激増する外国人観光客、新緑の季節「民泊関連株」に再びの喧騒 <株探トップ特集>
―日本独自の「カプセルホテル」に「ネットカフェ」、インバウンド需要捉え飛躍へ―
外国人観光客の増加が止まらない。日本政府観光局が4月に発表した3月の訪日外客数は308万1600人となり、単月として初めて300万人を突破した。4月の訪日外客数は今週15日に発表されるが、その内容にも注目が集まる。ただ、歴史的な円安状況にあっても、低価格志向の外国人観光客は多い。コロナ禍前の2019年頃、 インバウンド需要の高まりを背景に注目を集めたのが、手ごろな価格で宿泊ができる「民泊」だった。コロナ禍を経て再び訪日客が爆発的増加をみせるなか、低コストで宿泊ができる民泊やカプセルホテル周辺の銘柄は、現在どうなっているのだろうか。関連株のいまを追った。
●コロナ禍で事業譲渡や撤退相次ぐ
18年6月、いわゆる「民泊新法」が施行されたことで、株式市場でも民泊関連株にスポットライトが当たった。民泊とは、明確な法令上の定義はないが、住宅の全部または一部を活用することで、旅行者などに宿泊サービスを提供することを指し、訪日客が増加するなか多様なニーズに応える形で多くの企業が参入した。また、比較的低価格で宿泊できる日本独自のカプセルホテルやインターネットカフェも訪日客需要を取り込み、関連銘柄に投資家の視線を向かわせた。
本格的に民泊需要が拡大しようとした矢先、インバウンド消費は突如終わりを告げる。20年に入ると新型コロナウイルスの感染拡大により、世界の人的交流がストップした。日本も海外から「鎖国」と揶揄(やゆ)されるほどの厳しい入国制限をとったことで経済は麻痺し、当然のことながら観光事業は壊滅的ともいえる状況に陥った。観光業界が苦境に喘ぐなか、鳴り物入りで民泊に新規参入した企業も、事業譲渡や撤退が相次ぐ状態に。いつしか、民泊関連株の存在は株式市場から忘れ去られることになった。
●住宅宿泊事業の届出住宅数は過去最高
しかし、ここにきて急速に風向きが変わっている。コロナ禍を経てインバウンド需要が復活したことで、再び民泊などリーズナブルな宿泊施設に注目が集まり始めた。企業も旺盛な民泊需要を捉えるべく再び動き出している。
直近ではアエリア <3758> [東証S]が4月16日取引終了後、連結子会社のトータルマネージメントとTwistが、国内及び訪日外国人旅行者向け大阪市特区の民泊施設「エポックイン心斎橋」を3月25日にオープンしたと発表。同施設は、トータルマネージメントが取得・改装し、Twistが運営を請け負っている。トータルマネージメントはエポックイン心斎橋の販売を予定しており、Twistとともに収益性の高い物件になるよう取り組む方針だ。オープン直後から、高い稼働率となっている模様。株価は、翌17日にはこれを好感する形で動意しており、投資家の民泊に対する関心の高さをうかがわせるものとなった。
観光庁の今年3月15日時点での「住宅宿泊事業届出住宅数等推移」からも、民泊事業の復活が見えてくる。住宅宿泊事業の届出住宅数は、前回の1月15日に比べ973件増の2万3142件となっており、増加傾向が鮮明だ。コロナ禍では1万8000件付近で推移していたが、23年に入り上昇に転じ、届出住宅数で最高だった20年4月の2万1385件を上回った。昨年12月から今年1月までの2カ月間の宿泊者の国籍別内訳は、日本国籍を有する者が13万5152人(全体の51.0%)、外国人が12万9803人(同49.0%)と拮抗しており、訪日客だけではなく国内旅行客の受け皿にもなっていることが分かる。ホテルなど一般的な宿泊施設の料金高騰が伝わるなか、比較的リーズナブルともいわれる民泊の需要は今後一層高まりをみせることになりそうだ。
●三菱HCキャ、アズ企画設計はmatsuriとタッグ
