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【特集】貧困問題の不満渦巻くイラク、反政府デモ激化と“原油高騰”への導火線 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

―高まるイラク生産リスク、米イラン制裁も不安定化に拍車―
 
 イラクが荒れている。2003年のイラク戦争でフセイン政権が崩壊した後、民主化が図られてきたものの、15年経った今も情勢は安定しない。歳入のほとんどが原油輸出でまかなわれていることから、相場の変動に財政が揺さぶられるほか、近年ではイスラム国との戦闘が戦費を拡大させた。

 キルクーク油田や独立を巡って、イラク北部のクルド自治政府との衝突も発生した。電力や水などインフラの整備が依然として進んでおらず、貧困問題も深刻である。2017年の失業率はやや低下したとはいえ14.8%と高水準で、国民の不満は払拭されることなく沈殿している。2016年以降、 原油価格の回復によって財政は多少潤ったが、国民に恩恵は及んでいない。

●不満を募らせる国民

 7月、イラク南部の石油都市バスラ周辺で反政府デモが発生した。反政府運動は瞬く間に北部へと広がり、首都バグダッドに達した。夏場の暑いさなかの停電が国民を苛立たせていたなか、治安部隊とデモ隊の衝突によって死傷者が発生したことで、政府に対する怒りはさらに燃え上がった。アバディ首相は電力担当相を更迭し、国民の怒りをなだめようとしているものの、小手先の人事は無意味である。短期間で電力や水道などのインフラを整えることはできず、イラク政府に沈静化のための有効な手段はない。

●反政府デモによって石油供給が不安定化すれば更なる悪循環も

 イラクの総人口3,830万人のうち、約60%が25才未満の若年層である。貧困に直面し、反政府デモの主役となっているのもこの層である。デモ隊はイラクの基幹産業で最も安定している石油セクターでの職を求めているが、教育システムが不十分であることから、エネルギー関連の専門的な職務に従事できるほどの知識を有している若年層はわずかである。イラクで最もまともな職である石油関連会社で運良く職を得ても、ほとんどの若者にとって施設の警備や運転手が関の山である。

 イラクの基幹産業に携わる労働者のほとんどは、技術や知識のある外国人労働者である。石油会社の従業員の約95%が外国人労働者といわれる。外国人労働者はイラク人にとって不満の対象であり、デモ隊の攻撃対象となる。治安維持部隊や警備隊によって石油関連施設が防衛されるにしても、供給障害は遅かれ早かれ発生する可能性が高い。デモによって石油産業の安定性が崩れると、インフラや教育システムの整備がまた遅れることから、悪循環をどこかで断ち切らなければならないが、先は見通せない。

●イラク情勢次第で原油価格は制御不能に?

 産油大国であるロシアやサウジアラビアの増産にイラクも加わって、イランやベネズエラ、リビア、アンゴラなどの減産を穴埋めしようとしているものの、イラクの生産にはリスクが高まっている。イラクで大規模な減産が発生するなら、ロシアやサウジアラビアがフル増産しても供給不足を解消することは難しい。

 石油輸出国機構(OPEC)加盟国を中心とした産油国が原油価格を今のところコントロールできているが、イラク情勢次第では制御不能となるのではないか。米国が対イラン制裁を従来の予定通り実行するなら、経済的に崩壊するイランから隣国のイラクへ貧困や不満、暴力が輸出され、中東が一段と不安定化する恐れがある。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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