した。この技術によって世界最大の石油輸入国であった米国は、2018年に世界最大の石油輸出国へと変貌し、かつて市場を支配した石油輸出国機構(OPEC:Organization of the Petroleum Exporting Countries)の世界シェアを5割未満に押し下げた。

シェール層とは、数千万~数億年前の湖や海の底に堆積した泥や粘土が、長い年月をかけて硬く固まった緻密な地層(堆積岩)である。薄く剥がれやすい性質を持ち、微細な隙間に石油(シェールオイル)や天然ガス(シェールガス)が閉じ込められているが、かつては「不浸透層」として見捨てられていた。

シェールには、従来の油田とは異なる特異な需給特性がある。これまで10年近くかかった掘削から生産開始までの工程を、シェールでは数カ月に短縮することができるため、価格変動に合わせて供給を調整しやすい。ただ、生産コストが高いことから市場価格が下がると即座に掘削リグが止まり、価格が上がるとすぐに増産が始まるという、価格感応度の高い供給構造を持っている。

また生産量は、井戸を掘った初年度がピークであり、1~2年で半分以下に激減する。そのため、生産維持には「絶え間ない新規投資」が必要となる。しかし、脱炭素のムーブメントが強まったことにより投資が抑制されたほか、前回で触れた「影の銀行」の信用収縮は、資金集約的なシェール企業にとっても大きなダメージとなり得る。現在、原油価格が高騰しているにもかかわらず、米国のリグ稼働数が大きく伸びない背景には、金融環境の悪化が「供給の弾力性」を奪っている可能性があると考えられる。

とはいえ、シェール革命は供給構造を変えたばかりでなく、供給量そのものを増やすことになり、近年は供給過剰が原油価格を押し下げていた。米エネルギー情報局(EIA:Energy Information Administration)は2026年の世界消費を日量1.05億バレルとし、世界生産を同1.08億バレルと推測している。

だが、今回の中東紛争によりホルムズ海峡(世界の原油の約2割が通過)の封鎖が現実化してきたため、統計上の2~3%の余剰など一瞬で消し飛び、需給予測は「パニック的な不足」に転じている。投資家がいま見ているのは、「統計」ではなく、「不確実性」という名の需給要因なのだ。(第21回に続く)

◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):
証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。

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