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アーバネット Research Memo(9):M&Aを含む積極的な成長投資で、既存事業拡大と事業ポートフォリオ拡充へ

特集
2024年9月2日 11時09分

■アーバネットコーポレーション<3242>の中長期的な成長戦略

1.今後の方向性と進捗

循環的な景気変動への懸念のほか、インフレの進行や金融緩和政策の先行き不透明感など、外部環境は不確実性が高まりつつあるものの、今後の成長戦略の方向性に大きな見直しはない。ただ、2023年8月24日付けの新株予約権に関する開示文書に記載のとおり、既存事業の拡大とストックビジネス等の強化とともに、M&Aによるシナジー創出や新規ビジネスへの参入も含め、成長に弾みをつける姿勢が明確となってきた。今回のケーナイン連結化もその一環である。既存事業の拡大を軸としながら、M&A等による経営資源の獲得や事業領域の拡充により、持続的な成長を目指す考えだ。

(1) 既存事業の拡大

既存事業については、都心での用地価格が高騰しているなかで、将来リスクも念頭に入れつつ、より採算性やタイミングを重視した選別的な用地取得に取り組み、事業環境や景気変動に柔軟に対応しながら、持続的な成長を目指す。特に、ケーナインとの連携による用地情報力の強化や開発エリアの拡大(川崎、横浜等)に取り組むとともに、さらなるM&A等を通じた経営資源の獲得や隣接エリアへの拡張も検討する。また、事業本部を2部制とし、第二事業本部を新設した。マンション以外のアセットにも対応し、新たな事業の柱に育成する点に狙いがあるようだ。

(2) ストックビジネスの強化

ストックビジネスの強化については、ここ数年、賃貸収益物件を自社保有することにより安定収益源や融資担保の確保に取り組んできた。現在の賃貸収益物件は8棟(他にも戸別保有あり)に上り、年間の不動産収入は500百万円水準(弊社推定)にまで拡大してきた※。今後も、安定稼働が期待できる賃貸収益物件を着実に増やす計画である。また、駅近好立地での開発力を生かして参入した「ホテル事業」については稼働率の向上と客室単価の適正化が進み、いよいよ軌道に乗ってきた。今後はストックビジネスとして保有するか、販売チャネルの拡大を目的として売却するのか、長期的視点で検討する。

※この他に、ケーナインが保有する賃貸収益物件が新たに加わった。

(3) BtoC事業の拡大

同社の中核事業である都市型賃貸マンションの開発・1棟販売では、物件竣工後のマンション販売会社への物件引き渡しで事業のルーチンが完了する。同社が開発してきた分譲用マンションにおいても、戸別分譲後のマンション管理等については管理会社に引き継いで終了としてきた。つまり、賃貸管理並びにマンションビル管理等の収益については対応しておらず、取りこぼしてきた感があるが、今後はアーバネットリビングにより、ボリュームビジネスと言われるこの分野にも積極的に推進する。また、ケーナインのM&Aにより獲得したBtoC分野の経営資源(販売要員やノウハウ、顧客基盤など)の活用やシナジー創出にも取り組んでいく。

(4) 事業領域の拡大

M&Aや業務提携、資本提携の活用により、不動産ビジネスとシナジー効果が期待できる新規ビジネスへの参入を検討する。

2. 持続的な成長に向けた方針

同社は、ROE向上と資本コスト低減による持続的な企業価値向上及びPBRの引き上げを目指している。ROE向上については、1) M&Aによるさらなる成長、2) 人的資本投資の強化、3) 株主還元の充実に取り組む方針であり、従来以上に積極的な投資や資本効率を重視したキャッシュアロケーションを実施する方向性を示している。また、資本コスト低減に向けては、1) 情報開示の強化、2) サステナビリティを意識した取り組み強化を掲げている。株価を意識した経営を実践することで、時価総額200億円の早期達成を目指す。

3. 弊社による注目点

弊社では、東京都心における都市型賃貸マンションは、循環的な景気変動の影響や一時的な相場調整等により強弱を繰り返しながらも、周辺エリアへの波及を含めて持続的な成長が可能な市場であると見ている。特に、国際都市として発展を続ける東京の居住環境の改善及び進化には大きな可能性が残されている。また、ファンドやリート、クラウドファンディングなどを含め、投資対象(金融商品)としての不動産(特に、安定したキャッシュ・フローを生み出す賃貸収益物件)に注目が集まるなかで、優良物件の開発に定評のある同社の役割はますます重要になるだろう。その一方で、事業ポートフォリオの拡充及び安定収益源の確保は同社にとって重要な中長期的テーマである。とりわけ財務基盤の安定化は、リスク対応力の面からも、新たな成長に向けた投資の原動力の面からも重要だ。この点では、今回の新株予約権の発行をはじめ、業務提携やM&Aの実施は、持続的成長に向けた具体的な道筋をつけるものとして大いに評価できる。

長期的な視点からは、国内人口が減少傾向をたどるなかで、持続的な成長を実現するために、新たな需要を取り込める分野へのチャレンジも視野に入れる必要があると考える。弊社では、これまで都心及び好立地にて小さくても快適な居住空間を開発してきた同社にとって、そのノウハウやネットワークが生かせる宿泊施設やシニア向けマンションへの進出は成功確率が高いと見ている。また、新しい技術やコンセプトを導入した次世代型マンションの開発など、同社ならではの取り組みも今後のカギを握るだろう。とりわけZEH仕様マンションの開発は、今後の方向性と新たな成長ポテンシャルを示すものとして期待したい。さらに今回の新株予約権の発行にあたって、不動産ビジネスとシナジー効果のある新規ビジネスへの参入も打ち出しており、今後の動向も気になる点だ。新たなM&Aや業務提携の動きを始め、これまで専門領域に特化し、少数精鋭で経営を行ってきた同社が、どのように事業基盤を強化し拡大していくか注目していきたい。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)

《HN》

提供:フィスコ

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