こうしたなか、さまざまな企業が民泊事業に食指を動かしている。リース大手の三菱HCキャピタル <8593> [東証P]は2月、民泊事業を手掛けるmatsuri technologies(東京都新宿区)と、資本・業務提携契約を締結したと発表した。matsuri社が開発した不動産DX(デジタルトランスフォーメーション)システムを活用することで、宿泊施設における業務効率の向上や省人化を実現。民泊、短期賃貸などを対象とした宿泊管理システムによる完全非対面・遠隔での施設運営、更には、マッチングシステムによる清掃員の確保などを可能とするとしている。
収益不動産を展開するアズ企画設計 <3490> [東証S]も、同月にmatsuri社への出資及び業務提携を発表。アズ企画設計はこれまでもmatsuri社と取引があり、今回の業務提携により、更に関係を強化するという。アズ企画設計が保有する物件の民泊への転用検討や、matsuri社のソリューションを導入した賃貸住宅を投資対象とした不動産ファンドへの組み入れ検討などを想定しているという。業績も好調だ。同社が4月12日に発表した、25年2月期通期の連結業績予想は、営業利益段階で前期比22.0%増の8億1000万円を見込み、2期連続で過去最高益を更新する見通しだ。
そのほかの民泊関連銘柄では、小規模・民泊施設向け複数施設一括管理システム「手間いらずmini」を手掛ける手間いらず <2477> [東証S]、予約サイトの「エアトリ民泊」を運営するエアトリ <6191> [東証P]、民泊・簡易宿所などで活用されるスマートロック「RemoteLOCK」の国内独占的販売権を有し、国内総代理店として販売・サービスを提供する構造計画研究所 <4748> [東証S]にも目を配っておきたい。
●DDグループ、CVSベイ、AOKIHD
また、簡易的な宿泊施設のカプセルホテルや宿泊可能なネットカフェにも注目したい。日本独自に発展したもので、現在では外国人観光客の間でも人気が高まっている。カプセルホテルについては、当初あまりの狭さに拒否反応もあったようだが、現在では自国にはない非日常的な宿泊体験を求め人気が出ているという。
「わらやき屋」をはじめ複数の飲食店を展開するDDグループ <3073> [東証P]は、2月に子会社のダイヤモンドダイニングが、コンパクトホテルを全国展開するファーストキャビンHD(東京都港区)とパートナー契約を結び、20年4月から休業していたカプセルホテルの「グランジット秋葉原」と「グランジット京都河原町」の運営を委託し営業を再開した。洗練されたワンランク上のカプセルホテルを提供する。DDグループの25年2月期の連結営業利益は前期比7.9%増の35億円を計画し2期連続で最高益を更新する見込み。4月19日には、中期経営計画の修正を発表、26年2月期の営業利益目標を従来の28億円から40億円に大幅増額した。
シー・ヴイ・エス・ベイエリア <2687> [東証S]は千葉、東京湾岸でホテルの運営やマンションのフロント事業などを行っており、カプセルホテル(スマートホテル)も2施設展開。そのうち「秋葉原BAY HOTEL」は、女性専用ホテルで新たな客層の開拓にも余念がない。4月12日取引終了後に発表した25年2月期連結営業利益は前期比28.4%減の3億4800万円となる見通しを示した。これを受け週明け15日は、株価が急落。現在も安値圏でもみ合うが、拡大するインバウンド需要を背景に活躍期待も。
紳士服大手のAOKIホールディングス <8214> [東証P]は、複合カフェの「快活CLUB」に注力している。出店攻勢をかけるとともに、全席鍵付完全個室店舗の拡大や、より快適に利用するための店内改装を実施し商機を捉えている。また、傘下のランシステム <3326> [東証S]は、複合カフェ「自遊空間」を展開しており、AOKIHDが運営する同業態の快活CLUBとの相乗効果を図っている点もポイントだ。同社は前週末10日取引終了後に25年3月期の連結業績予想を発表。営業利益は前期比8.2%増の150億円を計画、4期連続の増益となり、コロナ禍からの回復を鮮明にしている。
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