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【特集】2018年、ドル円が“120円”目指すその理由― 山岡和雅が斬る <新春特別企画>

山岡和雅 (minkabu PRESS編集部 外国為替担当編集長)

―検証・ドル円“上限”と“下限”、米税制改革がマーケットに与える影響は―

山岡和雅(minkabu PRESS編集部 外国為替担当編集長)

●およそ30年ぶり米税制改革の衝撃

 トランプ大統領の誕生を受けたドルの急騰が見られた2016年末を経て、2017年は118円近辺のドル高円安圏で始まりました。その後108円割れまでのドル安円高を経て、2017年第4四半期は111円から114円を中心とした、年間のレンジのほぼ中央付近での推移と、 ドル円は比較的安定した相場展開が見られました。

 果たして、2018年はどのような動きを見せるのでしょうか。

 重要なキーとなるのが、2017年12月22日に正式に成立した米税制改革法案です。約30年ぶりとなる抜本的な改革である同法案が、2018年以降の米経済にどのような影響を及ぼすのかによって、ドル円の相場も大きな影響を受けると思われます。

 今回の税制改革にはメリット、デメリットの両面があります。

 まず挙げられるメリットとしては、今回の税制改革の目玉である法人減税を受けた企業収益の向上と、それを受けた設備投資の増加に対する期待です。

 設備投資の拡大は、それによる生産力の拡大にとどまらず、資本設備に対する需要拡大による他産業への波及、資金需要の活発化による金融の活性化などを誘い、大きな波及効果(乗数効果)を呼びます。

 失業率が4.1%と米国にとっては相当低い水準な上に、来年さらなる低下が見込まれる(米FOMCでの参加メンバーによる経済見通しでは来年末時点で3.9%が予想の中央値)など、労働需給がひっ迫している中で、企業環境が好転することで、雇用市場のひっ迫感がさらに強まる期待もあります。賃金の上昇による人材確保の活発化などにも結び付き、個人消費にもかなりの好影響があると期待されます。

 お金というのは基本的に儲かるところに集まりますから、このような形で米経済成長が押し上げられると、大きなドル買い材料となります。

 デメリットは財政赤字の拡大懸念です。

 税制改革法案を議論した米議会の試算では、10年間で1兆4560億ドル(約165兆円)の財政赤字拡大につながると見られています。

 前回の大規模な税制改革であるレーガン大統領時代の1986年の時は、法人税をそれまでの46%から34%に引き下げるとともに、歳出の抑制に取り組み、財政規律を維持しました。

 しかし、今回のトランプ大統領の下では、国境の壁建設をはじめ、歳出は増加傾向にあり、財政赤字の拡大は不可避と思われます。赤字の拡大は金利の上昇による投資の抑制につながるほか、ドルに対する信認低下などにもつながり、こちらはドル売り材料です。

●米中間選挙、注目は“上院”の帰趨に

 ドルにとって両面ある影響のどちらがどれぐらい強く出てくるのかが重要なポイントとなります。時期的なものも踏まえた見通しは最後に回し、他のポイントも見てみましょう。

 米国側で、税制改革以外で相場に大きな影響を与えるポイントとなりそうな材料としては、11月6日に行われる中間選挙があります。

 下院のすべての議席と上院の三分の一が対象となる来年の中間選挙。

 現状下院で民主党が共和党を逆転するシナリオは考えにくいこともあり、ポイントは上院選となりそうです。

 現在の上院の勢力図は共和党51議席対民主党49議席(民主系無所属含む)と、共和党が多数派とはいえ、ぎりぎりです。

 大統領、下院、上院がすべて共和党側ということで、今回の税制改革法案の成立が実現するなど、動きが出やすくなっていますが、民主党側が今回の同法案に対して全員で反対に回ったように、反トランプの意識もあって、民主党が上院で逆転すると状況は大きく変わる可能性があります。

 トランプ大統領としては、共和党の多数派維持に向けた動きを進めると見られます。ここで問題となるのが、先ほどの税制改革を受けた財政赤字の拡大と、通商問題です。
 
 米国民は比較的財政赤字に対する忌避感が強く、赤字拡大を警戒する動きが選挙前に強まる可能性があります。

 特に、トランプ大統領の支持層とも重なる共和党保守派は、ティーパーティー運動にもつながる小さい政府志向が強く、財政赤字を嫌う傾向がありますので、注意が必要。最終削減につながる施策など、経済成長促進とは逆行する形の対応を迫られる可能性があります。

 通商問題では、対日黒字への攻撃と、ドル高抑制に回る動きが見られると厄介です。露骨なドル高抑制を選挙前に実施するかどうかは微妙ですが、トランプ大統領のこれまでの姿勢から十分に可能性がありそうです。

●黒田後継問題、着地次第で波乱も

 日本側の大きな材料としては、4月8日に任期を迎える黒田日銀総裁の後継問題があります。

 黒田総裁が再任する可能性がそれなりに高いことや、新たな総裁が選任されるにしても、基本的には現状路線を継承する人選となる可能性が高いことから、大きな影響が出ない可能性もあります。

 ただ、昨年9月に日銀審議委員に就任した片岡氏が、就任後のすべての会合でより積極的な緩和を求めて議長提案に反対していることなどを見ると、より積極的な緩和論者が指名される可能性も否定できません。

 例としては元財務省の官僚で内閣官房参与なども務めた本田駐スイス大使などの名前が挙がります。

 米国が利上げサイクルに入り、ユーロ圏、英国なども引き締めへの動きを強める中で、黒田日銀は現状の長短金利操作付き(YCC)量的質的緩和の維持を示しています。しかし、市場ではそろそろ出口に向けた動きをという期待も強いのが現状です。

 そうした期待に逆行する新総裁の指名があると、一気に円安が進む可能性があります。

●年前半はドル高円安、後半はドル高の勢い鈍るか

 時期的な流れも踏まえてまとめてみましょう。

 2018年、前半は基本的にドル高円安が優勢と見込まれます。米国の経済成長の勢いは、世界の投資資金の米国への流入を呼ぶと期待されます。

 インフレ動向次第では市場が現状で見込んでいる今年2回の利上げという見通しが、FOMCで参加メンバーが示した3回へと修正される可能性も十分にあり、ドル高が進むと見られます。

 ターゲットは119円。120円の大台を意識するところ辺りまでは十分にありそうです。

 黒田日銀総裁の後継人事次第では大台超えもありそうです。

 夏以降は中間選挙を前に、ドル高の勢いが鈍ると見込まれます。通商問題などが強くクローズアップされると、秋にかけて110円割れをトライする可能性もありそうです。ターゲットはその手前111円といったところです。 (2017年12月27日 記)


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