極東貿易 Research Memo(7):新規事業である洋上風力発電関連事業の拡大に期待(1)
■極東貿易<8093>の中期経営計画と成長戦略
(2) 新規ビジネスの開発と育成
中期経営計画の最大の目玉は、新規ビジネス(M&A含む)である。5つの成長分野への取り組みを社長直轄プロジェクトとし、経営資源投入を強化している。5つの成長分野とは、1) 再生可能エネルギー、2) 水素・電池、3) 環境衛生、4) バイオプロダクツ、5) 産業向けDX・IoTである。これらの分野についてはこれまで同社も何らかの形で関わっており、市場や技術の知見・経験が生かせる分野でもある。同社はこのなかから、複数の事業化を目論んでいる。ここで注目しておきたいポイントは、同社がM&Aの成功のための知見やノウハウを有していることである。2023年3月期より、5つの成長分野のなかから、重点5新規事業「洋上風力発電関連事業」「自動運転システム関連事業」「バイオプロダクツ」「インド事業」「米国法人の新規事業」に注力している。重点5新規事業の活動状況は逐次、経営企画室へ報告される。社長直轄マターとして、全社的視点で協業・M&Aやリソース配分などを判断し新規事業の舵取りをしている。
1) 再生可能エネルギー分野:洋上風力発電関連事業
洋上風力発電関連事業は同社にとって最注力分野であり、カーボンニュートラルにも貢献する将来有望なビジネスである。同社は、これまで資源開発関連事業で培ってきた海底探査、掘削の経験と知見を生かし、洋上風力発電に関する事業に注力しており、その一環としてオランダのTWD B.V.(以下、TWD)と戦略的アライアンスを結んでいる。TWDは洋上風車などの建設のための特殊大型治具(Pile Gripper、立て起こし機、Lifting Tool、各種架台、Jacketの抗用のTemplateなど)の設計を行っている。この分野ではTWDはリーディングカンパニーであり、国内外で業界での知名度は高い。2022年1月には、(株)TWD Japanを設立した。同社は設計だけではなく、その設計に基づく製作にも携わり、将来的には保守・メンテナンスサービスへの事業展開を目論んでいる。同社は、設計・製作段階から運営・メンテナンスまで関われば、洋上風力風車に関する経験・ノウハウが蓄積できると考えている。また、TWD Japan関連以外にも洋上風力分野の調査からメンテナンス用まで製品の品揃え(海上特殊タラップシステム、メンテナンス用水中探査/作業ロボット)を拡充しており、引き合いもあるようだ。
洋上風力発電関連事業では、「再エネ利用法海域利用法にかかるプロジェクト」と「港湾プロジェクト」の有望案件のなかから、国内のマリコン※やゼネコンと連携して受注活動を進めている。
※ マリコンはマリンコントラクターの略で、五洋建設<1893>や東亜建設工業<1885>などが有名。
「港湾プロジェクト」は港内に小型洋上風力発電を建設するプロジェクトである。同社では「富山県入善町沖」案件を2023年3月期に受注・納入済みである。それ以外の案件(福岡県北九州港内、茨城県鹿島港内など)も設計及び制作物の受注を目指し積極的に活動している。「港湾プロジェクト」は風車規模が小さいが、受注までのスピードが早く、短期の受注に期待がかかる。
「再エネ利用法海域利用法にかかるプロジェクト」は大型洋上風力発電である。取引関係者が多様かつ複雑で、地元住民や漁業関係者との調整に時間を要し、受注まで時間がかかる。「港湾プロジェクト」案件を確実に受注しながら実績を積み重ね、「再エネ利用法海域利用法にかかるプロジェクト」の大型案件の獲得を目指す。「再エネ海域利用法にかかるプロジェクト」では洋上風力発電事業者の選定が行われてきた。ラウンド1(秋田県能代市・三種町及び男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖の3海域で公募、2021年12月発表)とも三菱商事<8058>グループが圧倒的低価格で“総取り”落札した。ラウンド2※(秋田県八峰町及び能代市沖、秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖、新潟県村上市及び胎内市沖、長崎県西海市江島沖の4海域で公募、2024年3月発表)では、12事業者応募のなかから“運転開始時期の最も早い”4事業者が選定された。TWD Japanには、ラウンド2、3案件について、大手ゼネコン・マリコンから数多くの引き合いや問い合わせがあり本格的受注活動が始まっている。
※ 第1ラウンドの“総取り”落札の反省から1つの事業体が大半の対象海域を落札しないよう、1事業体あたりの発電・送電容量の上限を計100万kWとする落札制限を設けていた。この影響もあって、環境影響評価を事前に実施したにも関わらず、公募参加を見送る事業体が相次いだようである。
このような不確定要素が多い事業環境ではあるが、洋上風力発電関連事業は国内・海外問わず市場は大きく成長すると予測され、同社にとって絶好の事業機会と言える。当初の事業計画より2年遅れているが、2026年3月期には売上高5億円を見込んでいる。
TWD Japanの商圏は当面、日本・東アジア(台湾)となるが、まずは日本で事業基盤を強化する予定である。洋上風力発電関連事業ではTWD以外にも様々な種まきを行っているもようで、第2弾、第3弾の事業シナリオも注目したい。
2) 産業向けDX・IoT分野:自動運転システム関連事業
同社は、大手鉄鋼メーカーによる「製鉄所構内で運行する特殊車両を自動運転にできないか」という依頼を機に、製鉄所での構内用特殊車両の自動運転システムの商用化に乗り出した。同社はこれまで、工場向けIoT機器や構内自動運転機関車の開発に取り組んできた。その知見を生かし、自動車試験システムのトップサプライヤーである英国AB Dynamicsグループと、工場構内を走行する現行特殊車両向け障害物検知機能組込み自動運転システムの開発において、パートナーシップ協定を締結した。現時点では、既存車両を改造した自動運転(無人化)の商用化を目指している。
構内用特殊車両の自動運転システムの英国での実走試験と国内デモでは顧客の評価も高く、早期の受注を見込む。当初は製鉄所や化学プラント工場の構内での利用を想定していたが、鉱山現場からの引き合いもあるようだ。現在、顧客企業での実証実験が進められている。技術的課題は解決しているものの、安全運行のルールや基準などで難航しており、実用化までにはもう少し時間がかかりそうだ。
構内用特殊車両の「完全自動運転」を実現するにはあと5~6年はかかると大手鉄鋼メーカーは見ているようで、同社ではアドオン(改造)型自動運転システムは、当分の間(10~15年間)ビジネスになると考えている。特殊車両は大型かつ高額設備で、現稼働車両は償却期間が相当残っているため、一斉に完全自動運転の特殊車両に切り替わることは考えにくい。同社は、その期間に特殊車両の完全自動運転の知見を習得し、完全自動運転に切り替わる頃には市場をリードしていきたいと考えている。
構内用特殊車両の自動運転システム関連事業は、3年以内に本格的事業化を目指している。同社は今後、特殊車両のドライバーの高齢化で自動運転ニーズはますます高まると見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
《HN》
株探ニュース