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【特集】河合達憲(auカブコム証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―

 米連邦準備理事会(FRB)の利上げ加速を受けて、世界の資本・金融市場の動揺が続いている。ロシアによるウクライナ侵攻は収束のメドがつかず、世界的なインフレも収まる気配はない。円相場では1ドル=140円台が視界に入るなど、市場の不透明感はなお強い。アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第4回はauカブコム証券の河合達憲・投資情報室 室長兼チーフストラテジストに話を聞いた。

●河合達憲(かわい たつのり)
近畿大学大学院・博士前期課程修了。日本で数少ない証券専攻修士号のマスター称号を有する。中堅証券調査部にて調査・情報畑一筋で30数年来、企業調査や投資戦略、投資手法などのストラテジー構築に従事。ファンダメンタルとテクニカルを融合した投資分析を実践しており、各種メディアで推奨銘柄の的中率の高さは実証済み。マクロ分析から個別銘柄までトップダウンアプローチでの分析力にも定評。『9割の人が株で勝てない本当の理由』(扶桑社)、『株の五輪書』(マガジンハウス)など著書多数。毎週火曜夜のauカブコム証券ストラテジーセミナーが人気を博し、TV・ラジオにも多数のレギュラー出演する傍ら、2013年~21年まで大阪国際大学、及び大阪国際大学短期大学部にて大学講師としても登壇実績。

河合達憲氏の予測 4つのポイント
(1)半年後の日経平均株価は2万9500円程度
(2)半年後のダウ工業株30種平均は3万3500ドル程度
(3)日本株では鉱業、ガス、海運に注目
(4)米国株ではエネルギー、バイオ関連、建機などに注目

―― 世界的なインフレや金利の先高観が課題となっています。半年後の日経平均株価をどう予測しますか。

河合:私は2万9500円程度と予測しています。株価はいろいろと影響を与える要素があっても最終的には企業収益に収れんしていきます。7月半ば時点の日経平均株価の予想EPS(1株利益)は2070円くらいです。ここから計算すると、3万円を少し下回るくらいが適切な予測値だと考えています。

 素材など原材料価格の上昇を企業が価格転嫁するためには6~8カ月かかります。このため、2022年度の上期はコスト高が日本企業の利益を圧迫することになります。しかし、秋には価格転嫁が徐々に進んでいきますから、下期の利益は改善するでしょう。市場関係者の一部には、日経平均株価で3万円を大きく超える予想をしている方もいるようですが、企業収益などミクロの実態を踏まえれば、現時点では過大評価ではないかと思います。

―― 7月10日投開票の参院選は自民党の大勝で幕を閉じました。11日の日本の株式市場ではこの結果を好感する向きもありました。

河合:安倍晋三元首相が銃撃された事件の影響もあったのか、参院選は自民党が圧勝しました。ただ今回の参院選の結果は、相場のトレンドを変えるようなものだとは思えません。与野党の政権交代のような非常に大きな変化は別として、政治が長期間、株式市場に直接的な影響を与えることはないと私は考えています。

―― 米労働省が発表した6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比の伸び率が9.1%に達しました。物価上昇の鎮静化に向けて、FRBが7月にも大幅な利上げを実施するとの見方が強まっています。米国の半年後の株価についてはどう予測していますか。

河合:私は半年後のダウ工業株30種平均は3万3500ドル程度と予測しています。足元では下げ相場の様相ですが、底入れの時期が近付いていると考えています。仮にFRBが7月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利を0.75%引き上げるようであれば、市場関係者の間では、米利上げに「打ち止め感」が出てきて、先行きへの安心感が増すと考えています。米国でインフレ退治の終了が確認されれば、株価は反転上昇していくでしょう。一方で0.25%など引き上げ幅が小さすぎると、リセッション懸念など、かえって米景気の先行きへの不信感が出てくるかもしれません。

―― 米国は11月に中間選挙を控えています。民主党が上下両院の多数派を維持するのは難しいとの見方もありますが、米株式市場への影響は。

河合:米国では、「インフレを引き起こした大統領は選挙でなかなか勝てない」というのが一般的です。このため、バイデン大統領が率いる民主党の勝利というシナリオは描きづらいのですが、それほど株価には悪影響を与えないのではないかと考えています。少なくとも9~10月までにマーケットは選挙動向を織り込んでしまい、影響が長引くことはないと考えています。

―― 日米の株式市場で注目している個別銘柄やセクターはありますか。

河合:米国ではバイオテクノロジーやエネルギー関連などのセクターに注目しています。米国には未上場も含めたバイオ関連のベンチャーが400社以上もあり、日本とは層の厚さが違います。今回のコロナ禍でも米国企業はワクチン開発などで世界をけん引しました。
   
 また、資源価格が上昇していますので、エネルギー関連も非常に有望です。石油大手のシェブロン<CVX>やエクソン・モービル<XOM>などは収益が大幅に増加していますから、資源開発の投資を増やし、さらに収益が拡大するという流れになると考えられます。資源開発関連では鉱山建機大手のキャタピラー<CAT>など建機関連にも注目しています。

 日本株についても年末にかけて回復する方向だと考えています。足元の物価上昇やロシアによるウクライナ侵攻などを受けて、日本企業の期初の業績予想は慎重でした。しかし、コロナ禍による行動制限がなくなった4-6月期には個人消費がかなり上向きましたので、消費関連の企業の業績などが改善している可能性があります。

 このほか、素材価格が上昇していることから、鉱業とガス関連の銘柄は有望だと考えています。例えば、ガス会社は素材価格が上昇して値上げできれば、むしろ大きな利益を生みますから、株価の押し上げ要因となります。また、昨年上昇していた海運株が足元ではやや伸び悩んでいるため、逆に今後の展開がどうなるかに注目しています。


図1 業種別騰落率(2022年と2021年比較)
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―― 足元では日本株が米国と比べても比較的底堅い動きを続けているように見えます。背景には何があるのでしょうか。

河合:米国のダウ工業株30種平均、ナスダック総合株価指数、S&P500種株価指数の3指数と日経平均株価について、世界保健機関(WHO)の緊急事態宣言が発せられた2020年1月30日を100として指数化すると、足元ではほとんど同水準になってきています(図2はダウ工業株30種平均、ナスダック総合株価指数と日経平均株価を指数化したもの)。出遅れを指摘されてきた日経平均株価も、米国株と比べて必ずしも低迷しているわけではないということです。

 この背景には、コロナ禍による犠牲者を抑え込み、自国経済の大きな停滞を防いだ日本の政策的な効果があったと思います。日本の新型コロナウイルスの感染者数や死者数は世界的にも非常に少なかったといえます。この効果は企業収益にも表れており、2020年度からは回復しています。

 もう1つは企業努力です。例えば飲食チェーンは、店舗展開ができなくなると、即座に宅配ビジネスや弁当事業を立ち上げました。店舗運営ができるようになった際には、これが新しい事業の柱のひとつになりました。こうした細かい企業努力が積み重なって、日本企業の収益回復は他国と比べても速かったといえるのではないかと思います。


図2 米国株と日経平均株価 指数化チャート(2020年1月30日=100)
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(※聞き手は日高広太郎)


◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
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1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証一部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。5月に著書「BtoB広報 最強の攻略術」(すばる舎)を出版。



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