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【特集】アベノミクス相場は終わってしまったのか 井上哲男 <新春特別企画 第3弾>

井上 哲男(スプリングキャピタル社代表兼チーフ・アナリスト)

井上 哲男(スプリングキャピタル社代表兼チーフ・アナリスト)

●市場の評価は利上げの「原因」から「影響」へシフト

 2017年にゴルディロックス(適温)と呼ばれた静かな相場展開が続いた反動もあり、2018年は市場のボラティリティが一気に高まった印象を受ける。だが、VIX(恐怖指数)の年間平均値は16.6と、上海ショックのあった2015年(16.7)とほぼ同じ水準であり、これは2010年から2017年までの平均値の17.1を若干下回っている。数字上は平常時に戻ったということだ。

 それでも、やはり、2018年の相場を振り返ると、米国発の数回の急落が引き起こした市場心理の悪化局面ばかりを思い出してしまう。

 下げ局面は大別すると、1月下旬から3月末にかけて、10月半ば以降、そしてこの12月半ば以降の3回に大別できるが、それぞれ材料が違った点が2018年の下げの特徴であったと言える。

 最初の下落要因は、ゴルディロックス相場の延長上にあった1月に、その総仕上げのようにテクニカル的な過熱感が感じられるほどの上昇を示した反動が引き起こしたと考えている。具体的に述べると、2018年に入りまだ18営業日しか経過していない1月26日時点で、NYダウは終値ベースの史上最高値を11回も更新していたのである。また、時を同じくしてトランプ大統領が打ち出した保護主義政策がこの下げに追い討ちをかけたと言える。

 10月半ば以降の下げは、それまで3%水準で推移していた米国10年国債の利回りが、2日間で3.2%水準にまで上昇したことが引き金であったが、この金利上昇は“必然”であったと考えている。

 市場がそれまで利上げを容認していたのは、「好景気による利上げ」という“原因の部分”への評価であった。しかし、9月に予想通り利上げが実行されたことによって短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標が2.00%から2.25%の水準となるに至り、初めてFOMC(米連邦公開市場委員会)のドットチャート(※1)を(市場が)冷静に分析したと言える。(※1:FOMCメンバーが予想するFFレートの水準をドットの分布により表したグラフ)

 FOMCのドットチャートが示したことは、2018年あと1回の利上げ(12月に行われた)後、さらに2019年3回、2020年1回の利上げを行って終了というものであった。これによると(2020年が3月までの早い時期での実行と考えると)、1年半のうちにあと5回利上げが行われ、その結果、FF金利は3.25%から3.50%の水準にまで引き上げられることになる。順イールド(※2)が継続するという前提に立てば、10年国債の利回りはいつまでも3%の水準で張りついてなどいられなかったのだ。(※2:長期金利が短期金利を上回り、イールドカーブが右肩上がりにある状態)

 そして、市場が、利上げの「原因」ではなく、この利上げ継続がもたらす「影響」という部分に注目し始めたことが12月の下落につながっている。

 2018年に利上げを行ったのは、なにも米国だけではない。新興国の多くが利上げを行っているが、その理由は米国のそれとは全く違う。リーマンショック後、これらの国々のドル建て民間債務が2倍以上の水準となり、米国利上げによる自国通貨の下落が2018年に入って顕著となったことから、「通貨安=インフレの輸入」を防ぐために通貨防衛を目的とした利上げを行ったのである。

 リーマンショック後の世界経済の復活は、中国とこれら新興国が牽引する形で始まり、時間軸を経て米国をはじめとする先進国に好影響をもたらした。だが、その逆のことが起き始めており、新興国の景気減速が米国景気の失速につながる時間軸が短くなっていることを、市場ははっきりと認識し始めているのだ。

●外国人の先物買い戻しが下支えとなるか

 それでは「今回のアベノミクス相場は終わってしまったのか?」と疑問を持たれる方もいらっしゃると思う。

 私は、外国人動向を現物(現金)と先物に分けてその累計動向と指数(日経平均株価TOPIX)との連関、決定係数の推移を計測しているが、明らかに先物動向の連関が高くなっている。そして、この事象は、外国人による大量の日本株買いが指数を押し上げた、過去のIT相場、小泉構造改革期待相場といった大相場の終わりにも示現していたものである。

 アベノミクス相場が始まって以来の外国人による累計の日本株買い越し金額をみると、現物については実は上海ショック以前の2015年5月から6月にかけて天井をつけており、その後は完全に先物の動向に左右されている。現物買いを伴わない相場は脆(もろ)い。10月上旬に日経平均が27年ぶりの高値をつけたにも拘らず、その後大きく調整したことにもそれは表れている。外国人の日本株(現物)買いをアベノミスク相場と定義するのであれば、それは、もう既に終わっていると考えられる。

 では、先物動向はどうかというと、1つ明るい材料がある。

 2018年の年初、(アベノミクス相場開始以降の)外国人累計動向による先物残高は、2.5兆円もの買い越し状態であったが、上述した米国発の1月下旬から3月末の下落によって、3月末には3.7兆円もの売り越しに転じた。実に6.2兆円も先物を売った計算になる。

 これだけ短期間に大きな金額が動くことは滅多にないのだが、この3月末にあった3.7兆円の売り物が全て買い戻されたのが、ちょうど「日経平均が27年ぶりの高値」のときである。つまり、4月以降、10月初旬までの日経平均の上昇は、外国人による先物の買い戻しという需給要因がもたらしたと考えられる。そして、この残高がそれから3カ月が経たぬ現在、過去最大の4.7兆円の売り越しとなっている。この買い戻し圧力が2019年は下支え効果となって働くことを期待している。

 2019年のテーマは、景気減速下でバリュエーションの落ち着きどころを探ることとなる。

 これはまず米国で行われ、日米のヒストリカルなPERギャップを考慮して日本株の“適正な居所”が探られることになる。景気減速下の全米PERの上限が17倍、日経平均とのPERギャップにヒストリカルな平均値4倍(年)を当てはめると日経平均のPERは13倍となる。

 もし、2019年度の日経平均の1株あたり利益(EPS)が現在よりも3%の減益となった場合、これらから導かれる日経平均の上限は2万2500円となることを最後に記しておく。 (2018年12月28日 記)


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●井上 哲男
上智大学経済学部卒業後、国内保険会社の有価証券運用部門を経てUAMジャパン・インクのチーフ・ストラテジスト兼株式運用部長に転身。その後、プラウド投資顧問、QUICK、アジア最大級のファンドオブファンズのMCPグループなどでチーフ・ストラテジストや運用部長を務める。
28年間のファンド・マネージャー経験を活かし、2014年、スプリングキャピタル社代表に就任。現在、ラジオNIKKEI“アサザイ”のパーソナリティなどを務める。日本証券アナリスト協会検定会員。


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