Chordia Research Memo(6):MALT1阻害薬は小野薬品工業に最大500億円超の条件で導出済み
■Chordia Therapeutics<190A>の開発パイプライン
2. MALT1阻害薬
(1) MALT1阻害薬の作用機序と早期導出の背景
MALT1阻害薬は難治性リンパ腫向けの治療効果が期待される開発パイプラインで、前臨床試験実施後の2020年に小野薬品工業に対して早期導出を実現した。
難治性リンパ腫では、T細胞シグナルあるいはB細胞シグナル伝達経路の因子(T細胞受容体CD28、B細胞受容体CD79A/B、PLCγ1、PKCβ、CARD11)にシグナルを活性化する遺伝子変異が起こり、そのシグナルがBTKやMALT1(粘膜関連リンパ組織リンパ腫転位タンパク質1)を経由してNF-kBの活性化が引き起こされ、リンパ腫が異常に増殖することが知られている。
MALT1阻害薬はこうしたシグナル伝達経路に活性化遺伝子変異を有するリンパ腫に対して、単剤あるいは他剤(BTK阻害剤等)との併用により抗腫瘍効果を示すことが期待されている。特にMALT1阻害薬は免疫チェックポイント阻害薬の不応答性の要因となることが報告されている制御性T細胞を減少させる効果を有していることから、免疫チェックポイント阻害剤との相乗的作用を示す併用薬としても期待され、オプジーボを持つ小野薬品工業が導入する意義が大きかったこと、さらに小野薬品工業ではBTK阻害薬の販売していたこともライセンス契約を行う一因になったと考えられる。同じシグナル伝達経路で複数個所を阻害できれば薬効が一段と強まるためだ。
一方、同社が早期導出を決断した背景としては、2019年にリンパ腫治療薬の業界リーダー的存在であったJanssenがMALT1阻害剤の第1相臨床試験を開始したことが大きい。同社はJanssenに対して2~3年開発が遅れている状況や資金面なども勘案した結果、自社で開発を進めるよりも早期導出したほうが良いとの経営判断となった。
(2) ライセンス契約の経済条件と開発状況
ライセンス契約の経済条件として、契約一時金8億円(2021年8月期)と第1相臨床試験開始に伴うマイルストン25億円(2023年8月期)を既に受領しており、今後の開発マイルストン及び商用マイルストンで最大496億円、並びに売上高に応じたロイヤリティを1ケタ後半から2ケタ前半パーセント得る契約となっている。
小野薬品工業におけるONO-7018(CTX-177)の開発状況については、2022年8月に米国で再発・難治性の非ホジキンリンパ腫もしくは慢性リンパ白血病を対象とした第1相臨床試験を開始(1例目の組み入れは2023年2月、目標症例数108例、試験終了予定日2027年末※)したほか、日本でも2024年8月より再発・難治性非ホジキンリンパ腫を対象とした第1相臨床試験(目標症例数24例、試験終了予定日2029年末※)を開始している。なお、MALT1阻害薬についてはONO-7018を含めて5品目が第1相臨床試験を行っている段階にある。このうち、JanssenのSafimaltibは被験者登録が完了しており、一歩先行している状況にある。
※ 出所は米国がClinicalTrials.gov、日本が臨床研究情報ポータルサイト。
その他のパイプラインについては臨床試験前段階での早期導出を目指す
3. その他のパイプライン
その他のパイプラインとして、固形がんを対象としたCTX-439(CDK12阻害薬)や血液がんを対象としたGCN2阻害薬、並びに新規パイプラインがあるが、同社はCTX-712の上市による早期収益化を最優先課題として掲げ、経営リソースを集中投下していく方針を決定している。このため、これらのパイプラインについてはCTX-177と同様に、臨床試験前の段階で導出すべくビジネスパートナーを探索していくようだ。CTX-439は、CDK12を阻害することによってRNAポリメラーゼIIによるmRNAの転写を抑制する効果がある。このmRNAの転写を抑制することで異常なmRNAが蓄積し、過剰なストレスがかかったがん細胞が死滅する作用機序となる。既に前臨床試験において動物での安全性、有効性を確認、また原薬製造は完了しており、現在は製剤化の検討段階に入っているが、同試験データを持ってライセンス交渉を進めていくことになる。GCN2阻害薬は探索研究段階であり、前臨床試験を実施後の導出を目指す。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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