「食料安全保障」で再脚光! IT化加速の「スマート農業」関連に照準 <株探トップ特集>
―生産性向上に欠かせない農業の効率化、食料安全保障の観点からも注目―
農業政策の方針を示す「食料・農業・農村基本法」の改正法が5月29日の参院本会議で可決・成立した。最も強調されているテーマは、世界の食料需給の変動や地球温暖化の進行などを背景とした「食料安全保障の確保」で、食料の円滑な入手や農産物・農業資材の安定的な輸入の確保、農産物の輸出促進などが盛り込まれている。また、基本理念に生産性や付加価値の向上により農業の持続的な発展を図ることが追記され、先端的な技術の活用が規定されていることから「スマート農業」関連銘柄に改めて注目してみたい。
●求められる担い手不足の対策
政府がスマート農業の普及・拡大を後押しする背景には、農業の担い手が高齢化し、なおかつ減少傾向にあることが挙げられる。農林水産省によると、2015年で175万7000人だった基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)は、20年に136万3000人、23年には116万4000人まで落ち込んでおり、こうした傾向は今後も続く見通し。更に従事者の平均年齢は23年時点で68.7歳(15年は67.1歳)と高齢化が加速している。同省は今後20年間で従事者が30万人程度まで減少するとみており、従来の生産方式を前提とした農業生産では農業の持続的な発展や食料の安定供給を確保できないと指摘している。
こうしたなか、各地で広がりをみせているのが、ロボットや人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)といった先端技術やデータを利用し、農業の生産性向上などを図る取り組みだ。生産現場ではロボットトラクター、スマートフォンで操作する水田の水管理システムなどを活用した自動化・省力化が進んでいるほか、位置情報と連動した営農管理システムによって作業の記録をデジタル化・自動化し、熟練者でなくても生産活動の主体になることが容易になっている。これ以外にも、ドローンなどを使ったセンシングデータや気象データのAI解析で、農作物の生育や病虫害を予測し、高度な農業経営が行われている事例があり、今回の改正法のもとでスマート農業が更に推進されることが期待される。
●先端技術で効率化を支える銘柄群
代表的な関連銘柄としてまず挙げられるのが、「農機の自動化・無人化」「データ活用による精密農業」「地球にやさしい農業の実現」という3つのアプローチを行っているクボタ <6326> [東証P]だ。3月には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて開発を進めている水素燃料電池トラクターを初公開。5月には営農支援システム「KSAS(Kubota Smart Agri System、ケーサス)」に、日本農薬 <4997> [東証P]が提供するAIを使用し、スマートフォンのカメラで撮影した写真から農作物に被害を及ぼす病害虫や雑草の種類を自動で診断する機能を追加したことを明らかにした。
直近では井関農機 <6310> [東証P]が24年度下期の新商品として、国内最大クラスの有人監視型ロボットトラクターを業界に先駆けて市場投入すると発表。これはGPS(GNSS)の位置情報に対し、無線基地局RTK(リアル・タイム・キネマティック)による補正と、携帯電話を通じて受信するVRS(バーチャル・リファレンス・ステイション)、本機アンテナ内IMUの機体のローリング・ピッチング・ヨーに対する補正により高度な位置補正を行い、高精度な自動運転を実現しているという。
インターネットイニシアティブ <3774> [東証P]はこのほど、千葉県白井市から圃場(農産物を育てる場所)を借り受け、田起こしや代掻き(しろかき:田んぼに水を入れ、土を砕いて均平にしていく作業)から、田植え、稲作の生育管理、稲刈りまでの一連の稲作作業で、IoTデバイスや通信に用いる無線技術などの有用性を検証する実証実験を実施していることを明らかにした。具体的には、現在開発中の水位・水温を測定する水田センサー、遠隔で圃場の水位を調節できる自動給水装置、気象センサーなどのIoTデバイスを圃場に設置し、データ送受信の試験などを通じ、現場環境におけるセンサーの正常稼働の確認、稲作作業の労働負荷削減及び節水の効果測定、作物の収穫量や品質の評価を行っている。
タカミヤ <2445> [東証P]とマクニカホールディングス <3132> [東証P]は5月、農業分野で協業すると発表した。マクニカがタカミヤの総合農業パーク「TAKAMIYA AGRIBUSINESS PARK」におけるCPS(サイバーフィジカルシステム)を活用した環境制御型農業の技術開発・実装で協力し、同パークに参画するパートナー企業とともにアグリプラットフォームの構築を進めるという。
エア・ウォーター <4088> [東証P]は5月、20年12月から東京大学生産技術研究所と進めてきたスマート農業に関する共同研究の成果を公表。収穫に適した時期(収穫適期)を高い精度で「予測」する技術と、農業生産性の向上に有効な「観察」する技術に関して成果が得られたとしており、農業生産性の向上につながることが期待される。
このほかでは、農業経営支援クラウドサービスを提供するユニリタ <3800> [東証S]、施設園芸分野でのスマート農業展開に注力するOATアグリオ <4979> [東証S]、GNSS高精度測位でスマート農業を支援するジェノバ <5570> [東証G]、自動走行型スマート農薬噴霧ロボットなどを手掛ける丸山製作所 <6316> [東証S]、GNSSと自動操舵システム技術を駆使した精密農業システムを展開するトプコン <7732> [東証P]などもマークしておきたい。
●農業総研、セラクなどにも注目
スマート農業の推進を一段と加速させるためには、生産者と小売業者及び消費者をつなぐ流通・販売をトータルで支援することも重要だ。農業生産の可視化と省力化を実現する農業ITプラットフォーム「みどりクラウド」を提供しているセラク <6199> [東証S]は、農産物の集荷・出荷をデジタルトランスフォーメーション(DX)化するサービス「みどりクラウド らくらく出荷」も手掛けており、全国農業協同組合連合会広島県本部(JA全農ひろしま)、ひろしま農業協同組合(JAひろしま)とともに取り組んだ青果流通の効率化事業が、食品等流通合理化促進機構の実施する「サプライチェーン強化実証事業」で優良事例に選出されている。
全国の都市部を中心としたスーパーマーケットで「農家の直売所」を運営する農業総合研究所 <3541> [東証G]は5月末、創業以来の累計での流通総額が1000億円を突破したと発表。背景には主力事業である「農家の直売所事業」が着実に成長していることに加え、生産者から直接農産物を買い取り、ブランディングし、スーパーマーケットの青果売場に卸販売で提供する「産直卸事業」の伸長、ドラッグストアなど販売チャネルの拡大があり、今後は「仕入れ力強化」「物流機能の拡充」「ITプラットフォームの高度化」に注力する構えだ。
イーサポートリンク <2493> [東証S]は、生産者の生産履歴から卸、仲卸、小売・量販店までの流通情報をトータルで管理することで、流通上に発生する「ムダ」を最小限に抑え、需要に応じた的確な仕入れ、販売とトレーサビリティを実現する各種サービスを提供している。
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